パーティと変人と今更だけどチート
「…高そうだねえ…」
用意されたドレスは、淡い紫色をしていた。肩まるだしなこのドレス、いつも思うけど似合わないと思う。ていうかエロいよね。エロ担当はルヴェイトでいいと思うんだけど。
「今日は特別な日ですからね」
魔石が埋められた首飾りをルーエに着けてもらう。魔石がついた装飾品は、本当にたまにしか着けない。高級だし稀少だからだ。
今日は、特に特別な日。選定の儀が言い渡される日だ。
私はルーエに連れられて、玉座の一段下に座らされた。うーん、周りからの値踏みするような視線が痛い。
ちなみに、ルエーナは右隣に、ルヴェイトは左隣に座っている。美形に囲まれた平凡ってどうやったって浮くよね!
この家族はすべて美形だ。私のおっかちゃんだって美人さんだったけどね!…うーん、どうして私は残念なほど平凡顔なんだろうか。可もなく不可もない私の平凡顔クオリティーは転生後でも有効ということか。泣くぞ。…とは言っても昔と顔が一緒というわけでもないのだけど。
そんなことをつらつらと考えているうちに、パーティが始まった。
今日は次の王の決定に関する大切な日なので、各国の重鎮がいっぱいいる。お、スレイア神国も来ている。普段外に出てこないあの国の人間がいることも、今日がどれだけ大切な日か物語っている。
「…嫌な目つきですわね…」
ルエーナがぽつりと呟いたのが耳に入ってきた。
「どうしたの?」
みんな芸人に注目しているので私はいつもと同じ口調で声をかけた。おお、獣人のサーカスかあ。生の空中ブランコがみれるなんて昔は思ってもみなかっただろうなあ。ていうかケモミミをはやした人を見れるなんて夢にもみなかっただろうなあ。
「見てくださいませ。あの人」
「ん?」
ルエーナが指す方を見ると、ローキード国と思われる服を着た男が壁に背を預けていた。
ローキードの人って何故か公共の場に白衣きてくるんだよね。変わり者の技術者が多いローキードを表すのに最適な格好だと思う。
その男は、なにやらにやにやしながらこちらに視線を向けている。こちらというかルエーナだ。私たちと目があっているのにも意に介せずただひたすらとにやにやしている。
「うーん、近寄らないほうが良さそうだけどね。」
「そうですわね」
そうと決めたらもう座ってしまおう。
「まあそうおっしゃらずに。お姫様」
後ろから声がかかって進めようとした足を止めた。いつのまに近づいて来たのだろうか。
慌てて振り返って、ちょっと驚いた。意外にかっこいい。ルヴェイトは怜悧な美形なら、こちらは人なつっこいイケメンだ。今はにやにやしているためイケメン効果は半減しているが。
「何かご用ですか?」
他人が近寄ってきたというわけで、私は外面をかぶる。いつもは半目だが意識的に目を開けるようにして、にっこりほほえむ。それだけで結構印象が良くなる。
「いえ、貴方ではなくお姫様に用ですね」
「……」
せっかく外面良くしたのに、はっきりざっぱり言われて、ちょっと返答に迷った。
この野郎。私だってお姫様だ。精神年齢33歳の。
「私のお姉様に無礼は許しませんわよ?」
ちょっとむっとしたルエーナが白衣の男の前に立ちふさがった。私が皇女だと気づいた男はちょっと慌てた様子で手を振った。
「あー、これは失敬。仕事柄あまり自国外には出ないので」
まあそうだろう。ローギードは変わり者達の国。こういうパーティには嫌々来ていることが多い。というか、実をいうとこのパーティに積極的に参加しようとしてるのって、主にうちの国の貴族達なんだよね。フェイヴァーノ共和国の人はあんまりきらびやかなの好きじゃないみたいだし。
「だからと言って…!」
「ルエーナ」
まだちょっと怒っているルエーナを止めたのは私ではなかった。私の隣に立った男は、呆れたような顔を白衣の男に向けた。
「お前も、王族に対する無礼になるぞ」
「おっとルヴェイト様」
「お兄様、この方と知り合いですの!?」
「この剣を作った男だ。」
その言葉に、ルエーナと共にルヴェイトの剣をまじまじ見つめた。
最近代えた彼の剣は一見普通の片手剣に見えるが、よく見ると魔石を加工して作られているが、魔石で作られた剣なんて聞いたことがない。恐らくこの剣が世界初だ。
「いやいや、使ってくれて良かったですよ。うちに剣を使える奴なんていないし、普通の奴はそんな危ないもの使ってくれませんから」
「危ない?」
「この剣、実は持っているだけで持ち主の魔力を吸い取るんですよ」
「な、何ですのそれは!のろいの剣ではありませんか!」
「その代わりに、攻撃魔法を受け止められる。これで無駄に魔力を使用しなくてすむ。」
淡々とメリットを伝えたルヴェイトになるほどと頷いた。それは確かに、重宝できる武器だ。
ルエーナもそうだが、ルヴェイトの魔力は馬鹿高いためそこまで困ることもない。それならば、防御魔法をひねるよりその剣で受け止めた方が楽なんだろう。うん、楽、なのだ。つまりいちいち呪文を唱えるのが面倒なんだろうな。ルヴェイトらしい。
しかし、と私は隣に立つルヴェイトを横目でちろりと見た。
超絶美形にすばらしき剣の腕、その上底の見えない魔力の量。チートってこういう人のこと言うんだろうな…。
「何だ」
どうやら見過ぎたらしい。視線に気づいたルヴェイトがこちらに顔を向けてきた。おお、美形美形。
「やっぱりかっこいいなあと思って。」
抱いた感想をそのまま言ってみると、ギとルヴェイトの眉が僅かだが動いた。どうしたんだろう思っていると、ルヴェイトは目に手を当てて大きくため息をついた。
「え、どういう意味?」
「それはこっちの台詞だ。」
「いや、それはそのままの意味だけど?」
またもやため息をつかれた。何だ何だ。お母さんにかっこいいって言われてウザがっちゃう思春期の男の子か。なるほどその通りだ。
「おやおや。お邪魔ですかね?」
「はい?」
「そんなに睨まないでくださいよ。邪魔者は退散しますので。」
またもやにやにやしだした男は、結局私に名乗らないままルエーナとどこかに行ってしまった。恐らくバルコニーだろう。もしかして、最初ににやにやしながらルエーナを見ていたのはスケベ親父的な意味か?
ルエーナも断りこそしなかったが嫌そうだったし、引き留めるべきだったかもしれない。
同じく動かなかったルヴェイトにそう言うと、彼は首を横に振った。
「大丈夫だろ。フェディオならルエーナでも余裕で勝てる」
「そういう問題!?」
ていうかフェディオさんっていうのか。恐らく年上だろう。もしかするとルヴェイトよりも。……うーん、純粋に惚れたのならこっちは応援させてもらうが、年の差が結構あるな…。だけどまあ年の差結婚は前世の時にも結構あったし、気にしなくてもいいのかな?
二人が消えた方を難しい顔で見ていた私に、機嫌が直ったらしいルヴェイトが手を差し出した。
「そろそろ戻るぞ。」
妹にエスコートしてどうするの、と言おうと思ったが、いつも通り怒るだろう。...それに、もしかしたらしばらく会えないかもしれないのだ。今日はツッコミはしないで、大人しくしておこう。
私は一つ頷いてから差し出された大きな手に自分の手を乗せた。