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四畳一間の怪獣退治 renew!!  作者: やまみひなた
第一章――宇宙人の恩返し編――
3/42

連行された先のお姫様

 とはいえ、終わったことである。僕は怪獣を倒せた。それでいい。さて、これからどうやって帰ればいいのか。僕がそんなことを思案しだしたその時だった。

 ざくり、ざくり。そんな音がする。穴を掘る音にも似ているが、この山の中で思いつく音だと、重い生き物が足踏みしている感じだ。

 ああ、熊なら何とかなるのになあ。僕は辺りに繰り広げられた光景を見て、涙を浮かべた。

 周囲に展開するマシンガンを持った迷彩服の男達。さっきまでそうやっていた僕の立場と入れ替わるように、彼らは銃器を持って僕とリュウカに接近してくる。

 うち一名は通信機を持ち、僕との間合いを慎重に詰めていた。

「正体不明のギア確保。ギア確保。どうぞ」

 どうぞじゃないよと言いたいが、逃げたところでこの監視社会である。いずれどこかでばれて僕は社会的に抹殺されるのだ。僕は諦めてメットを脱いだ。

「ひ、雲雀さん!」

「仕方ないだろ。今は法律で、怪獣が出たって民間は避難に専念しなきゃいけないんだ。ロボットだってギアだって出撃どころか制作してもいけない。僕達は明らかにやりすぎたんだよ」

 僕は両手を挙げ、降伏の意志を示した。通信機を宛がった兵士が色々話し、僕へ付いてこいと顎と声で指し示す。

 やっぱり怪獣と戦うなんて、僕の人生には鬼門でしかなかったんだ。戦って感謝されるどころか咎人だなんて最悪だ。僕はぼんやりしながら彼らの乗ってきたと思しきジープまで連れられ、その車体に押し込められた。

「こいつら感じ悪いです」

 リュウカが愚痴を漏らす。僕は黙っていた。軍人さん達は笑いも怒りもしなかった。空気はどんより最悪だ。

 山を出て、道路を走る。僕達はどこまで連れていかれるのだろう。夕暮れの空はすっかり薄暗くなり、季節特有の薄ら寒さを感じさせてきた。

「降りろ」

 フェンスに囲まれた広い場所に着き、しばらく中を走ったジープで僕達は下ろされた。相変わらず背中に銃を突き付けられている。多分ギアなら弾くだろうが、むき出しの頭に撃たれたら終わりは間違いないので、僕は無抵抗のまま彼らに従って歩いた。

 だだっ広い空間に、アスファルトの舗装。そして倉庫だなんだのと仰々しい施設に夜間練習用のスタジアムかと言わんばかりの照明が煌々とと辺りを照らしている。

「止まれ」

 銃口を突きつけた軍人が命令し、僕は止まった。リュウカは睨んだ。

「おお、あれが噂の謎のギアかあ、聞いていたより本格的だねえ」

 暗がりの中から、悠長な口調で話すスーツ姿の男が、満面の笑みで僕達に近づいてきた。その傍らには、軍服姿の黒髪の少女がいた。

「えっ……!」

 僕はその少女の姿を見て、絶望一色だった状況から一転、驚きの声を上げていた。

 この暗がりの中でもほんの少しの光を弾いて輝く長くつややかな黒髪。切れ長の涼しい目。目鼻立ちは整っていて、それでいて軍服の上からでも分かる大きな胸とスタイルの良い体型。

 この国の人間に聞けば、知らない人間を探す方が難しいのではないかという、本物の「英雄」が僕の目の前に現れた。余裕を感じさせる華麗な動きで襲い来る怪獣たちを蹴散らす、怪獣退治のエースの女神、鈴埜夕陽という少女が僕の目の前に立っていた。

 こんな所で驚くほどの有名人に会うと思っていなかった僕は、酸素を求める金魚のように口をぱくぱくと動かした。一方、見た目が綺麗という点しか共通項のない宇宙人は、口角泡を飛ばし、にこやかな男と凍てついた目をした彼女に食ってかかっていた。

「何なんですか! お前達は! せっかく人が超竜を倒してやったのに、礼も言わないでこんなところに連れてくるなんて、礼儀知らずもいいとこです!」

 リュウカの威勢の良い言葉に、男は少しだけ驚いた顔をしていたが、鈴埜夕陽は全く動じず僕達を冷たく見つめていた。

「んー怪獣を倒すくらいだから元気はあるだろうと思ったけど、ちょっと元気が有り余りすぎじゃないかな」

「ほっとけです」

 リュウカが一つ物を言う度に、僕は墓穴を掘っている気がしてならない。ここはリュウカに任せず、自分で謝罪しよう。僕は素直に頭を下げた。

「済みません、出過ぎた真似をして。でも今回の特殊な怪獣出現を少しでも長引かせたら、大変なことになると思って行動しました。きちんと罰は受けます。責められるべきは僕です」

 僕がとつとつと謝罪の言葉を口にすると、横にいたリュウカが僕を不満げに見た。一方の男は腕組みをしながら、横にいた鈴埜夕陽に声をかけた。

「鈴埜君。今回現れたあの怪獣をどう思う」

「基礎六種の亜種ではないと判断します。詳しいことは分析班に任せますが、外見、構造共に星間戦争時に散見された異質な生物とも違うと感じました」

 彼女は静かに、そして事務的に答える。そもそも彼女はカメラの前でも笑わない。毅然とした力の象徴、誇り、そういった役割を担っているのだから、笑わない方が自然だろう。

 男は彼女の意見を聞くと、ふむと顎に手を宛てた。そして僕の前に立つとゆっくりと足下まで僕の装着するギアを眺めていった。

「民間でもギアを製造していたという噂は聞いたことがなかったが……どこの系統かな?」

 宇宙人です。しかもかつてこの国を侵略しようとした奴から恩返しにもらったものです。そんなことは口が裂けても言えるはずはなく、僕は沈黙を貫き通した。

 が、その僕の努力をぶち壊しにするように、またもやリュウカが辺りに響く大声で男に叫び散らした。

「この人を誰だと思っているんです! この人はあの英雄、長野宗徳さんの意志を継がれたご子息、長野雲雀さんですよ!」

 その言葉が漏れた瞬間、僕の顔は真っ青と真っ赤の両方を一度に味わった。軍と協調せずに単身民間ロボットで怪獣と戦った異端児の息子という意味で真っ青に。そんなとっくの昔に死んだドマイナーもいいところの人物の名に子息を付けて叫ぶという行為で真っ赤に。

