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伊賀忍者・城戸弥左衛門の冒険  作者: リキ
忍者異世界道中記
16/21

15 追われる者達

地の文の記述を変更しました(2018/08/28)


ルイス(弥左衛門)が弥左衛門に統一されます。

「何があった! クヴァルは!?」


 スヴァローグは弥左衛門ルイスに詰め寄り、胸ぐらを掴んだ。


(さら)われた、相手の正体は分からん、人数は五人、突然消えた」


 弥左衛門はスヴァローグの手もそのままに、端的に事実だけを述べる。


「き、消えただと……」


「時が惜しい、とにかく俺が追う 任せろ」


 弥左衛門はそう言うと、自身の胸を掴むスヴァローグの手を掴んで下ろした。


「追うだと! 消えた人間をどうやって追う! 相手は魔法使う奴等だぞ 相手の正体がわかっているのか!?」


 ペイガンが横から忿怒の様相で、弥左衛門の肩を掴もうとしたが、弥左衛門はその腕をヒラリと交わすと、突然壁を蹴り、屋根に飛び乗った。スヴァローグたちはその身の軽さに驚きの声をあげる。

 弥左衛門は屋根の上から周囲をざっと見渡すと、自身が次に移動するべき場所に当たりをつける。


(ここからでは視界が通らん、……あの塔の上だな)


「スヴァローグ 兎に角、俺に任せてもらおう」


「奴らが誰か知ってるのか! 攫った理由は! どこに行くつもりか……」


「知らぬ 謎解きをするつもりは、ない」


 弥左衛門がそう言い放ち、屋根伝いに一気に塔まで行こうとした時、スヴァローグが下から大声を出した。


「心当たりがある! "ネイボッブ商会"だ! 手がかりが無くなったら思い出せ!」


 弥左衛門は一つ頷くと、屋根伝いに疾走し、あっという間に闇に溶け見えなくなった。


「頼んだぜぇ……」


 スヴァローグは祈るように闇に溶けていったその背中に呟いた。


 ーー


 消えた人間を闇雲に探すと言うのは悪手である。


 しかし、忍者にそのような常識は当てはまらない。彼らは追跡者としても超一流のプロフェッショナルなのだ。猟犬のように獲物の匂いを嗅ぎ取り、僅かな痕跡を見逃さず、逃亡者の心理を読み尽くし、絶対に追い殺す。


 今の彼にとって最大の敵は時である。捜査の初動が重要なように、追跡に関しても時は”逃亡者”の味方をする。屋根の上を疾走しながら弥左衛門は強い口調で何者かに話しかけた。


「とっとと起きろ」


『……』


「起きぬとあれば、お主の明日はふんどしか雑巾になると心得よ」


『ぶるぅぁぁああああ!!っざけんなゴラァ!!今まで完全(かんっぜんっ)に無視してたクセに、何眠たい事抜かしとるんじゃぁああ!』


 姿の見えない何者かが弥左衛門に返答する。ただし、それは弥左衛門の頭の中に響くだけなのだが。その声の主は例の遺跡で見つけた自称(・・)古代王国期の秘宝であり、聖遺物である外套(マント)であった。否、正確にはかつて外套(マント)あった(・・・)ものなのだが、今は弥左衛門の手により手甲、脚絆、忍頭巾(しのびずきん)腹帯(はらおび)とバラバラにされ活用されている。


「ふむ、お主が西国出身とは思わなかったぞ、堺か、摂津か、河内か?」


『私の方言はどっうでもいいのよっ!あんたの頭の中の語彙(ごい)を使って私の怒りを表してるんだから!!』


「で、”布”よ、人をまとめて消し去る魔法を知っているか? おそらく一瞬で人を遠くへ運ぶようなものだと思われる そのような魔法があるか?」


『……』


「布……」


『モコーシャ! 二度と”布”なんて呼ばないで! 私は女神の名を冠する秘宝モコーシャなの!』


(異国では、布に名前があるのか……)


 弥左衛門にとっては衝撃の事実であった。


「で、もこーしゃ(・・・・・)よ、先の質問だが、」


『あるわよ! 魔法舐めんじゃないわよ! 私だって本来なら姿を消すとか、空を飛ぶとか……(ブツブツ)』


「雑巾」


『わかったわよ! あんたって本当に性格悪いわぁ、もうびっくりよ……奴らの使った魔法でしょ? 知ってるわよ見てたから』


「……見ていた?」


『あーもう、はいはい 見える見える 正確にはあんたと感覚共有してんのよ あんたが見たものは見えるし、聞いたものは聞こえるの! で、聞きたいのは魔法のことでしょ』


「左様、知りたいのはどこまで移動できるかだ」


『人を瞬間的に移動させる魔法はいくつかあるわ、距離でいうなら無制限のものまでね。そういうテレポート系の魔法を使われてたらどこに飛ばれるかは正直分からない、お手上げだわ。

 でも安心しなさいな、彼らは一人しか呪文を行使していないのに、次元門ゲートも出さずに全員転移させたんだから、おそらく、ディメンジョン系の魔法 結論を言えば距離は最大でも数百メートルよ、この街のどこかに間違いないわ』


