37.商店へ
前回の続きとなります。楽しんで頂けますと幸いです。
俺が異世界に飛ばされてから、初めての異世界っぽい感じのする街”ラウリース”。
この街は、大昔に作られた砦であり、長い間放置されていたようだが、
近年ダンジョンが砦の中心部に出現してからは、一気に人が集まる街へと変わったのだそうだ。
お陰で、物取りや窃盗などが多発しており、この街へ入る前には、
必ず通らないと入れない検問があったのだが、依頼主のコープさんの計らいにより、
比較的すんなりと通ることが出来た。
コープさん曰く、ここの一番偉い街長とは知り合いなので、通してくれるのだと言う事らしい。
コープさんって凄いのね。
その時に俺、クリム、イルデッシュの3人分、街への入場金を支払ってくれていたようだ。
今後もこういった街へ入場する際は、冒険者ギルドカードなどを見せて、入場料金を支払ってから入場するのが基本らしいので、覚えておかないとな。
ちなみに、コープさんはこれから、その街で一番偉い街長さんへと挨拶に行ってから、
商品を仕入れるなど、することがたくさんあるらしいので、
俺たちは今日の昼頃から、明日の昼頃までの間は、自由に過ごしてくれていても良いらしい。
また、肝心の寝泊まりだが、
この街なら夕食と朝食付きの宿に泊まった場合、
一泊1人平均1銀貨だということなので、今日の宿泊分のお金、3銀貨を貰ったのであった。
またコープさんは、街長の計らいにより、安全な場所で寝泊まりするので、
今回は護衛をしなくてもいいとのこと。
「ああ、そう言えば、捕まえた盗賊たちのことなのですが――」
コープさんに捕まえた盗賊たちはどうすればいいのかという問いにも答えてくれた。
曰く、奴隷商店で売ればいいのだそうだ。
こういう盗賊たちは、街の管轄でも引き取ってもらえるのだが、
直接、奴隷商店に持っていき、売ってもらった方が高くなるのだという。
勿論、後で街と冒険者ギルドの方に報告などをしなくてはいけないそうなのだ。
理由は、盗賊たちは大抵、元冒険者くずれ等が多いので、
必然的に報告しなければならない事になっているらしい。
また、冒険者ギルドに、盗賊退治の報告をすると、その分の謝礼金も貰えるらしいので、
損はないのだということだ。
その盗賊退治の報告については、奴隷商店によっては、買い取りと同時に報告を行ってくれるので、
便利なのだという。
「ああ、それとですね、ヒデキ様、クリム様、イルデッシュ様は、それぞれこれを着てください」
そう言って、手渡されたのは茶色い全身を覆いかぶせることが出来る布製、普通のローブだった。
「コープさん、これは?」
「はい、普通のローブです」
どうして手渡されたのかというと、クリムやイルデッシュの様に外見が特に整っている場合は、
街中でも拉致されたり、荒くれ者たちに絡まれやすいのだということだ。
また、俺の様に髪の毛が黒い者は滅多にいないので、コレクターなどの奴隷として、
高く取引されるのだそうだ。
なにそれ怖い。
なるほど、こういった所は異世界なんだろうな。
さきほど馬車の中から周りを見回して、思わず叫んでしまった時、少しばかり人々の目線が
あった様に感じたのはそういう事なのだろう。
俺が突然叫んだという事もあるだろうけども。
コープさんの助言を有難く受け取って、俺、クリム、イルデッシュは馬車を街の機関に預けた後、
俺たち3人はローブを羽織った。
これで俺たちの顔はローブにすっぽり収まったので、隠れて目立たなくなったと思う。
そして、コープさんがおススメしてくれた奴隷商店へと、最初に足を運ぶことにした。
その後は、特に考えてはいない。
もしも行けたら、この街のダンジョンに潜ってみてもいいかもしれないな。
クリムとイルデッシュが同意すれば、という前提なのだが。
俺たち3人組がローブ姿で歩いていると、なんだかネットゲームで遊んでいた時を思い出すが、
それはともかく、意外と街を歩いていても他にもローブ姿の人間は多かったので、浮くことはなかった。
ただ、ローブ姿の3人が並んで歩くことは、完全にシュールな光景だった。
どこかの宗教団体の人と言われてもおかしくないだろう。
クリムなんかは、
「もうっ! これじゃあ、周りが見えないじゃないっ!」と怒っていたが、
仕方がないことだろうと宥めた。
「僕はこのローブ、けっこう好きだけどねえ~」
イルデッシュは何故か気に入っていた。クリムとイルデッシュの価値観の違いというものなのだろうか。
恐らくはそうなのだろう、うん。
しかし、こうして街を歩いていると、ようやく異世界に来たという実感が湧いて来るな。
思わず顔がニヤケテしまうほどに。
あちこちの店に目移りしてしまうのだ。
あそこは、武具専門の店だろう、武器がいくつか店先に並べられており、冒険者と見られる男たちが
物色している。
他には、防具を置いてある店、はたまた魔物を売っているのか魔物専門店という文字も見えた。
クリムは美味しい食べ物のお店に行ってみたいと言っていたので、後で行ってみてもいいかもな。
ちょうどお腹も減ったし。
イルデッシュの場合、視線を追うと、魔法書専門のお店に行きたいらしく、ジ~~~~……っと眺めていた。
ただし、ゆっくりと観光と行きたいところではあるが、明日のお昼頃までしか、自由時間はない。
既に今日はお昼過ぎなので、余り時間がないのが非常に残念だ。
ひとまずは、昨日捕まえた盗賊たちを引き渡さないとな。
俺の精神上、悪いのだ。悪者とは言えども、人間はアイテム∞ボックスに収納されているという事実が、である。
しばらくコープさんからもらった地図を片手にウロウロ歩いていると、
なんとか目的地である奴隷商店へとたどり着いた。
ここは街の中心部から、少し外れた通り道で、ポツリポツリと店があるぐらい。
だが、この商店は、この辺りで一番大きいんじゃないか?という程の大きさで、
一軒家を2回り大きくしたぐらいのサイズで、2階建ての木造建築だった。
そして表に書いてある看板を見ると、何かの紋章が描かれており、ルカナン商会と書いてある。
どうやらここが、目的地らしい。
クリムやイルデッシュに目を向けると、ジト目でこちらを見て返してきたので、あまり良い目をしていなかった。
まあ、奴隷商店というのは、イメージが良くないからな。
特に女性だったら尚更だろう。
2人の視線に耐えられなくなったので、
ドアノブに手をかけようとしたが、俺たち3人はローブを被っていることに気が付いた。
初対面の人に会う時は、さすがにローブを外した方がいいだろうな。
俺、クリム、イルデッシュのローブをアイテム∞ボックスに収納した。
そして、ドアノブを回すと、
ガチャっという音がして、ドアが開く。
「し、ししし失礼しますっ!!」
思わず、てんぱった声であいさつをしながら、奴隷商店へと脚を踏み入れた。
クリム、イルデッシュもおずおずと後に続いた。
次回が、奴隷商店回の予定です。 次回更新予定日10/12