第4話 真っ赤な変態
ここまでか・・・
多くの仲間を犠牲にし、何も変えれなかったことを悔やむオオモンド
絶体絶命のオオモンドに奇跡は起こるのか!?
(結局・・・何も変えることができないまま、オレはこの世を去ってしまうのか・・)
涙が溢れ出す
自分の決断の所為で、多くの国民の命が犠牲になってしまった
(何がヒーローだ・・・オレは何も救えない・・・)
すべてが終わった
そう思ったとき、遠くのほうから悲鳴が上がった
そしてその悲鳴が、だんだんとこちらに近づいてくる
それに驚いたのか
クロキングは、オオモンドの口に入れていた拳銃を引き抜いた
こんな奇跡があるのかとオオモンドは目を開け
勢いよく起き上がった
あたりを見渡すと
自分の仲間たちとクロキングの兵隊たちが
入り乱れてこちらに向かってくる
その表情には恐怖に染まっている
「何よ!何をしてるの、あんたたち!」
「クロキング王!大変です!赤い・・・うわぁ!」
クロキングの兵隊が何者かに蹴り飛ばされて
地面にたたきつけられる
その犯人の正体を見たオオモンドとクロキングは
驚きのあまり息を飲んだ
2人の目の前に立っていたのは
真っ赤な全身タイツを身にまとい、奇妙な仮面をつけたシメジだった
その姿にオオモンドもクロキングも言葉が出なかった
クロキングも、ファッションショーと称して
奇妙な衣装を着て街を練り歩くことがあったが
このシメジが身にまとっているものは、その比ではない
そう、一言で表すと
「・・・・・変態・・・・」
オオモンドが小さく
そして的確な言葉をつぶやいた
その赤い変態はにやりと笑い
こちらに向かって走ってきた
「なんなのよ!こいつ!」とクロキングは拳銃をその変態に向けて撃ったが
赤い変態は目にも留まらないスピードでそれを躱した
かわされたクロキングは唇を思い切り噛んだ
悔しさのあまり表情がゆがむ
「ふざけんじゃないわよ!この変態野郎がぁ!」
怒りに任せて、クロキングは何度も銃弾を放つが
そのすべてを変態は躱してしまう
「何者なんだこいつは・・・」
その変態の素早い動きに
オオモンドはごくりと唾を飲んだ
見境なく撃った所為か
拳銃の弾が切れいてしまったクロキングは
「あぁん!もう!」と言って、空になったそれを地面にたたきつけ
重機関銃のもとへ走って行った
重機関銃を操作していた兵隊を突き飛ばし
銃口を赤い変態に向けた
勢いよく銃口から噴射される銃弾を
またもその変態は華麗に避ける
それだけを聞くと聞こえはいいが
絵図らは最悪だ
なにせ、クロキングの顔を模った重機関銃
しかも銃弾はその口から噴射される
そして、それを赤い全身タイツと奇妙な仮面をつけた変態が躱している
これだけを見ると
戦争をしているのか、喜劇を演じている舞台なのかわからなくなる
だが、戦っている本人はいたって真面目だ
どんなに撃っても当らないことにクロキングは怒り狂っていた
「なんなのよ!なんなのよぉ!てめぇはよぉ!」
頭に血が上っているクロキングは
見境なく銃を撃ちまくる
建物も植物も何もかもが破壊していく中
赤い変態は地面を軽く蹴って
宙を舞った
「舞った・・・・変態が舞った・・・」
あまりの気持ち悪さに、オオモンドはまたつぶやいてしまった
華麗に宙を舞った赤い変態は
クロキングの顔に強烈な飛び蹴りを一発入れた
軽やかに見えたその一発は
結構な重さだったらしく
クロキングは遠くまで吹っ飛んだ
蹴りを入れた赤い変態は
空中で一回転し、キレイに着地した
そして再び地面を蹴りあげ
空高くジャンプして
あっという間に姿が見えなくなってしまった
「なんなんだ!あの俊敏さといい、このジャンプ力といい!あいつは一体何者なんだ!!」
オオモンドは思わず大声を出した
その時
空からあの変態がものすごいスピードで落下してきた
「何をする気だ!」
そういう間もなく
赤い変態は頭から気色の悪い重機関銃へ突っ込んでいった
「!!!」