「魔法の話は正直分からんが、それは重畳(ちょうじょう) 絶対に逃がさん!」


 弥左衛門の決意が語気強く響いた


『ひゅーひゅー! なになに? お姫様を助けに行く王子様! ねぇ王子様なの?』


「話を聞いてなかったのか? 救い出すのは男だ」


『何それー! ありっ! 大アリよっ! 萌えるわ!!』


 何故か、モコーシャが急にやる気を出してきた。


 弥左衛門は腹帯にしていたモコーシャをしゅるりと引き抜くと、走る速度も落とさず器用に忍頭巾を巻いていった。


ーー


 夜の街の中空を、ひとつの影が人知れず舞っていた頃、誘拐犯一行は街に唯一流れる川の(ほと)りに来ていた。一行が転移したのは人気の無い、街の外れの水門小屋である。この水門から伸びる水路は街の中を縦横に流れており、予定では、このまま夜陰に紛れて川の中(・・・)を進む予定であった。水の中を進めば人目につきにくく、匂いも途絶え、猟犬などの対策にもなる。

 しかし、思いがけず負傷者が出たため、治療の時間をとっているのだった。


(いっ)つー、 あいつ躊躇(ちゅうちょ)なく殺しにきやがったよ! 殺す、今度あったら絶対に殺す! もうアタシの"殺すリスト"のトップよ!トップランカーよ!」


 川の水に浸した手ぬぐいで傷口を押さえながら、フードの下から露わになったのは赤毛の髪の女性だった。浅黒い南方系の肌をした目鼻立ちのくっきりとした美女である。複数のアクセサリーと化粧のおかげで実年齢が分かりづらいが三十路には達していないだろう。一行の中では最も体格が良く発育も良いが決して太っているわけではない。


「トップランカーは意味が違う」


 赤毛の女性の悪態に冷静に返すのは黄金色の髪の少女。彼女もフードをおろし、今は顔を露わにしている。その表情は無表情と言った風情で、首からさる神殿のシンボルのついた首飾りを下げ、赤毛の女性を魔法で治療していた。彼女の手のひらから暖かい光が放たれ、赤毛の女性の傷口が塞がって行く。


「うっさいわね!とにかく最優先事項よ!」


 赤毛の女性が治療されながら文句を言うと、


「リタ、それも違うわよ 私たちの最優先事項はこの荷物をクライアントに届けること」


 一行のリーダーと思しき女性が横から口を出す。彼女もフードを肩まで下げ月光を映して輝くブラウンの長い髪を耳にかきあげていた。


「分かってるよエヴァ しかし何で魔術師(ウィザード)の私が、男を抱えてなきゃいけないのよ!おかしいでしょ!」


「リタが一番の力持ち、おめでとう」


「めでたくないわ!」


「でもあの男はヤバかったねぇ、ボクと同じ匂いがする」


 エヴァと同じ色の髪を短く刈りそろえた、少年の様な風情の少女が右手でナイフを弄びながら愉しそうに言う。まだそばかすの残るその面影は、多分に幼さが残っていた。


「・・・・・」

 

 その言葉に最後の一人はフードも取らずに無言でコクリと頷いた。


 彼女達は、転移魔法"ディメンジョン・ドア"の発動直前に遭遇した男を思い出した。彼女達の豊富な経験が警鐘を鳴らす。あの男と戦うのは命がけだと。


「とにかく、あいつが何者でも転移した私達を捕捉することは出来ないはずよ 予定通り行くわ」


 エヴァが彼女達に声をかけた。


 彼女達は冒険者と呼ばれるグループの中でも、いわゆる「掃除屋(スカベンジャー)」と呼ばれる種類の者達である。

 掃除屋(スカベンジャー)とは冒険者ギルドに所属する冒険者ではなく、闇の仕事を専門に引き受ける者達を指す言葉だ。まともな人間からは軽蔑されるが、裏社会の人間には重宝される。報酬次第で今回のような誘拐や暗殺も平気で引き受ける。


「それにしても、こいつ本当に男かよ? きゃああ、とか悲鳴あげてたぜ? 情けねぇ」


 リタが、後ろ手に縛り上げたクヴァルを足蹴にする。しかしまだ、クヴァルは気を失ったままだ。


「嫉妬? 確かにこの子、リタの100倍くらい美人」


 先程、リタを治療していた神官の少女が辛辣な言葉を投げる。


「ローレン、そりゃアタシに喧嘩売ってるんだよなぁ?」


 リタは指をパキパキ鳴らしながらローレンににじりよる。一方のローレンはため息をつきながら、ぼそっと一言呟く。


「ふぅー、おばさん(・・・・)は余裕がない 仕方ない」


「よーし!死んだぞ、てめぇ!」


「よしなさい、ローレンもよ 今は一刻も……」


 エヴァがそう言いかけた時、バッと短髪の少女が急に腰を屈め短剣を身構えた。その動作を合図に瞬時にそれぞれが武器を構え迎撃態勢に入る。エヴァが警戒しながら少女に尋ねる。


「敵?」


「わかんない、すっごい気持ち悪い……まるで空気を丸ごと毒にされた様な気配 うまく言えないけどここにいたくない」


「ジニーの勘には従うべき」


 ローレンが同意する。


「周囲に敵はいないねぇ 魔法で調べられる範囲だけどね」


 とっさに魔法を唱えていたリタが結果を伝える。


「すぐに移動するわ、みんなリタの魔法を受け入れて」


 エヴァの言葉に、皆順番にリタの"ウォーター・ブリージング"の魔法を受け入れて行く。


「アタシの魔法はきっかり2時間しか持たないからね、それにこれで呪文は品切れだと思ってよ 戦闘になっても支援はできないからね」


「後はエンゲージポイントまで移動するだけ、楽勝だって」


「いつも通り」


 彼女達は言葉を交わしながら水中に身を沈めて行った。彼女達にかけられた魔法は水中での呼吸を可能にする。水の底を歩いて移動する彼女達を見咎めるものはいない、匂いを頼りに追う猟犬であっても彼女達を追うことは不可能だ。


 ただ、彼女達は知らない。追っているのは猟犬よりも尚恐ろしい存在だと言うことを。

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