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転生先は異世界でした。  作者: U1
第二章 二人が旅をする話
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呑まれたくないから

「ここは酒場だ!ここは酒で勝敗を決めようじゃねぇか」

ごとり、となかなかの重音が低く鳴る。リードは無事だったテーブルに酒瓶を次々に置いた。


「……俺は良いけど?」

少年がちらりと男をみやる。男はその挑発的な視線を受けて片ほほをつり上げるように笑った。

「良い度胸だな。……おい、ドット!」

男はきびすを返すと、ずかずかと俺の横を通り過ぎていった。


しばらくすると、無事だった方の男が飛ばされた男を肩に背負ってやってきた。

ドットとはどうやらこの男のことらしい。まだダメージが残っているのか、ややおぼつかない足取りだ。…何故俺を睨んでから通り過ぎる。


「…兄貴、そんなことしてる場合じゃねぇだろうが。」

「だからってこのまますごすごと帰れる訳ねぇだろ」

「じゃあどうすんだよ!絶対あの女どっかいったぞ」

小声でこそこそとしゃべっているがこちらには丸聞こえである。恐らく同様に聞こえているはずのリードはひたすら飲む準備をしているが。

「ぐちぐち言ってんなって。さっさとやろうぜ?」

すでに席に着いている少年は、どこかそわそわとしていて楽しそうだ。

酒を嗜好する年齢には見えない。しかし、己の母という身近すぎる例があるため止めるのも阿呆らしい。

「ルヴェイト、お前もこっちこいよ!どうせならもう俺らも飲んじまおうぜ!」

宴会馬鹿の言葉に、俺はため息をつきつつも素直に従った。


酒は断固として飲まないつもりだが。




「…で結局、何でこんな騒ぎになったんだ?」

確認の為にそう問うリードに、少年は酒を仰いでから男達を指さした。

「こいつらが女の子襲ってたんだよ」

「襲ってねぇよ…」

ドットが回らない舌で反論した。その顔は赤黒く、男の敗北が近いことを示している。

「声かけただけだ…」

「女の子泣かしたら襲ったも同然じゃね?」

「で、殴ったのか?」

リードの問いに、頷く少年。

「てめぇ、まじ…おぼえてろよ…」

恐らくもうすでに限界だったのだろう。大柄な男はばたりと机に沈んだ。

もう片方の男は眠っている。恐ろしいほど酒に強い少年は、スイと名乗っていた。


聞いた話では、スイの方が先に手を出したことになる。そんな風にして始まった乱闘の理由は思いの外下らなかったが、その場にいなかったのでは真実は不明だ。俺は無言を通した。

リードは何を考えているのか、どこか感心しながら周りを見渡している。

「それにしては派手にやったなぁ…」

「あ、それほとんど俺な」

通りで店主が未だこちらに近寄ってこないわけだ。


だが、少し腑に落ちない。

手が出る速さは年相応とも言えるが、乱闘の激しさとこの落ち着き払った様子がかみ合わない。

「そこまでする必要があったのか?」

暗にやりすすぎだと言うと、スイは淡々とした顔で「主の命だからね」と言い切った。

「主?」

「あぁ。女を泣かせる奴には鉄拳の制裁をってな」

どんな主だ。

絶句している俺達を放って、スイはどんどん酒瓶を空にしていく。


大量の酒が空になり、やっと店主の顔に笑みが戻った頃スイは唐突に言った。

「あんたらは何しにここに来たの?」

ちらりと、リードがこちらを横目で伺ったのが目の端で見える。余計なことを言わせない為にも俺は口を開いた。

「観光だ」

「聖獣を見に来ましたって?」

「ああ」

「……」

嘘はついていない。ついてもいいが、つくと後々面倒になることが多い。

無言で探るように俺を見るスイを無視して茶をすする。この国特産という灰色の茶は、見た目はえぐいが味は中々だ。こんな時じゃなかったら土産として買っていただろう。


しばしの沈黙を挟んでから、スイはにっこりと笑った。

「じゃあ良いこと教えてあげるよ」

「お、何だ何だ?」

無駄に食いつきに良いリードに呆れつつ少年の言葉に傾ける。


「こいつらが拉致ろうとしてた女の子、聖獣と人との間の子だよ」




聖獣は、謎が多い生き物だ。姿形を自由に変えられ、下手な魔族よりも力強い。この国であがめられているスレイアが聖獣なのか神の使いなのか、それとも神そのものなのか、それすら分かっていない。

そして、数年前のことだ。ある魔族の女がこう主張した。


聖獣は、理性をもった特異性を持つ魔獣だと。


その主張はすぐに広まったが、真実として受け取られることはなかった。この国が猛反発したのは当たり前のことだが、他の国でも聖獣を聖なるものとして見る人間は多い。

この説は今では禁句となっていて、結局真実は定かではない。


それは今はおいておくとして、聖獣は人にも形を変えられる。幻ではなく、体の芯から全て変化できるらしい。

だから、聖獣と人の間の子供は存在する。

この国にもいて、神官長もそれに含まれていたはず。


スイが言っていた少女も、その類で、だが決定的に違うのはその血の濃さだ。

間の子、とスイは言った。

根拠も言わなかったしそもそもただの嘘かもしれない。


しかし、こちらは藁にもすがる気持ちなのだ。


俺達は少女を捜すことにした。

聖獣のことを聞くなら、聖獣に近しい者に聞いた方がよい。そして願わくば、その少女が神官長のように面倒な性格かつ立場でないように。



闇の中で水の快音が響いた。俺は伏せていた目を開ける。

「目、さめたか?」

剃髪はぬれると光るのか。

桶を小脇に抱えるリードと覚醒する男達を眺めながら、俺は口を開いた。

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