僕、嫌われてます?
あの人がいなければ――と考えていると、突然銃を持った兵士が近づいてきた。拳銃ではなくライフルタイプなのはどこも同じらしい。
「あがおghじょえいんまおがえけ」
「いえいえ、この方がいなければ――」
「あぐ0ぽいkl、あもぱx」
何を言っているのか全く通じない。リュウカの言葉は分かるのに。
僕が困っていると、リュウカは僕に小さな指輪を渡してきた。
よく見ると、リュウカも色違いの同じものをつけている。
こいつと同じ指に付けるのは嫌だな。僕は違う指に付け、軍人の言葉に耳を傾けた。
「中尉、こちらは?」
今度はちゃんと聞こえる。さすが機械で発達した星、パッシブ星だ。言語変換装置をすでに開発しているなんて。
「中尉、星では今、中尉が新たな英雄ですよ」
「は、はあ!? ちょっと待ってください。地球を救ったのはこの方であってですね――」
「いや、そのきっかけを作った中尉はまったくもって素晴らしい、そういう論調になっているのです」
リュウカは笑っていた。でもその後ろに隠した拳は強く握られ、ぷるぷると震えている。
英雄とか、そういうのどうでもいいんだけどな。僕は周りを見る。巨大な戦闘機や船はあるが、ロボットは僕の乗ってきたSP1というデカブツだけだ。
「ですから、そういことは――」
「任務お疲れ様です、中尉殿」
辺りにぴんと張り付くような、氷のような冷たい声。リュウカはその声を聞くと嫌そうな顔でくるりと後ろへ振り向いた。
そこにはスーツにタイトスカートの、僕より年上の美人さんがいた。でも美人なのに、目がきついせいか、性格のきつさも感じられる
リュウカは彼女から目を反らし続けている。
嫌悪の色は見え隠れするものの、怒りとかそういう雰囲気はない。どちらかと言えば恐怖に近いのだろうか。
「はじめまして」
「あ、は、はい。地球から来ました、長野雲雀です」
「外相補佐のフィン・パストリアです。以後お見知りおきを」
何となく分かっていたことではあるが、声に威圧感を覚える人である。
見た目は涼しげで美人なのに、惹かれるどころか心が離れるのが手に取るように分かる。
いや、僕は何のために地球からここまで来たんだ。たとえどんな人であっても、第一印象で判断しちゃ駄目だ。懐に飛び込むんだ。
僕は笑顔を作って頭を下げた。彼女はそれに取り立てて反応を示すこともなく、リュウカを一瞥するとくるりと後方で待つ兵士に声を掛けた。
「中尉はクアンタを救った英雄です。そして彼はこの星へ来たお客様。失礼のないように」
「了解いたしました」
兵士がぴしりと最敬礼する。彼の動きが完全に止まるのを見届けてから、彼女は僕達の方へ流し目を送った。
「そちらの星の話などもございます。中尉とはこの後個別に話をしますので、また後日お話をさせていただきます」
「……その、外相補佐。私はいいんですけど、雲雀さんが」
「ここで活動していただくための書類等は外相に用意して頂きます。その辺りが分からないほど中尉も子供ではないでしょう?」
「……分かりました。とりあえず、雲雀さんの案内は私が行っていいんですね」
「そうですね、あなたの言った通りとりあえず、ですが」
「……いちいち嫌な行き遅れです」
リュウカが横を向き口を尖らせる。すると先ほどまでリュウカの言葉に耳を傾けていなかった顔の彼女が唇の端を曲げ見下すように鼻息を漏らした。
「何か仰りましたか、中尉」
「い、いえ……あはは」
リュウカは作り笑いをしながら慌てて取り繕う。彼女もそれで気が済んだのか、それ以上追求することもなく、再び僕に目をやった。
「それでは」
静かに、静かに、ヒールの音を響かせてタイトスカートの彼女は立ち去る。
美人の若いキャリアウーマン、そんな感じだがやっぱり大人で、僕には遠い。地球で知り合った人達とはまた違うスリリングさがここにある。
僕とリュウカが胸をなで下ろしていると、僕達の前に立つ兵がにこにこしながら腕を組んでいた。
「いややはり外相補佐は美人だ」
「それはまあ認めますけど……あの、私じゃなくてですね、クアンタを救ったのはこの人なんです。あのSP1の操縦者、長野宗徳のご子息でもあるんですよ」
「ははは、それは分かっていますよ。でもパッシブ星ではクアンタの英雄に報いた我が星の使者、つまり中尉が注目の的なんです。分かってください」
彼の言葉にリュウカは困惑していた。地球でのこいつは僕を祭り上げることに命を注いでいたが、あては外れ自分が持て囃されている。




