表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四畳一間の怪獣退治 renew!!  作者: やまみひなた
第二章――宇宙と父の積み重ねた業と――
25/42

この星の新しい『英雄』

 しばらくして、リュウカは不満そうに愛想の悪い顔をして兵士を睨んだ。彼はきょとんとしながらリュウカの目を見る。

「雲雀さん、行きましょう」

「あ、いいけど……」

「いいですか、SP1に変なことをしたらただじゃおきませんから!」

「そんな人間、この星にはいませんよ」

 彼は笑い飛ばす。リュウカもばつが悪そうに視線を泳がせながら、必要な荷物を手に奥へ歩きだした。

 それにしても凄いことになってる。想像しなかったわけではないが、思っていたのと違う展開に妙な面白さを覚えてならない。リュウカは自分の扱いが気持ち悪いのか、さっきから何度も身をよじらせていた。

「別にそんな態度することもないだろ。そもそもリュウカ自体、星を救った英雄の子供なんだし」

「……そういう扱いは嫌です」

「いや、自分が嫌な扱いを僕に押しつけるなよ。堂々としてろよ」

 僕が言ってもリュウカは納得しない。とはいえ、この通路を抜け、街のど真ん中に出れば嫌と言うほど現実を見ることになるだろう。そう、自分の理解を超えた、世界の中心に立たされる人間という驚くような立場に。

「やっぱりあの行き遅れババア来やがりました」

「さっきの女の人のことだろ。行き遅れってどう見ても若いと思うけど」

「確かにまだ二十代です。でも絶対行き遅れます」

「なんかあんの? 凄く嫌ってるみたいだけど」

「あいつ、以前の国王派閥の人間なんです」

「国王って……じゃあ神嶋室長の……」

 僕は思わず、そんなことを口走った。

 地球で父を目指した男との、因縁の決戦。その人物の側にいる人間に出会うこと、それ自体は予測できていた。でもすぐさまこうなるとは思っていなくて、彼女が本当にそうであったのか実感がわかなかった。

「あいつの父親は側仕えの大臣だったのです。あいつもいずれ王の側室になるつもりでしたし、あいつ自身王に心酔していました」

「……何て言うか、あの人美形だし、やっぱり人気あったんだな」

「人気なんてないです!」

「そ、そうかな?」

「まあ……この星の体制が締め付けられたのは、あいつじゃなくて先々代の王辺りになるんで、確かにあいつは悪くないって言い方も出来ますけど……」

 僕はこの星の事情を知らない。そして歴史も知らない。余計な口出しは出来ないのは分かる。でも、出来れば彼を許してやってほしかった。あの人は確かに地球を滅ぼうとした。でもその中にあった純粋な気持ちが結局地球を救う礎になった。

 あの地球での激闘の日々。僕が戦った日々の何倍もの時間をあの人は戦った。だから法的な裁き云々ではなく、心の部分で許してあげてほしかった。

「でも」

「でも?」

「あんな酷い目にあったのに、そんな風に言える雲雀さんはやはり心の大きい方です」

「そうでもないよ」

「持ち上げとかそうじゃなくて、本当にそう思うのです。少なくとも私には無理です」

 そう語る彼女の横顔に、普段の幼さやはしゃぐ姿はない。等身大の、普通の女の子。自分の心を過大評価も過小評価もせず、真っ直ぐ捉えることが出来る。それは彼女自身が語った心の大きさを、また違うベクトルから映し出していた。

