父は、幸せな人だった
「長野くん、感傷もいいが、少し見てもらいたいことがある」
鈴埜さんは少し頬をゆるめ、リュウカと自分自身の映るモニターを別の画面に切り替えた。僕の目の前に、テレビのニュースが映し出される。
「ええ、先ほどお伝えした、怪獣の撃破ですが――」
報道専門のフロアで、キャスターが何度も横にいる解説者の顔を覗き込む。ネクタイをしめず、白髪の生えた学者が腕を組みながらこほんと偉そうに答えた。
「ゼロエックスも友軍機も敗北した中で、今回の出来事は正に九死に一生としか言いようがありませんよ。そして分かりますか、あのロボット、色は違いますけどSP1ですよ」
「SP1と言いますと、あのSP1ですか?」
「そう。かつてね、怪獣がたくさん出た時に多くの人達を救ったロボットですよ。私の旧友があれに乗ってね……それがまたこうして戻ってくるなんて……」
と、その学者は目元を一度覆うと、咳払いしてまたキャスターに向かい合った。
僕が目を丸くしていると、続けてまた画面が切り替わった。今度はネットのリアルタイムでの投稿ログだ。
『ゼロエックス負けた。地球終わり。死ぬ準備整えとけよ』
『こんな状況で生き延びられたら奇跡すぎるわ。最後だし食いたいもん書いてけ』
そんな書き込みが、ゼロエックスと僕の敗走の瞬間に溢れ出ていた。それからしばらく絶望の書き込みが続いたかと思うと、突然違う内容が始まった。
『さっきロボットが空飛んでった』
『テレビでもロボット映った。あれ見覚えある』
『あれ、SP1だよ! 俺の好きだったロボットだ!』
『地球がやばいのに、この状況でSP1が帰ってきて泣きそうな自分がいる』
『こういう大事な時に守ってきてくれたのが俺の知ってるSP1。負けるな!』
僕はその書き込みの数々を見て、胸の奥が熱くなるのを感じた。その熱さが目元まで及んで先ほど枯れたと思った涙がまた溢れ出す。
僕は父が世界に見捨てられ、不幸な最期を送ったと思い込んでいた。でも現実は違った。こうして今もなお、人々の記憶の中にSP1の戦いは存在し、希望として輝いていた。
一番その足跡を理解していなかったのは、側にいたはずの僕だった。僕はそれに恥じると同時に、父が幸せな人だったことを感じ、誇らしく思えた。
だが怪獣という脅威は去っても、問題は山積みだ。宇宙から来た神嶋室長は振り上げた拳を下ろしたとはいえ、一度は反乱を起こした。宇宙人という存在がこれから危険視される時代がまた来るかもしれない。
そして何より、リュウカはこの地球から去る必要がある。
「リュウカ、超竜全部倒したけど……宇宙に帰るんだよな」
重苦しい口を何とか開いて訊ねると、リュウカは普段の幼い言動が嘘のように、しっかりした声で答えた。
「はい。私の役目は終わりましたし、パッシブ星に帰ります。私のわがままで周りに迷惑をかけられないですから」
そうか、と僕は口をつぐんだ。そしてしばらく黙った後、僕は思いきるように、首をこくりと縦に振った。
「リュウカ、このSP1って、本当に宇宙行けるのか?」
「え……雲雀さん……どうしてそんなこと……」
「リュウカは地球に自分たちの良さを伝えに来てくれたんだろ? だったら今度は、僕がパッシブ星に地球の良さを伝えに行く」
少し照れが入り、僕は画面から目を反らした。横目で画面を伺うと、リュウカは肘をついて顔を覆い隠していた。
「リュウカ……その、駄目かな」
「違うんです、そういう風に言ってもらえるのが……!」
感極まったように、リュウカは声を詰まらせる。そういうリュウカが珍しく、僕は思わず笑ってしまった。
「長野くん、君はお父様でも誰でもない、比較されることのない英雄だよ」
そう話す鈴埜さんの声も、どこか潤みを含んでいた。何もない道だと思っていたけど、案外簡単に道は作れる。僕はSP1のコクピットを眺め、そうだと痛感した。
「私の夢……叶いました!」
「リュウカの言ってる夢って、結局何?」
「言わなくても叶ったから、それでいいんです!」
リュウカに得意げに言われ、煙に巻かれた。でも本人がよしとするなら、それでいいかと僕は頷き、操縦桿を握りしめた。
「それじゃ、今からSP1、基地に戻って報告をします!」
満面の笑みで答えると、鈴埜さんとリュウカから「待っている」という言葉が寄せられた。
地球を巡る争いはまだ続くかもしれない。でももしかしたら、自分が何かの架け橋になれる可能性も同じくらいにある。
まだおぼろげでしかないが、あまりに遠すぎて何も見えなかった僕にも、夢という言葉が見えてきた気がした。




