4.我が家
神の能力を持った一乃に連れられた一室、それは神の家というにはとてつもなく貧相な、マンションの一室だった。
「ここが一乃の家?」
「そうよ」
一乃は私の質問に素っ気なく返しながら、タイトスカートのポケットから鍵を取り出し、扉を開ける。
...今の一連の動き、すごいOLっぽいなー
「どうぞ入って」
「・・・失礼しまーす」
!!
なんて家なんだ!
野原だ!!!広い!!!外から見たときとのギャップがすげぇ!!!!
そして、ツッコミどころとして、テレビと机しかねぇ!!!
しかも、そのテレビ、めちゃくちゃデカイ!!!
「適当なところにソファでも作って腰かけておいて。」
「あっはい」
そうだった、私、天使だった
私、適応力が高い所為か人間の常識をいち早く仕入れてしまったみたいで
「ソファ作って」の一言と広すぎる部屋に驚いてしまった。きっとこれは神の日常なんだ。
...よく考えたら服も作ればよかったじゃん
一乃が部屋入ってすぐに、クローゼットを召喚して着替え始める
私は一応見えないような角度でソファを作って、そこに腰かける。
ドン!
「いって!」
どうやら作ったソファが堅かったようだ、形ばっかで、もはやこれは鉄の塊だ。
「あ、そうだ、あなたの輪を取った時、あなたに『人間としての常識』を与えたわ」
「...それってあなたが一番持ってなきゃいけない気がするんだけど。」
「私はいいのよ、神だし」
ひどい理論である。
言っちゃ悪いが、ここは『常識のない空間』である。
まず普通、マンションの床はフローリングが敷かれてるのが普通だが、この部屋は床が野原になってしまっている。
野花とか咲きまくりだし、風が吹いて少し心地よい...じゃない非常識だ。
そしてテレビだが、そこに浮いてしまっている。
テレビはサイズで言うなら東京タワーくらいな大きさがある。
テレビがそんなにデカいので、当然遠く、ずいぶん遠くに設置されて...浮いている。
落ち着いてテレビを見れるように、ソファを柔らかくして、座ってみる。
...今度はすごい気持ち悪い柔らかさだ、まるでスライムみたいにグチョグチョだ。
表面を布にして、もう少し固くしてみる、今度はうまくいったようだ。
「ふぅ...」
ようやく落ち着ける、さっきから飛んだり跳ねたりで忙しかったから、このソファのやわらかさが心地いい。
「随分ソファ一つ作るのに苦労したようね」
「誰の所為だ!」
そう、天界ではこんなソファ、すぐに作れてしまうのだ。それが、一乃が与えたという『人間としての常識』の所為ですぐには作れなくなってしまったのだ。
「多分今は苦労するだろうけど、人間界に馴染むのに、その常識は役に立つハズよ。」
確かに、その通りである。だけど...
「私が気に入らないのは、一乃みたいな非常識な人間に常識を教わる事なのよ!」
「あら、私は非常識な『神』よ」
「うるさい!」
「...まぁ、とりあえず、あなたに名前を与えようと思うわ」
言われてみれば、自分に名前なんて付けなかった、天使だった時も特段必要ではなかったし。
天使は言葉を使わないので、自己と他人を区別する必要がなかったのだ。
...しかし顔の知れた人、いや神に名前を付けてもらうなんてもどかしいなぁ...
「そうね、あなたは天使だから『神田エンゼル』よ」
「え?」
...一乃の安直すぎるネーミングセンスに驚いてしまう私、無理もないよね。
「いや、ちょっとまって、それ人の名前?」
「失礼ね、エンゼルは外人っぽく見えるから、これくらいのが自然よ。」
「早速その名前で呼ぶの?え?」
しかし、確かに外人なのでカタカナを使う名前というのはかなり理想的かもしれない。
うーん、自分でも思い浮かばないし、それでいっか
「...わかったわ、それでいい」
「素直でよろしい」
ちょっとドヤ顔気味の一乃である、腹立たしい。
「ってか一乃は自分の名前を自分でつけたの?」
気になって聞いてみる
「そうね、一応意味とかもあるんだけど聞く?」
「いやいいわ」
きっと聞いたら損をするような気がしたので、聞くのはやめた。
「あなたの戸籍とかの手続きはこっちでやっておくわ」
頼もしい一乃の一言、私はそういう手続きとか苦手だしすごい助かる。
「ありがとね」
今日からこの一乃と、私、神田エンゼルの物語が始まる感じがして、すごいワクワクだ。
ーー
「で、早速質問なんだけど」
一乃が部屋着っぽい物に着替えたので、色々な事に答えてもらおうと思う。
「なんなりと」
「まず、あなたって本当に神なの?」
ズバリ、そこが一番気になっているところである。実は、神が下界に降りる事は不可能なのだ。なぜなら物質にはランクが決まっていて、何もない空間が0で、物がランクが1で、生物が2であり、霊体が3なのである。ランクが高ければ高いほど世界に長い事とどまる事が難しくなるが、世界に与える影響も大きくなっていく。天使である私はランクが4なので、本来この世界に影響を与える前に消えてしまうのだが、転生条件の「天使の記憶と力を持って転生し、楽しく生活する」によって守られている。
