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伊賀忍者・城戸弥左衛門の冒険  作者: リキ
プロローグ
1/21

1 最強の忍者

元は舞台用台本でしたが、構想が大きくなりすぎてしまいました。

小説にしてみたいと思います。

今後ともよろしくお願いします。

 ーー時は戦乱


 日の本(ひのもと)の覇権を競わんと、英雄、奸雄と呼ばれた戦国武将たちが(いくさ)に明け暮れていた時代。戦いの余波は無辜(むこ)の民にまで及んでいた。


 (いくさ)のたびに農民は兵士として借り出され、その多くは帰らぬ人となっていく。田畑は焼かれ、踏み荒らされ、食べ物は奪われる。


 弱肉強食のこの世の(おきて)そのまま……


 しかし、弱者が弱者のままで終わらないのもまた戦乱の常である。


 戦に駆り出され、戦うことを覚えた農民は結束し、領主に反抗する組織を形成する。


 自ら生きる為、虐げられぬ存在となる為、彼らは筆舌に尽くしがたい訓練の末、領主さえ手出しできぬ戦闘集団となった。


 -最早、彼らは弱者ではない。


 自らを守る為、また、報酬を得る為、修羅の道を進む。攻めるに(かた)い山中に居を構え、特殊な武器防具、格闘技、薬品、火薬や銃に至るまで使いこなす異能の戦闘集団となった。


 人々は彼らを恐れを込めてこう呼んだ……


 ー 忍者 ー



 音羽(おとわ)村は山あいの集落であり、およそ200名ほどの人びとが生活を営んでいる。村から伸びる間道はどれも狭く、冬は雪が道を閉ざす、さながら陸の孤島のような村である。


 今、ようやく山の厳しい冬が終わり、人々の顔にも笑顔が戻りつつあった。


「やあっと、ちっと(あった)かくなってきよったわ」


「あぁ、田植えの準備が始められるのう、今年は(こよみ)ん通りに行けばええがの」


 往来でそんな声が聞こえる村の中を、一人の男が悠々と歩く。


 年の頃は二十代半ば、艶やかな黒髪を総髪に束ねている美丈夫だ。たっつけ袴(裁着袴)に帯刀をしているが武士のような打刀ではなく、小太刀を背側の腰に適当に突っ込むように差し込んでいる。


 (そで)から右腕を出さず、襟元から出した手で(あご)をしきりに触りながら、目線はぼんやりとはるか山の上の雲を眺めている。


 緊張感のない穏やかな雰囲気を漂わせながらも、いわゆる絵になる男である。


「若!ご機嫌麗しゅう!」


「若様! また今度うちによってくださいな!」


 男に気づいた村の人々から声がかかると、男はニコリと手を振って軽く答える。遠くからでも人を惹き付けるその独特な雰囲気は、「忍者」としては目立ちすぎるという欠点だ。


 しかし村の者は子供でも知っている。


 一度(ひとたび)戦場に出れば神出鬼没、気配を悟らせず相手を(ほふ)る事にかけて彼の右に出る者はない事を。


 その名は、城戸弥左衛門(きどやざえもん) 


 「音羽の城戸」と世に聞こえし、日の本(ひのもと)最高の忍者の一人である。


--


「頭領、弥左エ門 只今(まか)り越して候」


 平伏し深々と頭をさげる城戸に対し、上座に座る男が鷹揚(おうよう)に「うむ」と頷く。このやりとりだけを見ると、まるで殿様に謁見する家臣のようである。しかし


 -半農半士


 平時は農民として、有事には兵士として戦う彼ら忍者の上下関係は、武士の主従関係と異なるモノである。

 身分としては「上忍」、「中忍」、「下忍」とはっきりと分かれており明確な序列が存在する。上位命令は絶対であり、死すら受け入れる。ただし、そこにあるのは上位者に対する忠義ではない。それはプロフェッショナルとしての矜持(きょうじ)であり、現代のスペシャルタスクフォースの指揮官と兵士の関係と考えればわかりやすい。


「よく来たな!弥左エ門。堅苦しいのはいらん。顔をあげ、足を崩すが良い」


 上座に座っているのは一人の老人であった。齢六十を少し超えた辺りか?頭髪は真っ白で、背中は猫背に丸くなっており、毛皮を羽織ったその姿はまるで一匹の大猿(おおましら)ようだ。

その眼光は獲物を狩る獣の如く、見るものを射竦(いすく)める。


 - 名を音羽半六(おとわはんろく)という ー


 この音羽村の忍者の頂点、「頭領(とうりょう)」である。


「急に呼び出して悪かったのぉ、ちと急ぎの用でな」


「仕事……ですな?」


 城戸弥左衛門はここにくる途中から、その用件を推測していた。おそらくこの急な呼び出しは(しのび)としての仕事であろうと。

 そして、この情勢下での仕事の相手(ターゲット)といえば、一人しか思いつかぬ……目を閉じれば浮かんでくるあの馬上の姿、あの顔……


「左様(なり)、さすが察しておるの」


 半六は仕事の内容、そしてそのターゲットとなる人物を城戸弥左衛門が正確に想像している事を見抜いた。


「… …魔王」


 城戸弥左衛門はいつもと違うギラッとした目で、一言そう呟いた。



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