最後の朝食 前
前編後編で視点が変わります。
まずはエーリから。
私は目を瞬かせた。ちょっと後ろでも、ルエーナが驚いたような声をあげたのが聞こえた。
朝食はいつも兄妹三人一緒に取る。いつかのようにルヴェイトが忙しくて二人になってしまうことはあるけど。
でも、今日は無理だろう。特にパレードとかがある訳ではないけど、旅の為の準備が色々あるんじゃないのか。私なんか、旅立つ前は薬草買ったり装備見たり結構忙しかった。もちろんゲームの話です。
だから、わざわざ王宮から離宮まで来るとは思わなかったんだけど。
「何だ?」
ルヴェイトの様子は呆れるほどいつも通りだった。
「…忙しくないの?」
「そうですわ。同行人を選ぶのではなかったの?」
「そうだよ。ゆっくりしてる時間無いんじゃない?」
たたみかけるように質問する私たちに、ルヴェイトはあっさりとした顔でいった。
「俺は同行人など選ぶつもりは無いが」
「えぇ!?」
「とりあえず座れ。食べながらでも話せるだろう」
目をむいたのは恐らく私だけではなかっただろう。だが、ルエーナは私よりも早く反応し、私を引っ張ってルヴェイトの向かいに二人で座った。
ルーエが見計らったように、暖かい食事を持ってくる。
「本日は家族水入らずでお過ごしくださいませ」
下がろうとしたルーエにルエーナは、今日の授業を断るよう言い伝えさせた。
「これでゆっくりと話せますわ」
満足げにそう言ったルエーナに、後でちゃんと受けるよう言おうと思ったが止めた。言わずともするだろう。
ルエーナの今の目標は、女王としての力を身につけること。最悪の事態の一つである国の混乱を防ぐ為には、彼女が女王となるしかない。選定の儀をこなさずに王位を継ぐと国内外に反感を買うのだが、それも彼女が女王になる力を持っているのと持っていないので大分変わる。
昨日寝台で話し合った結果だ。
「ではお兄様、しっかり説明してくださいませ」
姿勢を整えて兄を見据えたルエーナに習って、私もしっかりルヴェイトに眼を向けた。
「まず、同行人はもうすでに決まっている」
「え、早くない?」
「………」
それには応えずに、ルヴェイトは私をじっと見た。それからルエーナにもそうして、そして最後にこの部屋を見渡した。何なんだ?
ルヴェイトはしばらく考え込むように眼を閉じた。緊張感が高まり、反射的につばが溜まっていく。
やがて、意を決したように彼は眼を開いた。
「昨日の発表は、ただのお飾りだ。あの時すでに俺は、選定の儀の内容も知っていた。事前に行われていたんだ。非公式に、俺と陛下だけでな。」
思わず私は眼を見張った。だがすぐ納得した。なるほどなるほど。それなら今までの疑問も大分解消される。とくに今部屋を見渡した理由。確かにこんなこと、私たち以外には言えない。それは例えルーエでも。
だが、納得したように頷く私たちを、またももや混乱の渦に追い戻すようにルヴェイトは続けた。
「その時に言われた内容は、『魔族とこの国との和平を誓わせること』だ」
……………なんですって?