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四畳一間の怪獣退治 renew!!  作者: やまみひなた
第一章――宇宙人の恩返し編――
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復活、SP1

「銃は全て私の足下へよこせ」

 鈴埜さんがきつく最後の一声を漏らす。銃が床を滑り、鈴埜さんの足下に集まった。彼女は一段と強く神嶋室長の首を絞めた後、さっと離しすぐさま背中を足で蹴り飛ばす。そして銃をいくつか手にするとリュウカを縛っていた兵士に狙いをつけ、無言で睨みをきかせた。

「王……済みませぬ。ですが王に万一のことがあれば、先代への申し訳が立ちませぬ」

「皆まで言うな。私の見る目のなさが産んだ事態だ」

 室長が淡々と告げる脇で、リュウカの手を縛っていた手錠に鍵が回された。解放されたリュウカは、兵士達を一瞥した後、涙目で鈴埜さんへと走っていった。

「本当にお前は性格が悪いです! もう……本当にもう駄目だって思ったんですよ!」

「これしか勝機を見いだすことは出来なかったんだ。でも、大切な友達を見殺しにしてまで叶えたい夢なんて、私にはないからな」

「でも私……宇宙人で……」

「リュウカが宇宙人だろうと、私にとって負けられない敵で、友達なのは変わらないだろ?」

 鈴埜さんはいつものように柔らかく微笑み、リュウカの頭を撫でた。リュウカもくすぐったそうに涙目で微笑み返す。僕も急いで二人の元へ駆け寄り、ひとまず脱却できた危機に胸をなで下ろした。

「リュウカ、大丈夫だったか?」

「何とか大丈夫です! それより超竜はどうなってますか?」

「エンジンの粒子の動きが阻害されてるとかで、ギアの動きがすごく遅くなってる。武器も効かない……正直きつい相手だ」

 厳しい現状を素直に伝えると、リュウカの顔も曇り出す。彼女は腕を組みながら、周りに何かないかを探し出した。

 一方僕は、対怪獣部隊室長であるはずの彼が、このような事態にも拘わらず声を発さないことに、落胆を感じていた。

「神嶋さん、もうむなしいことはやめましょうよ」

「……むなしい?」

「あなたの何かを変えたいという気持ちは凄く伝わります。でも父は何かを変えたかったわけじゃない。そこに危機があるから戦った、それだけなんです。英雄とか何とか、過大評価です。あなたが父になれるとしたら、あなたが今ここで的確な指示を出すことなんです」

