ゴミの玉座。
僕の国には王がいた。
彼はとても優秀な人で、国民からも慕われていた。あるものは神と崇め、あるものはこの世界を治めるべくして生まれた神童だと言った。だが彼は病に侵され、若くしてこの世から去ってしまったのだった。
神が死ぬなどあり得ないと思っている国民にそれを公表すれば混乱は免れない。そう判断した大臣らは王の死を隠蔽するための替え玉を用意することにした。
それは王と共にこの世に生まれた忌み児。
生まれながらにしてその存在を否定された双子の片割れだった。
「というわけでして、王の代わりとして玉座にすわって頂けませんかね?」
国民からごみ置き場と称されるスラム街には、そこに似つかわしくない腹に脂ののった男が訪れていた。そんなスラム街のさらに奥、腐臭に包まれたゴミ山でこの話は進んでいく。
「俺を捨てた人間がよく言うぜ。王族としての教育を全く受けてない俺なんかより玉座にふさわしいやつなんて、腐るほどいるだろうが」
ごみ溜めを漁る青年はそのひどい臭いに顔を歪めることもなく言葉を返す。
「それに、前王の亡霊にすがらないと生きていけない国なら、勝手に死ねばいいさ」
それは青年の心からの言葉だった。
いつか死ぬ人間を神などと崇めすがりつかなければ存続できない国なら、どうせいつかは滅びてしまう。それならば、いっそのこと終わらせてしまえばいい。
「そんな無責任な事を良く言えたものだな。この国の問題だぞ、それを解決するのは国民の義務だ」
怒りを露にされたとしても、青年は動じない。むしろ、その顔に哀れみの表情を浮かべるだけだった。
「おあいにく様、その国ってやつからは俺達は国民だと認められてないらしい。だから、俺達には義務もなにもないんだよ」
そう、スラム街の人間には国からの恩恵など小指の先程度も与えられていない。その上、自らを国民だという者たちからは、国民として認識されてすらいないのだ。唯一彼らを認めていた王も、もうこの世にはいない。ならば、彼らには果たすべく義務もなければ、国だの民だのと口にされたところで何の意味も持たないのだ。
「話はそれで終わりか?ならとっとと帰ってくれ。ここはあんたみたいなやつが来ていい所じゃない。聖地をその汚い足で、これ以上汚してくれるなよ」
物心ついたときにはゴミ山のてっぺんでひとりぼっちで生きていた青年。人生の大半を過ごしてきたそこは、いわゆる彼の自宅なのだ。そこを何も知らない人間が勝手に土足で踏み荒らしたのだ。彼の怒りに触れないはずがなかった。
「俺に劇を演じてほしいなら、礼儀作法を第一にそれ相応のシナリオをもってくるんだな」
いまだに帰る様子を見せない大臣にそれだけを告げると、用はすんだとばかりに彼の足を払い山の麓まで転がした。
城に帰った大臣は服についたゴミを払いながら説得に失敗したことを他の大臣に報告する。すると、とある大臣からこんな声が上がった。
「つまり、条件次第ではこちらに協力してくれると」
発言をしたのは前王の唯一の側近だった。彼は、面白い受けてたとうと、口にすると静かに口元に弧を描いた。




