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転生先は異世界でした。  作者: U1
第二章 二人が旅をする話
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尊敬と戦慄とわずかな羨望。

一方その頃。

得意な物、苦手な物。生きているものならばそれらは必ずその生き物に付け回る。遠くで見てる分には完璧な美丈夫が、近くで見ると執念の塊と言っていいほどの残念極まり無い人間だったりするように。リードはぶらぶら草の道を歩きながら、そんな文句を胸の内で呟いた。

情報を集めるのは苦手ではない。口は回る方だし、相手の機嫌の機微にも対応出来ている。と自負している。だから別に、情報収集に不満があるわけではない。今リードの胸に燻っている不満の訳は、この街で会った赤髪の少女を憂いてのことだった。

あの子に協力を頼むことは、リードだって賛成していた。時間もあまりない上方法も限られているのだから。もし、我が子を使っても聖獣が動かなかったら? 答えはない。見つけるたびに当たっている。それでも、皇子は自分の為、自国の為に進むだけであり、それに応じたのは他でもない自分だ。

しかしいざとなって、自分より弱い存在が危険にさらされるかもしれないと思うと気が引けた。だからこそ、全力で守ろうとリードは強く決意して教会の中に入る。


教会も国によって色々違うが、この国にとっての教会は役所のような場所ともいえる。下級の神官が必ず一人は存在し自分に割り振られた地域を管理している。ここでは宗教と政治が深く結びついているのだ。

信仰深い人間が作った国なのだから教会に人が多く集まるのは当然である。情報を集めに来たリードは解放されている礼拝室を見渡した。簡素な造りの長椅子が所狭しと並んでおり、数人がそこに座って礼拝している。

その中に、最近見かけた光る頭が二つ視界に写った。そういえば剃髪は何処に多い風習だっただろうか。個人でそうしている者が多いが、そういう慣習があった覚えがある。顎に手をやりながらリードは横を通り過ぎようとした。相手はこちらを忌々しく思っているだろうがリードの方は特に何も思っていない。

「おい」

しかし、向こうも既にこちらに気づいていたようで背後から声がかかった。苛立った声調は恐らく喧嘩っぱやかった弟の物。

リードは首だけ回して振り返った。話しかけるほどの間柄でもないだろうに。純粋な疑問を持って二人の顔を観察する。片方の男の顔は歪んでいるが、背の高い兄の方が頭を押さえている所を見ると、弟がまた余計なことをしてしまっただけらしい。

教会で騒ぐほど非常識ではないだろう。リードは男の隣に座った。もちろん兄の方の。

「何か用か?」

話しても不快に思われない程度の小声で話す。兄はため息を吐いてから横目でリードを見た。

「…お前達はいつまであの娘の側にいるつもりだ?」

動向を知っているという脅しにも聞こえる。ちょくちょく視線を感じていたがやはり監視されていたか。魔獣倒しは大分目立っていたし、そのとき人混みにこの男達がいたのだとしても不思議ではないだろう。

「さあなぁ」

実際、見通しすらつかない。そう思いながらはぐらかすと、向こうも教えるとは思っていないようでため息一つがまたこぼれた。

この男達は多分リード達よりも長くこの国にいる。ルヴェイトが疑念を抱いていたことについても知っているかもしれない。

情報収集には自信はあっても腹を探り合う駆け引きは苦手だ。自分一人ならば何も気にしないが、今は気ままな旅人ではなく王族の儀式に携わる案内人としての役目を担っている。

「俺らが用あんのは、あの子自身じゃねえ」

「あ!?」

「聖獣に用があんだ。だから聖獣に会えりゃあそこであの子と関わることはねぇよ。」

「…巡礼者には見えねえが…」

「まさか、ただ会いたいからとか言わねぇよな。」

やけにつっかかる。リードはこのとき初めて冷たい目をした。

「その台詞、そのまま返してやるよ。」

「何だとっ!?」

弟が声を荒げた所為で、周りから白い目が向けられた。リードは頭を掻いて立ち上がると、外に出るよう二人に促す。

目立つ行為はしたくなかった。それは向こうも同じであるため、場所移動に異論は無かった。



ルヴェイトとはユーギストンの酒場で出会った。ルヴェイトはお忍びで街に下りており、酒場で飲んでいたリードが絡んだ。当時既にそこそこ名が知られていなければ、ルヴェイトが酔っぱらいに感心を持つはずもなく、二度と話すことは無かっただろう。しかし二人は語り合い、その後連絡したわけでもないのにたびたび酒場で再会し、なんだかんだと5年も交流があった。もはや気心知れた仲といってもいい。

彼はリードにとって尊敬に値する人物だ。実の妹に対する執着心は呆れや驚きを越えて最近安堵すら覚えるようになったが。



だから、そんな風に自分と違い色々悩んで生きているルヴェイトに対して、軽々しいことを言ったドットには腹が立った。

「さてと、ここなら平気かな」

広い場所に出たところで剣に手をかける。二人は突然緊張感を漂わせたリードに戸惑い、連携を取れるように左右対称に構えた。

「お前ら、この国に起きてること何か知ってるか?」

「は?」

「レヴィアを狙ってんのは、おめえらの主か?」

「なっ…」

淡々と問う。リードは別に本気で怒っているわけではない。ただ、頭でごちゃごちゃ考えるのが面倒になった。生来獣人とはそういうものである。


「今度は遠慮しねえぜ? 聞きたいこと全部吐いて貰うわ。」


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