ボンという爆発音が聞こえ重機関銃が爆発した
その爆風でオオモンドやその周辺にいたシメジたちは吹き飛ばされてしまった
「うぁぁぁぁぁ!」
吹き飛ばされる途中、煙幕の中に
赤い変態がオオモンドに向かって笑っているのが見えた
オオモンドは背中にゾっと悪寒が走った
オオモンドは近くにあった建物のおかげで
遠くまで吹き飛ばされずに済んだ
叩きつけられてしまって痛む体をかばいながら
何とか立ち上がり、先ほどまで戦っていた場所に向かった
そこにはまだあの赤い変態が立っていた
オオモンドが近づいても動こうとはしない
「・・・・こちらの味方・・・ということなのか?」
先ほどからこの変態はクロキングにしか向かっていない
まだ確信はできないが、こちらの味方をしてくれているような気がした
「・・・・お前は・・・」
誰だ?という言葉はバン!という銃声でかき消された
音のするほうを見ると
ボロボロになったクロキングが
小さな子供たちを連れてこちらにやってきた
子供たちはみなぐったりとしていて
見るからに衰弱しきっていた
その子供たちを見てオオモンドは驚く
肌の色が白いシメジだったからだ・・・
きっと、侵略した先の子供を人質に取ってきたのだろう
どこまでも腐ったやつだと
オオモンドは思った
「てめえら!アタシを甘く見るんじゃねぇわよ!城よ!城に戻ればまだまだ兵隊はいるわ!武器もあるわ!あんたらなんかすぐに殺せるわ!」
クロキングは1人の子供の首をつかんで持ち上げた
「うわぁぁぁ!何をするんだ!」
「相変わらずうるさいガキね!静かになさい!」
クロキングは暴れる子供の腹を思い切り殴る
「ボフォ!」と子供が苦しい声をだす
そして、そのまま気を失ってしまった
「クロキング!貴様なんてことを!」
オオモンドは腰に差さっている刀に手をかけるが
それを抜くことはできなかった
なぜなら
クロキングが子供の頭に銃を突き付けたのだ
「うるさい!オオモンド!道をあけなさい!さもなくはこのガキの頭が吹っ飛ぶよ!」
「オオモンド・・・アタシに手を出してみなさい・・この子供の頭吹っ飛ぶわよ?」
他国のとはいえ、子供を盾にされてしまい
オオモンドは動けなくなってしまった
「くそ・・・卑怯だぞ!クロキング」
「卑怯?当たり前だ、ごらぁ!戦場で生温いこと言ってんじゃねぇわよ!」
クロキングはそのまま城へ向かって歩き出した
オオモンドも赤い変態もみんな動くことができなかった
クロキングがオオモンドの横を通り過ぎようとした、その時
ぐったりとしていたシロシメジの子供が目を覚ました
「・・・・!離せ!離すんだ!」
クロキングの腕の中で、シロシメジの子供が必死にもがく
それにイラついたクロキングは
シロシメジの子供を地面にたたきつけ
引き金を引いた
「目覚めるのが早いんだよ!クソガキが!腹に穴開けてやろうかぁ!あぁ!」
危ない!
咄嗟にオオモンドは
シロシメジの子供をかばうように抱きしめた
「うぅぅ!」
クロキングの放った銃弾がオオモンドの肩を掠った
滴れ落ちた血がシロシメジの子供の頬に落ちた
「どうして・・・・僕を助ける・・・」
助けられたことに戸惑う子供に
オオモンドは優しく子供の頬を撫でた
「子供を助けるのは、大人として当然だ・・・無事でよかった」
それだけ言うと、オオモンドは立ち上がり
「誰か!この子供を安全な場所に連れて行ってくれ!」と
周りにいた仲間に呼びかける
「はい!さあこっちへおいで!」と仲間がシロシメジの子供を連れて行った
子供の姿が見えなくなってから
オオモンドはゆっくりと振り返り
クロキングと向き合った
「もう、逃げ場はないぞ!ここでお前の首を取り、この国を変える!」
「・・・・冗談じゃないわ!誰がそんなことさせるものですか!」
クロキングは拳銃をオオモンドに向ける
オオモンドも剣を構える
一触即発
ピリピリとしたムードが漂う中
パチパチと大きな音が鳴る
赤い変態が笑いながら大きな拍手をしていた