 僕は頭をかきむしりながら横を向いた。彼にそれだけは伝えておきたかった。それでも彼はだまり通したままで、僕の望んだ指示は飛んでこない。

 こうなってしまうと、あとは鈴埜さんと共に、補給をしたギアで戦うしかない。

「何か妙案はないか……超竜の進行速度が遅いとは言え、このままだと中央研に到達されてしまう」

「そんなの分かってます。こっちだって精一杯考えてるとこなんです」

「何か――」

 と、鈴埜さんが口走った時、僕の体が突然軽くなった。浮く、そんな感触の次に僕は地面に叩きつけられるような痛みを背に覚えていた。

 何か分からず僕は顔を上げた。くらくらする頭をもたげると、リュウカが僕を突き飛ばすように手を伸ばし、微笑んでいた。

 いつもある、気楽な顔。その微笑みはいつも以上に優しくて、震える手を伸ばしていた。

 その笑顔を見せるリュウカの貧相な胸から、血がどくどくと流れていた。

「リュ……ウカ……?」

「あはは……良かった……気づ……けて……。運動神経……悪いけど……いいとこみせられたから……」

 リュウカの声がどんどんか細くなっていく。

 いつも強気で、大声を張り上げ、元気そのものだったリュウカの声が、聞こえない。

 細く細く、今にも消え入りそうな声で、膝を崩しそれでも笑顔を浮かべ続ける。

 リュウカの先で硝煙を漂わせていたのは、口を曲げた神嶋室長だった。小さな拳銃を握った手は、がたがたと震えていた。

「王……! 大丈夫でございますか!」

「もはや……もはや何もない! 長野宗徳は死んだのだ! 皆の幻想の中でな!」

 彼は怒りに満ちたような高笑いを上げ、拳銃を投げ捨てた。

 僕は声を失いながら、地面に倒れ込んだリュウカによろよろと近づいた。

 おおげさで、馬鹿で、食事が好きでどうしようもない奴だった。でも機械への憧れは本物で誰かのためになりたいという優しい気持ちは、根底に漂い続けていた。

 僕はリュウカを抱きかかえ、揺さぶった。だがリュウカはうっすら開いた目を僕に合わせ、声もなく頬をゆるめるだけだ。

「リュウカ! お前の夢はどうなる! こんな形で私の夢を叶えさせるというのか!」

「鈴埜……馬鹿言うなです。こんなの……ちょっと……眠いだけですし……私は誇り高いパッシブ……せいの……」

 リュウカの目がうつろになっていく。鈴埜さんは黙ったまま拳を強く握りしめていた。

「おい、リュウカ、冗談だろ……起きろよ……起きてくれよ!」

「何……言って……か……雲雀さ……は……な弱い……ひ……と……」

「僕はお前がいないと何も出来ないんだ! 父さんと違って弱い人間なんだよ! 頼むよ! 起きてくれよ!」

 僕は強く叫んだ。するとリュウカの手がゆらめきながら僕の手に向かっていく。僕は急いでそれを手に取り、リュウカの今にも閉じそうになった目を見つめていた。

「あのですね……雲雀……さん……」

「何だ、どうしたんだ?」

「私の世界にいる英雄は……」

「うん……」

「たった一人、長野雲雀だけなんですよ」

 リュウカはそれを告げ、笑顔のまま首を垂れた。僕の腕に一気に重みがかかる。

 涙など出ない。これが現実なのか、僕は理解できない。

 前方では神嶋室長が投げやりになりながら笑い続けている。鈴埜さんは目元を見せまいと、後ろを向いている。

 僕は何をすべきだろう。もうこの世界が滅ぶのを見守ってもいいんじゃないだろうか。

 そんな呆然とする僕の目に、眠りこけたようなリュウカの顔が映った。

 僕は英雄と讃えられた父にはなれない。でもたった一人、宇宙から地球を守るために来た少女、リュウカの英雄であり続けなければいけない。

 僕はリュウカの髪を数度撫で、おもむろに立ち上がった。僕の眼に、黒く染まったSP1、そして開いたままのコクピットが映る。もし僕に神嶋室長の言っていた父の遺志が欠片でもあるのなら、あれは僕に応えてくれるはずだ。リュウカが何よりも愛した、SP1というロボットに乗り、僕は誰のためでもなく、自分にしか出来ないことをしに行かなければならない。

 僕はSP1へ向け駆けだした。拳銃を落とし、地面にへたり込んでいた神嶋室長は、目を大きく見開きながら、届かない手を伸ばしていた。

「長野君……それを奪う気か!」

「SP1は優花さんや鈴埜さん、リュウカが夢を見た大切なものなんです。これは僕の、そしてみんなのロボットだ! 返してもらいます!」

 振り向いた僕へ、室長の脇にいた兵士が落ちていた拳銃を拾いその銃口をとっさに向けてくる。だがそれを遮るように、甲高い破裂音がそれを防ぐ。涙を捨てた鈴埜さんが銃を持ち、僕の突破口を作ってくれていた。

「長野くん、全ての気持ちをぶつけてきてくれ!」

「鈴埜さん、ありがとうございます! 僕は負けない、自分が泣くのも、誰かが泣くことにも、どんなことにも!」

 僕が叫ぶといつもよりゆっくりとした速度でキャリーバッグが飛んできた。僕はそれに捕まり、空高く駆け上りながらSP1のコクピットに手をかけた。

 搭乗口の機構は、大昔に見たそれと変わらない。僕はコクピットに飛び乗り、中を眺めた。

 あの頃と何も変わらない。神嶋室長が手を入れて作り直した別物のはずなのに、懐かしさで目が細くなる。

 スイッチを入れると、低いモーター音が響くと同時に室内に明かりが付きハッチが閉じていく。操作系統も変えられた様子はなく、操縦桿を握った瞬間、思わず笑みがこぼれた。

「長い間忘れててごめん。リュウカが言ってたよ、ギアよりもロボットだって。その中でもお前は、一番かっこいいやつなんだ。一緒に戦おう、SP1」

 僕はようやく昔の気持ちに戻れた。その脳裏に、タブレットに収められたSP1の写真を何度も笑顔で見せてきたリュウカの姿が蘇る。僕が嫌だと言っても、何度もリュウカはSP1への気持ちを取り戻させようと笑顔を振りまいていた。だから僕はこいつともう一度向き合い、その操縦桿を握っているのかもしれない。

 あの頃のSP1は空を飛べなかった。だがこのSP1は背につけられたブースターでどこまでも行ける。ゼロエックスやMMといったギアでどうにもならないなら、この巨大なロボットにしか希望はない。

 万感の思いを込め、ブースターを点火していく。緑色に光り少しずつ浮き上がったかと思うと、そのまま天井を突き破り、薄暗い空へと飛び立った。

 モニターに地上の光景が映る。ギアほどの速度ではないが、セノフォトンを利用したパッシブ星の飛行機能は相当なものだ。かつてのSP1の鈍足からは考えられないほどの移動速度で僕は先ほどの戦場へと舞い戻っていた。

 雨音と雷鳴の裂く音がスピーカー越しに伝わる。僕は操作系統の並ぶ壁一面を見た。リュウカはSP1のコンソール体系を模してギアの操作系統を組んだと言っていた。もしこのSP1がかつてのSP1と同等の操作形態を誇るなら、レーダーなどの機能もギアとイコールで結ばれるはずだ。


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