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いつだったろう。
僕の方を見つめる澄んだ瞳の中に僕はいないことに気づいたのは。
いつだったろう。
甘く囁く愛の言葉が自分に向けられてないことに気づいたのは。
いつだったろう。
彼女の全てはあの人に向けられていることに気づいたのは。
そして、いつだったろう。
彼女に初めて手を上げてしまったのは。
こんなことしたって、意味がないことだってわかっていたのに。
こんなことしたって、彼女の心は自分に向けられることがないってわかっていたのに。
やめることができなかった。どうしても、この衝動を抑えることができなかった。
また今日も彼女の白い肌に紅い花を咲かせていく。穢していく。
「一度でいいから僕を見てよ。そうしたら止めるから。」
そう言っても、彼女はただ唇を噛み締めるだけで何も言わない。まるで、僕に声ひとつ吐息ひとつくれやしないかのように。
そんなにあの人がいいのか?どんなに願おうと手に入れることができないあの人が。なぜ?
あの人は彼女に何もしていないじゃないか。おいしい料理も 綺麗な服も 快適な家も彼女に与えたのは僕だ。それなのに何故彼女は僕を見てくれないのだろうか。
分からない。何も 分からない。
どうしてこうなってしまったのだろう。
僕はただ、彼女をあいしているだけなのに。
あの人は笑みを浮かべ祝福をする。
何も知らないまま何も知ろうとしないままただただ笑う。
それが彼女を壊していく。そして僕自身さえも。
白で覆われ隠された彼女が血に塗れている事を僕以外誰も知らない。誰も。誰も。