動揺
僕達は手がかりを見つけるため街を歩き出した。
まずリュウカに案内されたのは、爆破事件が起こった現場だ。警備の人間に封鎖されているが、リュウカが「あの」と言っただけですぐに通してくれた。
何というか、ここまで来るとリーノさんよりリュウカの方が凄いんじゃないだろうか?
爆破現場は、少し黒焦げになっている程度で、大事故になるような様相は見られない。どちらかと言えば、不安を煽るために行っているように見えた。
「リュウカ、何か分かってることってあるの?」
「特殊な爆弾ではないです。中に使われている火薬も、単純なもので殺傷力も高くないです」
「そうなると、何のためにこのような行為をしているのか、ますます分かりませんね……」
リーノさんの言葉に、リュウカも静かに頷く。
「ダムア大佐の動きで変なところはなかったの?」
「それが、全然なかったのです。様々な場に出向いて外交に勤しんでいて自由な時間は一人で何もせず、動いています。こちらが監視を付けているのも気づいているようで、わざわざ何もしていないアピールまでされました」
リュウカがふくれた面で答える。
だが僕も、リュウカと同じく疑問を感じていた。
彼が欲しているのは、王族の血を引くリーノさんを奪うことだ。しかしよく考えてみれば、強引な方法で奪取すれば、それこそどのようなことを言われるか、彼ならすぐに分かるだろう。
リーノさんは決して抹殺してはならない身。
しかし奪取すべき対象。
この二つの繋がりが今一つ見えない。
「リュウカさん」
「はい?」
「しゃがんでください」
彼女が急に、リュウカを押さえつけるように、強引に体を屈ませた。
何を――とリュウカが言おうとした時、結論は出ていた。
地面に、ほんの少しの歪な傷が付いている。しばらくして、小さな鉛玉が煙を立て、向こうへ転がっていった。
リュウカがはっと周りを見る。
僕も同じように咄嗟にビルを見た。誰もいない。
いや、そんなはずはない。今のは間違いなくリュウカを狙った銃撃だ。
「リュウカ、リーノさんを頼む!」
僕は手に力を込め、キャリーバッグを呼び出した。すぐさまそれは光に変わり、僕の体にまとわりつく。
先ほどまで地上にいたのに、瞬時にビルの上階に辿り着く。
「サーモグラフィで……」
僕はあちこちへ目を配る。ほとんどの人が、ゆっくりと歩いている。
だがその中で、一人だけビルを急いで下っていく姿があった。手元にはわずかな熱を持った何かもある。
間違いなくあいつだ。
僕はすぐさま飛行して、そちらへ向かった。
ビルの出口で相手を待ち構えていると、マスクにサングラス、そしてその風体に似合わないギターケースを持ち合わせている男に出くわした。
「……最初に聞きます、リュウカを襲ったのはあなたですね」
「……噂のギア乗りか。悪いが口を割るわけにはいかないんでね」
と、男はギターケースを地面に叩きつけた。それは瞬時に光り輝き、男の体を飲み込んでいく。
そうか、僕がギアをキャリーバッグの姿に変えているように、男も銃を隠すための道具としてだけではなく、いざという時のギアとしてあれを持ち歩いていたのだ。
男にまとわりついていた光が消える。群青の、僕の知らないギアだ。
ギア対ギアの戦闘は初めてだ。どうやればうまく躱せるのか。
ゆっくり間合いを計りながら、男の出方を覗う。
男の足が駆け出すように動いた。
先に仕掛けてきた――!
僕は反射的に突撃する。
が、それは敵のフェイントだった。
奴は一歩動く素振りを見せ、僕に攻撃を仕向けてきたのだ。進む僕をあしらうように、敵のギアの鋼の膝が僕の腹部に突き刺さる。
重たい一撃は、鎧を突き抜け僕の口に酸味を与える。
だけど、ここで負けるわけにいかない。きっと体をねじり、崩れた態勢から相手へ肘を突き入れる。
肘にかかる、鈍い感触。だが僕は相手を見て愕然とした。
敵は躱そうともせず、その一撃を正直に食らっていた。
ばたりと倒れ、抵抗しようともしない。
「……お前も父親と同じように、殺すのか」
倒れた男の口から、小さな嘲笑の声が漏れる。
はっとしながら相手を見る。無抵抗を装うように、一歩も動こうとしない。
「殺すか? この星を守る大義のために。まあ、それも正義だな」
「……」
「やるならさっさとやれよ。苦しんで最後を迎えた仲間達に比べれば、なんてこともない」
僕の目元がゆらめく。この男は何を言っているのだろう。
それじゃ、まるで地球を守ったことが犯罪みたいじゃないか。
「絶対の正義はある。だがお前も、お前の父親も、そしてこの星も、その絶対の正義にはなれなかった。気にするな」
「うるさい……うるさい!」
僕は、気づいた時に大きく叫んでいた。
目の前がちかちかするような感覚を覚え、ただ無心に叫んでいた。
確かに間違っていたかもしれない。でもあの時、ああしなければ地球は滅んでいた。
でも宇宙人にも家族がいたら?
その家族の絆を奪うことになったら?
違う、僕が今守らなければいけないもの、それはこの星の行く末だ。
僕は奥歯を噛みしめ、男を睨み付けた。ヘルメットを被った顔から表情を読み解くことは出来ない。
僕は銃を取りだし男へ向けた。男は手を挙げ、ゆっくりと立ち上がった。
「抵抗しないでください。今回の事件解決のために、来てもらいます」
「そうだな。よく分かった。お前はまだまだガキだったってことさ」
男の嘲笑うような言葉が聞こえると同時に、男の体が巨大な破裂音と共に激しく光った。
まさか、自爆したのか!?
だが咄嗟の眩しい光で、まともに前を見ることが出来ない。そして爆風に煽られ、体が前に進もうとしない。
強烈な煙が少しずつ引いていく。まだ瞼に光の痕が残るが、それでも世界の形は戻りつつあった。
「……何だ、これ」
目の前に広がった塵を僕は見て呟いた。辺りには、爆散したギアの欠片が散らばっている。
だが、そこに男の亡骸はない。
またギアの破片も、装甲一枚のような薄いものだ。
「……ギアの一部をパージして、自爆したように見せかけたのか」
僕は少し笑って、膝を突いた。そして力一杯、地面を殴りつけた。
あんな言葉で動揺した自分の未熟さが情けない。
リュウカを危機に晒したというのに、僕はそれよりも父の過去に気を取られた。
前向きに生きる、そう誓ったはずなのに、迫ってきた過去を向いてしまった。
でも、何故リュウカを襲った犯人が、父の過去と僕を結びつける、その情報を知っていたのだろう。
確かにこの星の人間なら考えられなくもない。
だがその割には、言い回しに不自然な点が多すぎる。
一旦、リュウカ達の元に戻ろう。
少なくとも、今回のことに関しては僕の失態以外の何物でもない。
……強くならないと。




