第2話 星空マラソン大会
いよいよ町内会の星空マラソン大会が始まる。優勝賞品は幻の銘酒「乙姫」
レアものハンターの血を騒がせるピーコック。だが、「乙姫」を狙うのは彼だけではない。不気味に笑う「美髪」ティーシャツを着た薄毛おやじの実力はいかに?モヒカンだらけの町内会をブッチギレ!頑張れピーコック!
ピーコックは緊張していた
今日は街を挙げての大イベント「星空マラソン大会」の開催日である
星空マラソン大会は
夜にマラソン大会を行うという何とも変わった行事で
6月の満月の日に行われる
毎回大会の優勝賞品にはこだわりが見えるが
今回は特に力が入っていた
日本でもう5個しかない幻の銘酒「乙姫」が
優勝者に与えられるというのだ
そのせいか、例年にない参加者でスタート地点はあふれかえっていた
「それにしても・・・・モヒカンの奴が多いな・・・・」
右を向いても左を向いても
色とりどりのモヒカン姿の男性ばかりが目につく
Tシャツには「モヒカン町内会」と書かれている
「モヒカンばかりがいる町内会ってなんだ・・・・」
なんだか気持ちが悪いな・・・・と思っている間に
主催者の開会のあいさつが始まっていた
それと同時にピーコックに緊張が走る
ピーコックは体力に自信はある
短距離も長距離もそれなりに記録は出しているが
これだけの人数が集まると
さすがに優勝できるか不安になってくる
「おい、緊張しているのか?」
「・・・・・ばか!誰が緊張なんかするかよ!優勝は俺がするんだ!」
応援に来ていたモンドにそう言われ、思わず強がってしまったが
モンドに話しかけられたことによって、少しだけ緊張がほぐれる
「それより、お前今日は練習の日だろ!なんでここにいるんだよ!」
「ふ・・・・一番練習しなければならないお前がいないんだ、今日は練習は休みにしたよ」
「・・・・・っくそ!だったらしっかり応援しろよ!絶対優勝してやるからな!」
「その言葉、忘れるなよ?」
はたから見れば一言余計なモンドであるが
ピーコックはこんなモンドの励まし方が結構好きだ
頑張れ!と素直に応援されるのも悪くはないが
こうして緊張しているときはあえて遠まわしに応援されるほうが
ピーコックは気が楽になれた
いよいよ大会がスタートする
自分の位置について、最後にもう一度体をほぐしていると
隣にいる参加者から声をかけられた
そのほうを見ると、髪の毛がさびしい中年オヤジが
にやにや笑ってピーコックを見ていた
Tシャツには「美髪」と書かれている
どこに美しい髪があるのかと聞きたいが
どこに地雷が埋まっているかもわからないので
あえてその文字についてピーコックはスルーを決め込むことにした
「・・・・?なんすか?」
「いや、さっき君さぁ、優勝するのは俺とか言っていたじゃない?おかしくって」
「はぁ?」
「優勝するのは俺!こう見えてもおじさんねぇ、マラソンの代表選手だったんだよ?君みたいなチャラチャラした頭の若造がおじさんに勝てると思ったら大間違いだよ!」
そう言ってさらににやにやするオヤジに
ピーコックはだんだん腹が立ってきた
ピーコックは多少気が短いところがある
熱い性格と言えばいいのだろうか
すぐに頭に熱がのぼりやすい
ここがマラソン会場じゃなければ
このオヤジを殴り倒していただろう
言い返してやろうと思ったその時に
スタートの合図であるピストルが鳴り響いて
全員が一斉に走り出した
少し出遅れたピーコックだったが
他に後れを取らないように夜の街を走り出した
ゴールは街を一周して、再びスタート地点に戻ってくる
会場である広場には、銘酒「乙姫」に合わせたのか
豪華な竜宮城が建てられている
大会1か月前には乙姫コンテストなるミスコンまで開催され
今回のマラソン大会に優勝した2人のミス乙姫も応援席に駆けつけている
さすがミスコン優勝者
スタイルも顔も文句のつけようがない
本当に美女である
優勝してあの2人に祝福されるのも悪くないなと
ピーコックは走りながらそんなことを思い
ニヤニヤしていた
そしてその乙姫の衣装を担当したのはバンド仲間のガルだった
ピーコックはガルにミスコンへ参加しないのか?と言ったことを思い出した
派手好きで注目されるのが好きな彼女だから
ミスコンなんて喜んで参加すると思ったからだ
だが、ピーコックの予想とは反しガルは
「私が優勝するのは目に見えて明らかじゃない?一般女性が輝ける場所を奪う趣味はないわ!」と高笑いしていた
どこまで自信過剰なのだろうか・・・
あぁ、でも優勝はしなかったかもしれない
なぜならアイシャドウが濃いからなぁと
ガルの顔を思い出して、にやけていた顔がもとに戻ってしまったピーコックであった
さすが優勝すると豪語するだけあって
ピーコックはあっという間に集団を抜け
トップ争いに食い込んできた
ゴールまであとわずか
今、ピーコックはあの頭のさびしい中年オヤジと競っていた
元代表選手というのは嘘ではないようだ
ピーコックがどんなに間を詰めても彼はその差を開いてしまう
だが、彼も焦っていた
ピーコックが思った以上に速かったからだ
スタート前に馬鹿にした手前
彼はここで負けるわけにはいかなかった
ピーコックとの差を広げるために彼も最後の追い込みに入った
その頃、ゴール間近の応援席には
モンドのほかにガルとパラキとキートンの姿もあった
口ではなんだかんだと言いながら
頑張る仲間を応援に来ていたのだ
「優勝するとしたらピーコックはもうすぐゴールに来るのよね?もし1番で来ないなら私は帰るわよ!足が疲れちゃうから」
「ピーコックが優勝するよガル様!」
「そうそう、ピーコックは足だけは速いんだよ!ガル様!」
足だけは速いとずいぶんな言われようだなとモンドは思う
「それにしてもまだやってこないね!ピーコック」
「待ちくたびれてお腹空いちゃったよ!」
双子はおなかをおさえながら、大げさに空腹を訴えるが
その手にはバナナがしっかりと握られていた
しかも、そのバナナはこの会場にきてもう10房目だ
いったいどれくらい食べれるのだろうか
モンドは双子の異常な食欲に少し身震いした
双子たちが10房目のバナナを食べ終わる頃に
デッドヒートを繰り広げている中年オヤジとピーコックの姿が見えてきた
両者一歩も譲らず、追い越しては追い抜かれと順位を競っていた
「ピーコック!なにをしているの!そんな禿おやじさっさと追い抜きなさい!!」
ガルは熱くなって応援席と路上を仕切っているロープをがんがん揺らし始める
警備員らがガルを止めに入るが
その警備員を蹴散らしてガルは路上に出て、ピーコックを応援した
「そうだ!頑張れピーコック!」
「そうだ!ここで負けたら取り柄がなくなる!」
双子も熱くなって
手に持っていたバナナの皮を路上に投げ捨てる始末だ
冷静に見えるモンドも気が気じゃなかった
レアものを手に入れられなかったピーコックのことを考えていたからだ
ピーコックは狙っていたものが手に入らないと
ほかのことに手がつかなくなり
最低でも1か月は引きずってしまうのだ
ライブ開催まであとわずかだというのに
こんなところで負けてしまい、アイテムが手に入らなかったらと思うと
モンドの応援にも熱がこもった
「ピーコック!お前のレアものがほしいという思いはそんなものなのか!」
普段は出さない大声を出して
モンドはピーコックに声援を送ったのだった