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「古戸零種」
零種が住んでいた所は昔から、よく人が消えたり災いが起こる場所だった。
昔から住んでいる者達はその災いを防ぐために、人為的に神隠しを起こし、災いを起こしているだろうとされる神へ供物をささげる事で生きてきた。
その話は他人事などではない。
なぜなら、零種はその供物……生贄に選ばれてしまったからだ。
理由などは特に聞かなかったが、おそらくは災いに対する考えが彼等と違っていたからだけだろう。
彼等に付き合って供物にされるわけにもいかないので、逃げようとしたのだが、そんな零種の為に立ちあがる者達がいた。
それは、日鳥春と日鳥風夏という、二人の人間を筆頭にする小さな団体だった。
所詮災いにまつわる事は迷信に過ぎない。と、いう彼等の訴えの行動のおかげで零種の身辺に不穏な影が近づいてくる事はなくなった。
零種の故郷は変わっていくと思った。
けれど、そんな変化もつかの間。
今度は日鳥の者達が生贄の候補に挙がり、付け狙われる事になってしまった。
行動は徐々にエスカレートし、彼らは逃亡生活を送る事を余儀なくされた。
その最中に授かった子供は彼等にとって希望だったらしいが、それも資金不足による経済の不安や今も付け狙ってくる彼らの存在を考えて手放さざるを得なくなった。
零種が引き取ろうかと申し出た事もあったが、結局一度狙われた事があると言う事で施設へ預ける事になったのだ。
場所は、地元の町の公園近く。その施設の前。
祭りが行われている賑やかしい夜の事だった。
彼らはそこで長くない別れの時間を過ごしたらしい。
それからいくばくかの月日が流れる。
日鳥の者達と連絡が取れなくなり、零種は彼等に捕まってしまった。
そこで、なじみのある地元に人間に聞かされた事は予測通り。
二人の安否を問えば、生贄に捧げられたという言葉だけだった。
それは命の恩人に、永遠に会えなくなってしまった瞬間だった。
せめてもの恩返しに、子供の成長を確認したかったがそれもおそらく叶わない。
願わくば。その子が自分達の関係者と知られる事なく、平穏に……幸せに生きられるように。
ただ願う事しかできなかった。