第二ってとこが重要。
「おねえ様、おはようございます!」
「おはよう。ルエーナ」
太陽を移したような金髪、夏の海のような深く青い瞳、ぷにっぷにの柔らかい頬、桜色の唇。
そんな天使が、私に満面の笑みを浮かべている。
かわいいよねえ。前世は一人っ子だったから余計に思うよ。兄妹ってほんとにいい。
天使の名はルエーナ。私のかけがえのない妹であり、ユーギストン王国第“一”皇女である。
ルエーナの隣に座ってさらにその頭を撫でる。嬉しそうにはにかむ妹に、腹違いなど兄妹の不和の理由にはならないのだと深く感じる。
ルエーナは、この国唯一の妃にして正妃のアレージュノ様の娘。それに対して、元々妾妃の上にもう亡くなってしまった母ルーノの一人娘が私だ。だから、私が二番手。
母は娼婦だったところを現国王に見初められたらしい。体があまり強くなかった彼女は、私を生んですぐに死んでしまった。つまり、元々立場が弱かったのにさらにその母親さえ失ってしまったのだ。しかも父親の寵愛を受けていた母親を半分殺してしまったような自分。いてもいなくてもいい存在なら、いっそ捨てられてもおかしくないと思ってたんだけど。
だけども。父親は私に対して何も言ってこなかったし、放置された拾ってくれたのはまさかまさかのアレージュノ様。彼女の実の子である兄と妹と一緒に私も育ててくれたのだ。正確にはそのように手配してくれたのだ。
彼女は彼女で、母を恨んではいないのかと思う。けど、恩人である彼女に詮索は不要だ。
「お兄ちゃんはどうしたのー?」
「お兄様はまだ寝ていますわ」
兄、ルヴェイト王子がいつまでもやってこないので尋ねると、ちょっと拗ねたような声が返ってきた。
さみしいんだろうなあ。私もだよ。
朝の食事は三人でゆっくり過ごせる唯一の時間なんだけど。放置されまくって一日中暇な私とは違い、兄王子は王族としての執務、妹姫は王族としての授業をこなしているのでかなり忙しいのだ。
ちなみに、精神年齢33歳の私が一体どんな気持ちでお兄ちゃんと言っているかというと、決して妹萌えを狙ってるからとかではなくおばちゃんが小さい男の子を「ボク」と呼ぶのと同じ要領だ。
どうにも兄、というか年上扱いできないんだよね。生まれたときから精神年齢17歳だった私だ。
アレージュノ様に引き取られたあと、私と始めて対面しきらきらとした顔で私を眺める当時3歳の彼を苦笑してしまったのは良い思い出だ。当然驚かれました。
そんな彼はもう20歳。国の仕事もだんだん任され、毎日激務だ。故に昨日も遅くまで起きていたんだろう。まじめな彼が朝起きられないくらい。
来てくれない兄に対して頬をふくらませる天使に悶えつつ、慰めるために口を開く。
「ルエーナ、今日暇になったら書庫においで。一緒にお茶会しよう」
「…はい!」
大輪の花が咲くように笑ってくれた天使は、その後すぐに教育係に連れられてしまった…。
さ、さみしくなんか…あるに決まってんだろ!?
私全然食べ終わってないし。一人だけになったテーブルで、朝食を続けた。
「……エーリだけか…?」
眠っていたからか、疲れているからか、いつもよりかすれた声が背後からかかる。私は思わずゆるむ頬をそのままに、振り返った。
「おはよう。お兄ちゃん」