しかし神のランクはそこを通り越して10程度なのだ。程度で表した理由は神によってランクが違うからであるが、3以上のものがこの世界にとどまる事はすごい難しい事だし、ましてやランク10の神がとどまっているというのだったらどんな違反を犯しているかわからない。これが神の下僕とかであったらまだ可能性はあったが、神本人がこの世界に居るというのはとんだイレギュラーな事態なのだ。
「えぇ、神よ、ランクは11の」
「ええ!?11!?」
驚いて素っ頓狂な声を上げてしまった。
まず神のランクが10程度と言ったが、11の神はその数字を1上回る。その差はたった1であるが、生物と無生物の差ほどあるのだ。そして、世界に与える影響も、10の神とは生物と無生物程の差があるのだ。彼女を怒らせたらこの世界の法則ごと全てを吹き飛ばされてしまうだろう、それ程恐ろしい存在なのだ。(ちなみに10なら太陽系を吹き飛ばすくらいである、十分に恐ろしい。)
「そんな突然ビックリされても困るわ、でも大丈夫、一般人として世界に居るのが私の目的だから、変な事はしないわよ。」
一乃はそう言って私の背後にも東京タワーと同じくらいのテレビを作った。...神、恐るべしである。
「だけど、じゃあどうやって11の神がこの世界にとどまって居られるの?」
そう、ランクが上がれば上がる程世界には居られないのだ。法則を乱す可能性のある存在は世界そのものから拒絶されてしまう。ランク11ともなればその力と同等な拒絶反応を受けて一瞬で消えてしまうハズである。
「それはね、この世界が私の作った物だからよ」
「えええええええええ!!!!!?????」
...なんてこった、この世界の創造主様でしたか。そしたら自分を例外として世界に存在させる事ができるハズである。
「じゃ、じゃあ次の質問...」
「どうぞ」
一つ目の質問でかなり体力が奪われてしまったが、次の質問に移ろうと思う。これほど大切な事を、聞かないと答えない人なんだから、聞いておきたい。
「私を転生させたのは一乃なの?」
私を転生させたのが一乃であれば、私の基本ステータスや色々な事がわかるだろう、もしそうでなければそれらの事を自分で調べる事になる。
「そうよ、目的の『天使の記憶と力を持って転生し、楽しく生活する』も私の方で決めさせてもらったわ」
「そっか」
これが知れたので、次の質問にスムーズに移行できる
「そしたら、私の年齢とか、色々な情報を頂戴」
「...説明が面倒くさいから本に書かせてもらうわ」
神にもなると、口で説明するより本に直接言いたい内容をインプットする方が楽なのだろう。一乃は何もない空間から辞書程の厚さの本を召喚する。
「はい」
そしてそれを私に渡してきた。既に書き終わった本を召喚したんだろう。私はその本を開いて内容を見てみる。
[神田エンゼル 種族:人間 年齢:13歳 性別:女性 異常点:記憶障害、空間の揺らぎ、遺伝子の欠損 ステータス:全てほぼ平均...]
「って!人間なんだけど!?私天使なのに!そして、この異常点ヤバくない!?」
なんてこった、私人間だったのか、空飛んだりしちゃったけど、大丈夫なのこれ。
「あー、そういう事になるのか、いやね、あなたがこの世界でどういう風に映るのかっていうのを簡易スキャンしてそれで...」
「もっと簡単な日本語でお願い」
「つまり、私以外の他人にどう見えるのかをその本に書いたのよ」
...? つまり、私は空間が揺らいでて、遺伝子が欠損してる記憶障害な女の子に見えるって事?
...なんてこった!!!
「でもその情報に主観性はなくて、つまり科学的な実証データのハズだから、確実なハズよ」
「...一乃、それ「とどめ」っていうのよ」
私は確実に人間だけど、人間のなりそこないみたいな感じってことである。
「まぁでも、天使を無理やり人間に見えるように変えてこの程度の異常点しかないんだから、感謝してほしいところね」
一乃はトンデモナイ事を平然と言ってのける、あぁ、もう、この人と居ると疲れるなぁ...
「...ありがとう、質問は以上で終わり、もう寝る...」
「あら、また気になる事があったら聞くのよ」
丁寧な雰囲気を醸しているけど、私にとってはもう目の前の一乃が邪神か何かにしか見えない、だって人間と天使のキメラを平気で作っちゃうような人だからだ。よくこの世界はここまで生き延びたよ...。
布団を作ると、そよ風が吹いて、野花が揺れた。すごい寝心地がよさそうだぁ...おやすみ...
こんな自己満足小説ですが、読んでくれる方には本当に感謝です。
ありがとうございます。