36.はじめての街へ
いつも見てくださってありがとうございます。楽しんで頂けますと幸いです。今回も本編の続きとなります。
◇
馬車の旅を続けてから、2日目。
そして、異世界に来てから9日目の朝である。
俺、クリム、イルデッシュ、雇い主である商店主コープさん一行は、
小さな湖にて朝食をとった後、すぐに馬車を出発させた。
朝から天気が少し曇っており、この天気だと雨が降ってくるだろうとのことで、
雨が降る前に、街に到着したかったからである。
現在まで、特に何事もなく順調に馬車はデコボコ道を進んでいた。
今日は、俺が馬車の御者をしている。
昨日は、クリムやイルデッシュにばかり頼っていたので、こういう所で役にたっておかないとな。
騎乗スキルのお陰で、なんとか馬の手綱を操れている。
スキル様様だな。
ちなみに、今日の昼頃には、よる事が決まっている一つめの街”ラウリース”に到着する。
ラうリースという街は、依頼主であるコープさんから話を聞く限り
そこまで大きい町ではないらしいが、冒険者ギルド、商店などが発展している。
理由は、街の中には、冒険者ならば誰でも潜ってもいいダンジョンがあるらしく、
それがこの街の産業となって発展したのだそうだ。
こういう時、本来いてくれる筈のナビゲーター、ナビたんにでも説明を頼めばいいのだろうが。
ここにはいないので、しようがないのである。
「ダンジョンって聞いて、マスターってば嬉しそうね……」
「うん……ご主人、すごい笑顔だねぇ」
にも拘わらず、いつの間にか俺は笑顔になっていたようだ。
クリムとイルデッシュに指摘されてから気が付いた。
そう、それはダンジョンという言葉だろう。
「ああ、やっぱり異世界に来たならダンジョンに潜らないとな!」
異世界に来たならば、ダンジョンに潜りたいのである!
綺麗な女性とお近づきになって、出会いを求めてもいいのである!……少なくとも、俺の場合はだけども。
(街についたら、どうしよっかなぁっ、ぐへっへへ)
馬を走らせながら、そのようなことを考えていると、遠くの方へ何か黒い建物が見えてきた。
「ねえ、マスター! あれが、ラウリースっていう街なんじゃないの?」
クリムが指摘したとおり、あれが街なのだろう。
「うん……街というより、黒の砦っぽいね」
俺が思っていることをイルデッシュは代弁してくれた。
そうなのだ、これは俺が想像していたTHE・街というよりは、大きい砦っぽいのだ。
街を囲むように、高さが10mぐらいありそうな壁が並んでいるのだろう。
後で、コープさんに尋ねてみたのだが曰く、この街は元々大昔に作られた砦だったそうな。
馬車を走らせること数十分後。
大きい黒い門が見えてきた。
そこには槍を持った兵士が2人ほどいて、その門の入口を通ろうとしている他の馬車などを確認しているようだった。
馬車は俺たちの一行だけではなく、同業者であろう商人の馬車などが順番を待っているようだった。
するとコープさんは、
「少し、馬車を見ていてくれませんか?私が交渉してきますので、では行ってきます」
そう言ってコープさんは、並んでいる馬車群を尻目に、どんどん前へと進んでいった。
そして、何事かを衛兵と話すと、衛兵が頷くのが見えた。
コープさんは再び戻ってきて、
「交渉は上手くいきました、ささ、前へ参りましょう」
他の待っている馬車を通り過ぎて、兵士たちは会釈する。
そして俺たちの2台の馬車は無事、門を通過した。
そこに広がっていたのは―――
「―――おおおおっ!! すげえええええええっ!!」
思わず叫んでしまったが、その言葉が人々の雑踏の音でかき消される程に凄い光景が見えた。
街を行きかう多種多様な人々、その人々を自分の店に呼び込もうと、あちらこちらで客引きの声がしていた。
また猫の姿をした獣人、トカゲが2足歩行で人間と同じように歩いていたり、
ずんぐりむっくりな姿をした人間もいた。あれはドワーフだろうか。
耳が普通の人間よりもとっても長い男性は、エルフだろう。
様々な人種がこの世界で生活していることが一瞬で分かった。
また、一部の人は、武器などを抱えており、あれらの人たちは冒険者だと一目でわかった。
こうして、俺たちは、異世界に来てから、初めての街”ラウリース”に到着した。
そして、これから起こるであろう様々な出来事に胸を躍らせていたのだ。
「ねえ、マスター……突然叫んで、大丈夫かしらね?」
「うん……僕たちがしっかり見張っていないと」
クリムとイルデッシュの言葉が俺の心に突き刺さったが、
俺はしばらく目の前の光景から、目を離さずにはいられなかったのだ。
次回は、奴隷商店回の予定です。多分。次回更新予定日10/10