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転生先は異世界でした。  作者: U1
第二章 二人が旅をする話
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偶然か。それとも

「貴様らに聞きたいことがある」


俺の声が聞こえているのかいないのか、片方が身じろぎして目を開いた。その目は俺達をとらえると、一度大きく見開かれる。


「……何なんだよてめぇらは…。」

顔を険しくさせて、やせた方が低い声で言う。冷静さを保とうと必死なのか、胸に着いた紋章をしきり触っている。何処かの組織の一員なのか。

ドットという大柄な方はまだ眠っていた。どうやらこいつの方が酒に弱かったようだ。


「お前らが声かけたっつう女の子のことが聞きたくてな。」

「聞いてどうするんだよ。」

「どうもこうも、会いに行くんだよ。」

「あの女は俺達が先に目をつけた。」

軽い調子のリードに男は強く淡々とした口調でそう言った。

…一体何の目的で聖獣の子に目をつけたかは知らないが、簡単に引くつもりはなさそうだ。


それはこちらもだが。

「邪魔されてノされた癖に生意気言ってんなよ。」

わざと挑発するリードに、男は顔を歪める。

「ああ?てめぇ、随分偉そうだなぁ?」

「別に偉かねぇよ。格下相手には無礼なタチなんだわ俺。」

リードがそう言うと、男の気配が不穏な物になる。

「んだと…?」

「お、やんのか?さっきは酒場ん中だったから止めたけど、ここは外。喧嘩なら買うぜ?」

にやりと笑った獣人の男は、背の大剣に手をかけた。

だが男は首を横に降った。

「…いや。」

「お。お前の方は冷静なんだな。」

リードが感心するなか、そいつはがばりと起き上がった。

その勢いのまま、鳩尾に拳を入れた。


だがその寸前で受け止められる。鋭い音が長く響いた。


随分と血の気が早い。大柄な男はおおらかだと聞いたことがあるが、世の中そんなにそういう人間は居ない。

「こっちはそーでもねぇけど。」

「チッ…!」

「狸寝入りは上手かったんだけどなー。その後の動きが遅くちゃ意味ねぇぜ?」

相手を怒らせてそこを叩き伏せろと言ったのは俺だが、嬉々として戦い始めるな。

「んだと…!?」

「止めろドット!」

可哀相なのはこいつだ。屈辱を堪えて下手に出ようとしたのに、身内にふいにされた。

「って言ってるぜ-?」

「止めろっつって止める馬鹿が居るかよッ…!」

ふらついている癖に尚攻撃を繰り返す男に、ため息が漏れた。


「馬鹿は貴様だ。」

「がぁッ」


息を呑むのと吐くのが同時に行われたような音が漏れた。

足を戻すと、倒れた男越しに呆れ顔のリードがこっちを見ていた。

「うわー、えげつねぇ…。」

手っ取り早い方法をとっただけだが、さすがに首はまずかったか。この男の筋肉の量だからこそそこを狙ったのだが、死んでしまいかねなかったか。


心配は杞憂に終わり、首を押さえつつドットは俺を睨んできた。面倒なのでその視線は無視することにする。

「話を戻すぞ。」

「…さっきも思ったが、あんたの方が立場が上らしいな。」

「さぁな」

「………」

実際、俺達に上下関係などない。利害で繋がっているわけでもなく、リードの純粋な厚意によって俺は迷わずにここまで来ることが出来ている。

…俺が偉そうに見えるならば、父親のが移ったに違いない。


男はため息をついて詮索を切ると、目を鋭くさせて言った。

「会いに行く、って言ったな。……なら、女をどこかに連れ去るとか、嫁に取るとか、そういうことは無いんだな?」

「無いに決まってるだろう。」

「そ、そうか。」

即答した俺に少し面食らった様子だが、男は決然とした様子で続けた。

「なら、俺の出す条件を呑むんだったら、あの女の情報を渡しても良い。」

散々叩き伏せられた後にそんな口がきけるのだからたいした物だ。

………確かに、俺は随分尊大になってしまったらしい。諫める人間が近くに居ないからといって甘えてしまっている気がする。もう少し己を戒めるべきか。


「おい、いいのか?」

答え無かった俺にリードが問うた。答えなど、一つしかない。

「ああ。条件は呑む。」

頷いた俺に、男は少しほっとした様子を見せた。


「んじゃ、条件っつうのは?」

「…さっき言った通りだ。」

「連れて行かなきゃいいのか?」

リードの問いに神妙な顔で男は頷いた。そんな条件なら無いのも同じだ。

「じゃあ、聖獣の子の情報を教えて貰おうか。」




俺達は一度酒場に戻ってきていた。酒場は朝から夜まで開いていて、今は定食屋のようなことをしている。

色とりどりの山菜を眺めながら肉食男はため息をついた。

「肝心なもんは手に入らなかったな。」

肉がたくさん食えないことに憂いを感じているのかと思ったら、そんなことを言ってきた。


確かに、ナノールドと名乗ったあの男は俺達が最もほしい情報はよこさなかった。


聖獣の子の名は、レヴィア。18、19の女で身体的な特徴は燃えるような真っ赤な髪。聖獣の能力故にか回復魔法に長けているらしい。

赤い髪などリードですら見たことが無いほど珍しい。それだけ分かっていれば顔が分からずとも誰がそのレヴィアという少女なのかは分かる。


「何処にいきゃ会えるんだっつうの。」

呆れ顔でリードは青色の細い薬草をかじった。それを確認してから食べ始める。ルエーナの瞳と同じ色の野菜は、意外に甘みがあって何もつけずとも食べられそうだ。

「酒場にはよく来るって言ってただろう。」

「だけどよ、あんなハゲ男二人に襲われた女の子がもっかい同じとこ来るかぁ?」

一理あるが、だからといって赤髪と名前を頼りに聞き回るわけにもいかない。そんなことをしたら間違い無く目立つ。

聖獣の子であるということは神官長が関わっていないはずがないし、さらに気をつけなければいけない。


だからこそ俺達は少ない確率をかけて酒場に来ていた。神官長はこの国の中央にある神殿に済んでいて、自国でいう下町のような雰囲気のここにはきっとやってこない。


黙々と青い草を食べる俺に、リードは「いいけどな」と言ってから首をかしげた。

「で、いつまでだ?」

「…一週間だ。それで駄目だったら一回山に登る。」

「で、無駄足になったら他の方法を探すと。」

納得して食べるのを再開したリードを見ながら、俺は空の皿を下げた。


それにしても、あの二人組は一体何者なのだろうか。似たような緑色の服装は、どこかで見たことがあったような気がした。ナノールドがしきりに触っていた紋章も。

瞳は青だったため故郷を断定することは出来ない。紫だったらフェイヴァーノ、茶色ならローキード、そして赤なら魔族だったはずだ。

フェイヴァーノの自警団崩れか自国の貴族崩れか、何にせよあいつらの目的が道徳的に良い物とは思えない。

しかし、あの強い目が気になった。あれは自分の正義に沿って行動する者がよく見せる目だ。


そして一番気になるのが、ここまでの情報を持っているのに何故わざわざ酒場で声をかけたのかという点。

恐らく居所も知っているのだろうし、ただ連れ去るだけならもっと良いやり方があった気がする。


俺の思考はここで打ち切られた。

俺達が再度入店した時とても複雑な顔をしたあのマスターの、よく通る声が響いたのだ。


「レヴィアちゃん!」

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