 ああ、もう何もかもむちゃくちゃだ。ここからまともな状況にするにはどうすればいいんだ。僕が震える唇を必死に抑えていると、意外なことに男が「ほお」と反応を示した。

「まさか……意外なところで意外な名を聞くものだな」

「意外とは何ですか! 宗徳さんは立派な方で、雲雀さんも宗徳さんのように英雄になるお方なんです! お前らはせいぜいウミガメでも追ってろです」

 リュウカが勝ち誇ったように言うが、僕は頭が痛くて仕方なかった。だが男はちらりと鈴埜夕陽へ目を向け、かの人物の名を彼女に訊ねていた。

「長野宗徳の息子さんが、怪獣退治だそうだ。鈴埜君、どう思う?」

「いえ……私は……」

 先ほどまで凍てついた目で僕達を見ていた彼女だったのに、それを訊ねられると僕達から目を反らし黙りこくってしまった。

「まあいい。ともかく危険な真似はやめたまえ。これは軍の仕事だからね」

「そうは言いますけど、超竜はまだあと二体残ってるんですよ」

 リュウカの放った一言に、僕の目が丸くなった。今日現れた一体は何だったのか。いや、三匹いる内の一匹を倒せたならそれはそれでいいのだが、三匹いるなんて話はまったく聞かされていなかった。聞く時間もなかった。僕は目の前に軍人がいることも忘れ、怒鳴るような口調でリュウカに訊ねていた。

「おいリュウカ! どういうことだよ!」

「超竜はその名の通り、そこらのウミガメとはものが違います。お前らの古くさい装備に古くさいギアじゃ歯が立ちません。だから雲雀さんに頑張ってもらうのです!」

 僕はこいつとの関わりを絶対的に否定したくなった。ただし向こうは僕の名前をこいつ経由で知り、超竜なる新たなる驚異のこともこいつ経由で知った。今更関わり合いを否定しても無駄の一語である。

「長野雲雀君、だったかな?」

 男が僕に訊ねてくる。僕は完全な作り笑いで声もなく頷いた。

「亡きお父様の遺志を継ぐのかい?」

「そ、それは……軍が何とか……」

「雲雀さん! 軍じゃどうにも出来ないんです!」

 僕が弱気なことを言おうとすると、リュウカが無理矢理押し切る。その困る僕を更に惑わせるように、男が鈴埜夕陽に訊ねた。

「鈴埜君、新種の怪獣の出現予測は出来ると思うか」

「今回に関して言えば、完全に無理でした。私も海から急いで戻りましたが、そこにいる長野氏の功績がなければ恐らく被害は甚大なものになったはずです」

 彼女はちらりと僕を見て、そう答えた。僕は受け渡すように、リュウカを見た。リュウカはこくこくと頷く。あの報道の第一報が入った時同様、予測を立てるのは難しいのだろう。

「海沿いに展開している編隊を……いや、厳しいな。鈴埜君、明日から頑張るように」

「……了解しました」

「長野君。私は防衛隊特殊防災課室長の神嶋信也という。色々失礼があったかもしれないが君のおかげで街は助かった、ありがとう」

 彼は肩をぽんぽんと叩いて脇にいる兵士にいくつか耳打ちすると、何故か笑いながら兵舎へ向かってしまった。鈴埜夕陽も僕を一瞥し、夏日に見つめたくなるような涼しげな顔を崩すことなく、同じように去ってしまった。

 僕達はどうなるのだろう。唖然と立ち尽くしていると、僕達を連れてきた兵士の一人が「帰っていいぞ」と告げた。

 どうやら僕とリュウカは無罪放免らしい。ただし、見送ってくれる人は誰もなく、怪しい行動がないか遠目で監視されながら、この基地を離れるというおまけ付きだった。

 基地を出て真っ暗な中、僕はため息をこぼしていた。夕方からめまぐるしく動いた僕の運命は、何か一区切り付いたと共に、一つ始まった気がした。

「あいつら、ほんと感じ悪いです」

 基地を出て開口一番、リュウカが軍に対して愚痴をこぼした。

 リュウカは少なくとも僕よりは超竜の恐怖を知っている。そして宇宙からこのギアを運んできてくれた。

「帰るか」

「ギアでぴゅーっとですね!」

「なわけないだろ。この時間なら……まあ夜遅くになるけど大丈夫かな」

 僕はリュウカに告げた。リュウカは不機嫌な顔を一掃して、僕に「はいっ!」と笑顔で大きく答不思議とえた。この基地から僕の住む街まで戻ると、どれくらいお金がかかるのだろう。しかも二人分だ。軽くなる財布を思うと、やはり人助けは割に合わないと感じ入る。

 今日一日で、忘れたかった名前を何度も聞かされた。今の僕には関係のない話だと思う。

 基地の焼け付くような照明と、それでは覆い尽くせない真っ暗な中、一つ輝く月夜の明かり。不思議と僕はそれを眺めていた。

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