第2話 心に落ちた黒いしみ その2
とても平和で豊かなシロシメジ王国。
そこで生まれ育ったクロウは、大好きな父と幸せなときを過ごしていた。
そう・・・あの時までは・・・
事件が起こったのは、我が10歳の誕生日を迎えたばかりのときだった
夜中だというのに、バタバタと廊下を走る音がうるさく目を覚ました
何事かと、体を起こしベッドから出て窓の外を見ると
暗いはずの空がオレンジ色に染まっていた
「火事・・・・?うそっ!どうしよう・・・」
突然の出来事にパニックになった我は
「そうだ、父上!父上の元へ行けばなんとかなるかもしれない!」
そう思い、父の寝室に向かおうと部屋を飛び出した
さっきまで廊下を走る音がうるさかったのに
今は打って変わって静まりかえっている
灯りのない廊下は昼間よりも広く、そして不気味だった
一寸先も見えない状況の中、我は壁伝いに父の部屋を目指した
しばらく歩いたころ
何かが倒れたような音と
「血・・・!なんだこれは!」という父の叫び声が聞こえた
その声にひどく驚いたが、声だけでも父の存在を確認できたことに安心した
しかし、一体この城の中で何が起こっているのだろうか
「血・・・・とか言っていた・・・どうしたんだろう」
なぜ血という単語が出てきたのだろう?
誰かが火事のせいでケガをしたのだろうか?
怖い、今まで生きていてこんな怖いことは初めてだった
何が起こったのか、もしかして父に何かあったのではないかと
最悪の事態が起こったのではないかと考えていたら
背後に人の気配がした
怖かったがもしかしたら家臣かもしれないと思い、後ろを振り返る
少し離れたところに誰かがいるのが見えるが暗くて正体がわからない
家臣か?いや、それにしてはなんだか様子がおかしい
「なんだお前・・・王様のガキか?」
「だ、誰だ!」
この城の中で我のことをガキと呼ぶ者はいない
だとしたら、この声の持ち主は誰なのか
我は確認するまもなく
この声の持ち主によって気絶させられてしまった
どのくらい時間が経ったのだろう、目を開けると薄暗い部屋の中に横たわっていた。
「・・・・!!」
意識がはっきりしてくると同時に、自分が今囚われていると分かった。
手足は縛られ、口は布で塞がれていた
「何これ・・・嫌だ・・・」
抜け出そうと体を動かすが
動けば動くほど縄が体に食い込んで痛いし、息苦しい
痛さと苦しさと恐怖で涙が出てくる
「助けてぇ・・・父上ぇ・・・」
大声で助けを呼びたいが、口をふさがれているせいで声が出ない
「父上・・・怖いよ・・・」
しかし、どんなに助けを求めても父はやってこない
真っ暗な部屋の中に1人、何が起こっているかもわからず
不安と恐怖でどんどん心細くなる
「父上・・・」
泣き疲れて、また意識を失いそうになったとき
カチャっと扉を開ける音が壁の向こうから聞こえた
となりの部屋に誰かが入ってきたようだ
かすかだが声が聞こえてきた
「父上だ・・・・!」
部屋の真ん中に手足を縛られ放置されていた我は
声の聞こえる壁に向かって這って進んでいった
壁に思い切りぶつかれば
となりの部屋に誰かがいると気づいてくれるかもしれない
口をふさがれているせいで、息苦しいが
早く見つけてほしいという気持ちが我を動かしてくれた
だが、近づくにつれ
壁の向こうの状況がわかってくる
「父上以外に誰かいる・・・」
この声は、廊下で我をガキ呼ばわりした者と同じだ
我はこれ以上進むのをやめ、となりから聞こえてくる声に耳を傾けようとしたとき
ガチャとこの部屋の扉が開いた
「黒い・・・」
扉の向こうに立っていたのは
今まで見たことのない黒いシメジだった