「でもよかったです」

「何が?」

「こんな風に言ってくれる人が、私の迎えに行った人だったということです」

「まあ悪人にはなれないかな」

 僕が笑うと、彼女もくすぐったそうに顔をくしゃくしゃにする。

 ゲートの先の明かりが見えてきた。もうすぐ出口だ。

「あのですね、雲雀さん」

「どうかした?」

「この星ではですね、挨拶にも色々あるのです」

「うん」

 僕の前で、後ろ向きになりながら進んでいたリュウカに、日が差した。

 街の景色が広がる。

 広大で海の美しい、水都。煉瓦の家の隣には、大きな金属製のビル。

 ここから僕の新しい日々が――

「英雄の帰還だ!」

「外相殿のご子息様が戻られたぞ!」

 後ろ向きだったリュウカが声に引きずられはっと振り向く。その視線の先には、スポーツの優勝パレードのごとく多くの人々が沿道に陣取っていた。

 何と書いてあるか分からないが、フラッグを持っていたり、驚きで目を丸くするリュウカにさえにこにこと微笑んでいる。

「な、何ですかこれ?」

「……さっき兵士の人が言ってたことだね。うん、この星ではリュウカが英雄になったんだよ」

「ちょ、ちょっと待ってください! わ、私じゃなくて――」

 リュウカは僕にすがって混乱する頭を鎮めようとする。だが行列を成す人々はリュウカに少しでも振り向いてもらいたいのか、至るところから大きな声を響かせていた。

「英雄様! こっちに向いてください!」

「リュウカ様、記者会見、家で拝見させて頂きます!」

「見てあの綺麗な金色の髪、それに可愛らしいお姿。あのお歳でクアンタを救ったのでしょう? 正に私達の誇りだわ」

 群衆の中のいくつか聞こえた言葉でこれである。全員の言葉を全て並べたら、リュウカは羞恥ではなく怒りの赤に身を染め全員に食らいつくだろう。

「あ、あのですね! 民衆の皆さん、私は――」

「あとでSP1との記念写真の予定が入っていると聞きました! 素晴らしいです!」

「英雄の娘は、やはり英雄だった! 我が星の改革者である外相と、御子息に幸あれ!」

 リュウカが何を言おうとしても、音量の暴力の前に叶うわけはない。

 僕は側により、何とか聞こえるよう耳打ちをした。

「ここで言っても誰も聞いてくれないよ。みんな熱気に飲み込まれてる」

「うう……でも英雄というのは……」

「だからそれをみんなに説明するのもリュウカの務めだ。僕じゃどうしようもない、ほら」

 と、そっと沿道を取り囲む人達に僕が目を向ける。リュウカも同じようにそっと視界を移した。

 明らかに彼らはリュウカしか見ていない。僕も視界には入っているのだろうが、ただ横にいる人というだけだ。

「こいつら、全員事情を知らないんでしょうか」

「いや、SP1がどうとか地球を救った話をしてたから一応は知ってると思う」

 僕の考察にリュウカは頷く。その間にも周りから放たれるきらきらとした純然たる眼差しの輝きがリュウカを温かく包んでいた。

「う、う……気持ち悪いです。雲雀さん、早く行きましょう」

「そうだな。街はどうする?」

「この状態じゃ無理です。とりあえず父に会いましょう」

 リュウカは僕に決意めいた表情で頷くと、先ほどとは違う早足で歩きだした。

 しかも軽い笑みを浮かべて、手を振り愛想を振りまく。こいつのこんな姿、地球で一度でも見たことがあるだろうか。

 そういえば、リュウカのお父さんがこの星を立て直したんだったか。考えたらリュウカにも立場があるよな。僕はそれ以上何も言わず、付き添いの人として輝く光の後ろを影のように歩いた。

 リュウカは真っ直ぐ大きな道を進む。その間にも道行く人々にひそひそとうわさ話のように耳打ちされている。

 リュウカは愛想を振りまくものの、少し過ぎれば途端に顔を崩し怒りのこもった悪態をついていた。

 それでものべつ幕なしにリュウカの顔を知る人々が現れるので、彼女もうかつな顔をすることは出来なかった。

 リュウカはビルにつくと息苦しそうにため息をこぼした。

 お前が僕に押しつけようとしていたことはこういう事なんだが、と言いたくもなったがさすがに今それを言うのは可哀想だ。黙ったまま、警備員にパスを見せ入館するリュウカの後についた。

「リュウカ」

「何ですか、雲雀さん」

「さっき警備の人もリュウカの顔見て嬉しそうにしてたよ」

「ただの見世物です。実績が伴ってません」

「リュウカが地球に来なきゃ大変なことになってたはずだよ」

「それも買いかぶりです。あいつがしたかったことは、雲雀さんや私と陥れることでしたから」

 どうしても自分が褒め称えられるのを拒否する。もっともそういう気持ちは分からなくもない。僕はそういうのを実感する前に地球を去った。親しくしていた一部の人が僕を「地球を救った英雄」として褒めてくれたけど、僕はこんな熱風にさらされていない。自分が違う世界に行くのが怖いのが分かっていたから、それを避けた。

 英雄って言葉は、怖い。エレベーターに乗るリュウカの後につきながら、僕は一人思い出したように表情を崩していた。

 しばらくして着いたのは十五階。大きな窓から、パッシブ星の自然と人に囲まれた雄大な景色を眺めることが出来る。

「雲雀さん、どうかしましたか?」

「この星、地球と同じで綺麗な星だなって思って」

「そう言って頂けると大変嬉しいのです。さあ、どうぞ」

 リュウカが扉の前で一歩横に退く。僕は息を飲み込んで、扉をノックした。

今回は一回辺りを短くして負担を減らす作戦

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