周りの皆が僕を強くしてくれる
成果らしい成果を上げることが出来ず、僕はギアの装着を解除して二人の待つビル前へ戻った。
二人は銃撃に備えてだろうか、影に隠れている。もっとも、パッシブ星人という種族は肉体再生に特化しているので、銃で撃たれてもそうそう死ぬことはない……と、今の僕は信じたかった。
「雲雀さん、戻ってこられたのですね。ご無事で何よりです」
僕に気づいたリュウカが、素早い足で近づいてくる。
うん。そう言ってみても、表情は晴れない。父が宇宙人や怪獣を殺したのは、今更覆しようのない事実だ。そんなものに心を揺さぶられてどうするのか。
でも、父を憎んでいる人達がいる。父に全てを潰された人達がいる。
それが無性に悲しくて、僕の腕から力を奪っていた。
「リュウカ、リーノさん……犯人、逃げられました。ごめんなさい」
ただ情けなく、頭を下げる。するとリーノさんがそっと僕の手を取り、首を横に振った。
「相手を捕らえたところで、今回の事件は何も解決しません。私達が大切にしなければいけないのは、この星に住む皆様に無事を約束することです」
彼女は僕の目を見据え、小首を傾げ微笑む。それはまるで僕の落ち込みに気づき、励ましているかのようだった。
そうだ、ここで落ち込んでいる場合ではない。この星に安全をもたらさなければ、僕は次の一歩を進むことが出来ない。違う星へ向かい、地球という星を伝えていく。
リュウカにもそれを約束した。それが出来なければ、僕がここへ来た意味はない。
「リュウカ、とりあえずお前を狙ってる奴がいるのも分かった。お前はあんまり出歩かない方がいいかもしれない」
「ええ……でもそうしたら雲雀さんは皇女様と……」
「仕方ないだろ。少なくとも今回の件が収束するまで、僕に与えられた任務はリーノさんの身を守ること。リュウカにも頑張ってほしいし」
僕が目を見据えると、リュウカは唇をとがらせ、不承不承に頷いた。
こんなことでもなければ、もう少し楽しく日常を過ごせるのだろうが、どうも僕とリュウカに、そんな日々は訪れないらしい。
「そういえば、先ほど皇女様は銃撃に気づかれたようでしたけど、敵の姿を見たのですか?」
「いえ」
リュウカの問いに、彼女はさらっと、そして残念な答えを返した。
それに納得出来ないと、リュウカはじっと彼女を見つめるが、彼女はくすりと微笑むだけだ。
「あの、どう見ても完全に見切った動きでしたけど……」
「ふふ、私にもよく分かりません」
「何かあるんですか?」
「分からないものは仕方ありません。リュウカさんが無事なのですから、それでは駄目ですか……?」
彼女は少し困ったような口調で、僕を上目に見てくる。駄目だ、妖精のような彼女にこのような目をされたら、僕は引っ込まざるを得ない。
その横に、彼女の悪戯めいた言葉に唇を歪めるリュウカが見える。
もっとも、リーノさんも王政が崩壊した日から、慎ましい生活を強いられてきたのだろう。このくらいはしゃぐのも、僕をからかって息抜きをするのも特に問題はない。
「でも、私も危ないなら、雲雀さんに護衛して頂きたいのです」
「無茶言うな。そうしてやりたいけど、リュウカは命を狙われたんだ。軍の人達とかきちんとした所で守ってもらった方がいい。それに情報収集も頼みたいし」
「そうでした。私も、皇女様や雲雀さん、そしてこの星の人達のお役に立たなければいけませんね」
リュウカは納得したように、しっかり頷いた。先ほどまでのぐずるような子供の顔ではなく、少しだけ大人びた、決意を秘めたものだった。
「では、私はビルに戻って、事態の報告をしてきます。何か掴めるかもしれませんし」
「リュウカさん、では我々も」
「大丈夫です。敵がいることが分かりましたから、警戒も念入りにすれば何とかなります」
リュウカはいつもの薄い胸板を張って得意げに笑う。根拠のない自信に見えて、僕にはそれが不安に映った。それでもリュウカは一人、先に進もうとする。
「リュウカ、送るくらいだったら……」
「確かに送って頂ければそれはそれで、大変ありがたいことなのですけど……今、私が一人で行かなければ、きっと他の人達の不安だって拭えないのです」
「リュウカ……」
「雲雀さんにきちんとした地位に就いて頂くのは当たり前ですが、私が情けない姿をさらしたら、雲雀さんの名にも影響を及ぼしかねません。だから、私が大丈夫というところを見せなければいけないのです」
リュウカは頭を下げ、僕の言葉を待たずに駆けていった。その走る背中を見て、リーノさんはふいに遠目を見せた。
「素晴らしい方です。自分の使命、生きるべき方向を見定めた、強い光です」
「リーノさんも立派だと思いますよ」
「いえ、私はずっと自分が何をすべきか見つけられていません。情けないです」
彼女は口元を少しだけ緩める。だがその横顔は悲哀に満ちていて、いつもの明るさを脇に置いている。
弱いのではない。彼女が普段ひた隠しにしている本当の姿、それがリュウカの生き方を見てにじみ出てしまっただけだ。
「……あいつは強いです」
僕は彼女の側で、似た温度の言葉で呟いた。
「分かります」
「僕はあいつと出会ってなかったら、鬱屈したままでした。違う人だったら、駄目だったと思います。自分で考えないところまで、人を動かしちゃうんです」
「兄は、リュウカさんを見て影響されていましたか」
彼女の静かな問い掛けに、僕はしばらく黙って空を仰いだ。
「それは分かりません。リュウカもあの人に関しては敵だって見てた部分がありますから」
「そうですか」
「でも」
「でも?」
「リュウカが来たことで、確実に僕の星は変わりました。だからきっと、あの人も変わったって信じています」
僕は空を見上げ、彼女に語った。でもそれは、彼女のために紡いだ言葉ではない。
彼の思いが回り回って僕を動かした。今もなおこの星で、血の繋がった少女が一人境遇を思っている。
僕は隣にいる彼女を見て、満面の笑みを浮かべた。
「この星、きちんと守ります」
「期待しています」
彼女も僕と同じく、しっかりと笑ってくれる。
爆弾設置事件の背後にある何か。それに対し、僕はそっと闘志を燃やしていた。




