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恋が始まるはなし

作者: マビ

恋が終わる(はじまる)はなし



これはつい先日の話だ。


好きだった先輩に彼女ができた。


そして今日、その彼女とスピード破局したらしい。原因は二股。それも、せ、先輩が、していた、らしい。


「へぇー、ふーん、ソウナンダー。」

「ねえ、あの、ちょっと・・・冷たくない?」

「キョーミねぇし。」

「ひ、ひど・・・。」


 目の前に居る男の子はわたしの幼なじみだ。れっきとした男の子だけれど、長く伸ばした黒髪がさらさらでどうにも羨ましい。

 彼の髪が長い理由は、彼の家庭にある。体の弱かった彼は家の掟に従って女装を強いられているのだ。そして彼の性別は彼の名誉のためにほとんどの人には知らされていない。つまり、彼が羽を存分に伸ばせるのは家の中だけ。だからわたしはちょっとやそっとの暴言は見逃してきたのだけれど、最近あんまり暴言が過ぎるので、そろそろガツンと言ってやらなければならないのかもしれない。今だって彼はジャージでベッドにごろごろ寝っ転がって、わたしの話は上の空。学校では、女の子の格好の時は、わたしの一番の親友なのに。恋の相談だって、おしとやかににこにこ笑って聞いてくれてたのに。

 彼を見れば、興味がないといった割には嬉しそうで、ニヤニヤ笑っていた。これも女の子の時にはしない笑い方だなぁ、とぼんやり眺めていると「何見てンだよ」ぼかり。叩かれた。理不尽。


「だって。何が面白かったの。今の話に笑える要素が一つでもあった?」

「ん?あぁ、盛りだくさん。」


えぇー。


「まずー、意気地なしのお前が告白する前にフられたことだろー。ゲス野郎と付き合わないで済んだことだろー。二股ヤローがフラれてメシウマなことだろー。そんで、お前の恋が終わって、俺の恋がちょっと可能性出てきたことだろー。」

「・・・へ?」

「もう好きじゃないんだろ、そいつのこと。」


 指さしたのは、体育祭の写真だ。わたしと彼(ぱっちり二重の女の子にしか見えない)が、満面の笑みでぴーすを構えている。だけど実はこれはベストショットではないのだ。わたしが(そして悔しいことに彼も)もっとかわいく写っている写真は他にある。それでもこの一枚を飾ったのは、背景に混じって、うしろに小さく先輩が写っていたからだ。


「・・・うん。」


 目鼻立ちはすっきり整って、きれいな薄茶の髪。何より笑顔が爽やかで、かわいくて、だいすきだった。だいすきだったけど、だけど、それはまやかしだった。わたしが一方的に憧れて、夢を見て、そうじゃなかったから、すきでいられなかった。話したこともないくせに、勝手に好きになって、勝手に好きじゃなくなるなんて、迷惑なはなしだ。

 わたしの恋は、結局なにもしないまま終わってしまったんだなぁ。

 ・・・なーんてセンチメンタルな気分になっていた所をぐい、とひっぱられる。


「ちょ、なに、」

「お前が、今は誰も好きじゃないってんなら好都合だ」


 彼は何だかちょっと大人びた表情で、わたしのほっぺを思い切りひっぱった。


「次は、お前のことが好きな男を好きになれよな。」

「何それ、意味わかんない。」

「・・・ばーか。」

「馬鹿ってなに、馬鹿って言った方が馬鹿なんだから!」

「馬鹿馬鹿ってうるせぇな。本当のことだろうが。万年偏差値50のクセして。」

「な、な、何ですって!」

 

 憤慨するわたしを見て心底楽しそうにわらう彼は、男の子の口調なくせにわらった顔だけは美少女めいていて、不覚にもドキっとしてしまった。なんてきれいに笑うんだろう。おんなのこだってかわいいおんなのこには弱いのだ。だけど甘やかしてはならないと抱いた決意を胸に、わたしはマリカーのハンドルを手袋代わりに投げつけて、勢い良く立ち上がった。


「頭脳プレーが出来るところ、見せてやろうじゃない!」

「望む所だ、おばかちゃん。」

「~~~~!下行って準備してくる!!」







 足音荒く勇み立ってリビングへ向かったアイツは『センパイ』とやらのことはすっかり忘れてしまっているのだろう。馬鹿の汚名を返上した所で、あれじゃトリ頭と言われたって仕方が無い。やれやれと首を振った所で、携帯電話が自己主張。名前を確認して、出る。

『もしもし。君の言う通りにして良かったよ。』

「あー、そう?」

『うん。あの野郎、あたし達以外にも他校の女の子と付き合っててさ。最終的に9股よ、9股。信じられる?』

「それは・・・退くわぁ。」

『でしょお。とにかく、あたし達のこと引きあわせてくれてありがとう!早めに気付けて良かったよー。あの野郎はどうだか知らないけど、あたしの噂はぼちぼちなくなるだろうしね。』

「そうね。一件落着ってとこ?」

『うん、ほんとにありがとう。お礼はまた今度。』

「いえいえ、気にしないで。じゃあまた、学校で。」

『はーい。』

 ブツリ。

「・・・・・・9股とか、マジか。」

 先輩とやらが二股していることに気がついたのは、「ナイショにしてね。あたし、先輩と付き合ってるの。」と同じクラスの女の子が言い出したのがきっかけだ。きっとアイツが先輩に惚れてるのを知っていて、だけど本人には言いにくいから親友の俺にそう明かしたのだろう。そしてその前日、部活の2年生が「ナイショにしてね。私、先輩と付き合ってるの。」なんて打ち明けてきたもんだから、いてもたってもいられなくて、ついお節介をしてしまった。双方の話をまとめれば、その『先輩』は告白を断らない主義で、自分に告白してきた女の子に『僕と付き合っていることは誰にも秘密にしてね』なんて言い含めて全員と付き合っていたそうだ。

 なんて、あほらしい。

 それが率直な感想だけど、10人目はもしかしてアイツだったかもしれないと思うとゾっとしない。

 嫌な想像を頭を振って誤魔化して、席を立った。そろそろテレビの前でリモコンを握ったアイツから遅いと文句が飛び出る頃だ。最近アイツは生意気で、俺のことを甘やかしすぎただの何だのと口うるさい。

 だけど、俺だってアイツのことを甘やかして守って来たんだ。幼稚園の頃から、心も体も傷つかないように、ずっと。今さら横からかっさらわれるのは気に食わないし、そんなの許さない。逃がすつもりなんて、毛頭無い。どうしてあんな間抜けを好きになったかなんてもう覚えちゃいないが、それでも、好きなものは好きなのだ。まだまだお子ちゃまなアイツが自分から俺に好きだと言うまでは、絶対に諦めない。

 

「ちょっとー!!まだ降りてこないのー!!はやく!!!!」

「いま行く!!」

 

 兎に角今は、所詮マリオはクッパに勝てないのだとアイツに教えてやらないといけない。そんでもって、9股ヤローへの失恋の痛みが俺と遊ぶマリカー以下だと思い知らせてやらなければならないのだ。




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