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ガーディアン戦で負けたルート。救出が間に合わなくなる。
本来の歴史ルート&啓区存在消失で遺跡攻略失敗ルートの場合。共通。
たぶんメンタルブレイクします。
『バッドエンド』
アレイス邸からの救出は間に合わなかった。
人形のように意思を奪われてしまった彼女は、友の元に引き取られていったが、城の襲撃の後に行方が分からなくなっていた。
フォルト・アレイス。
古戸零種は後悔に沈んでいた。
終わりへと進んで行く世界の中を、零種は各地にある別荘を当てに使いながら情報を集めたていたが、明星の真光の彼等の足取りは掴めないままだった。
その日もいつもの様に、情報の無さを嘆いていた時だった。
まさに探していたその人が家に尋ねてきたのだ。
嵐の夜。騒がしい様子の窓の外の喧騒など耳に入ってこなかった。
どうしてここに、という疑問は置いて、ひとまず彼女を家の中に招き入れる。
無事だった。生きていた。
その事が何よりも嬉しかった。
失われて、もう二度と戻らないものだとばかりに思っていたから、なおさらだろう。
「風邪をひいてはいけない。中に入りなさい」
タオルを用意して、着替えを用意して、温かい食事を作って。
「心配する事はない。君の知り合いに連絡がつくように、こちらでしよう。今はゆっくり体を休めるといい」
用意した食事に見向きもせずに、碌に体についた水滴をぬぐいもせずに立っていた、
彼女はそれだけを求めた。
「日記を……」
「……?」
「読んでほしい」
それよりもまず、食事を採って体を温める事が先決だと言っても同じ事を繰り返すだけ。
零種は甘い。人の親にはなれないだろう。
結局折れて、その場所へ少女を案内した。
隠れ家の中の、さらに隠された部屋の中。
フォルトの大事な本を、本棚から生き抜いた。
「ああ、あった。これだ。なつかしい」
あの日々が少女にとって苦痛な物でなかったのなら幸いだと、そう思いながら振り返れば、腹部に鋭い痛みが走った。
「な、あ……」
赤い血が滴る。零種は刺されたのだ、迎え入れた少女に。そして、本は奪われた。
「やあ、様子を見に来てあげたけど、守備はどうだい」
そこに、影がやって来る。
少女は零種から奪った本をその影へと、何の抵抗もなく明け渡した。
「本を」
「偉い偉い、ちゃんと回収できたようだね」
隠れ家に現れた少年、その者の名前は知っている。
「砂粒…」
「ああ、君まだ生きてたんだね」
屋敷にいた怪しげな者達が雇った少年だった。
「彼女に何をした」
「心外だな、害を成した記憶はないよ。害って言うのは、損なわれる物があって初めて害って言うんだけど。彼女は何の益もない人間だっただろう。ほらそこら辺に落ちているゴミを蹴飛ばしたところで、害を成したとは言えないじゃないか、それと同じさ」
相変わらず口がよく回る。
彼の事は元からあまり好きではなかった。
むしろ嫌悪していたとも言っていい
あまり人に関心を示さない零種にしては珍しく。
きっと、おそらく未来永劫好く事のない人間だろうと、断言できる。
「仮に僕が彼女に害を成したとしても、何の罪もない人間を自分の都合の良い人形にしようとしていた君に言われたくないな」
「……っ」
棚上げするなよ、とそう言われる。
その通りだ。零種に正義を振りかざす権利はない。
しかし、それでも守らなければならないものがあった。
「ま、て」
去りゆく背中に追いすがる。
零れる深紅の命を無視して。
もう、失うわけにはいかないのだ。
「彼女を解放しろ」
「しつこい人間は好きじゃない」
砂粒が視線で合図を出せば、彼女がこちらにもう一度持っていたナイフを振りかざした。
零種は貧弱だった。弓を持つ以外、碌に戦うすべを持たないのだから。
「!っ」
砂粒は、床に倒れたこちらを一瞥して、去っていく。
行かせてはならない。そう思っていても体が重い。
思うように動かない。
「ま…て」
「ああ、そうそういつか君に言わなきゃって思ってた事があるんだけど、日鳥春と日鳥風夏の居場所を、神様頼みが趣味らしい彼等に教えたのは僕なんだよ」
もたらされた情報に、思考が白く染まる。
大事な者達の名前が出て、その者にどうしたと彼は言ったのか。
「ほら、一時とはいえ同じ組織に身をおいて肩を並べあった仲間だったからね。隠し事はなくすべきだと思ってさ。まあ、次に同じ場所に立つ事なんてそんな機会は、こないだろうけど」
「……っ、貴様がぁぁぁ……っ!」
上げた絶叫は、三度目の凶刃にかき消された。