3話
「ごめんなさい!」
次の日、音川さんに事情を話すと、大きな声で謝罪された。店内が一瞬、静まり返る。
「あ、いえ、気にしないでください……」
もしかしたら。
あの夜、音川さんが泣いていた理由というのは、 あの男性にあるのかもしれない。男性に会う前は、滅んでしまった文明を悔やんで、あそこまで泣いていたのかと思っていたけれど、もしかしたら、本当はもっと別の事情があったのかも。
「あの、春乃ちゃんには、一度、あの男性の事も離しておくわ……」
「ああ、はい」
「アルバイトが終わるのは、20時くらい。会える?」
「えっと、今日はそれくらいに会えます」
「じゃあ、20時に集まりましょう」
・・
「実は、私が仕事でとある星に滞在している途中にね、とある男性型宇宙人にが私に一目ぼれしちゃってね……。ストーカーみたいな事をしているの」
「なるほど……」
スケールは宇宙でも、恋愛事に関しては人類となんら変わらないので、ちょっと戸惑った。
「えっと、じゃああの人は追いかけてきたんですか?」
「でしょうね……。地球に来たら落ち付くと思ったのに……、びっくりだわ」
それはそうだ。
「あの、それでですね……」
私は少し、胸の中の――カエルちゃんが住んでいるだろう心の中にあるとっかかり? みたいな物を抜くように質問した。
「もしかして、音川さんって好きな人とかいます?」
「えっ!? あぁぁ……、もうっ! カエルちゃんったら!」
少しビックリして慌てた様子が可愛らしい。
「図星ですか?」
「そうよ……、まぁ、文明が滅んじゃって、もういないだろうけれど」
「音川さんって、結構寿命あるんですか?」
「いえ……、でも私の場合、時間の流れを滞らせていたの。まぁ、想い人が私の為に今まで時間凍結して、地球で私に会いに来てくれるとか、まぁ、考えたわ……無理だったけどね」
音川さんが泣いていた理由というのは、もしかしたらそこに会ったのかもしれない。一縷の望みだったものを、この地球の現実が、全て壊してしまったのだから。
なんて励ませばいいのだろう……。
失恋……それ以上のもの。
私には、よくわからない。アダルトな恋愛の感情すら、私にはわからない。
「って……あの男の人の事ね……。カエルちゃんがいるとはいえ、春乃ちゃんには悪い事をするわね……」
「私、あのストーカー男に、ガツンと言ってきます」
「えっ、」
「ストーカー男に音川さんが見つからないのは、カエルちゃんのおかげなんでしょう?」
「え、えぇ。たぶん」
「カエルちゃんが私の心に入っているのは、もしかしたら、音川さんが言えない本音を、私に代弁してほしいからかもしれないです」
いざって時の行動は早い。それと同じで、いざって時の私の決意は固い。
「あのね、春乃ちゃん? あの人にヘンな事を言うと、いくらカエルちゃんが守ってくれても、春乃ちゃんが付きまとわれるわよ、だから止めておきなさい……。無視すればいいの」
「それだけはできません」
この後、音川さんに何度か説得されたが、それでもストーカーを赦す訳にはいかなかった。




