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転生先は異世界でした。  作者: U1
第二章 二人が旅をする話
20/32

ウザイというらしい。

ちょっと残酷表現注意。ぬるいですが。

見渡す限りに木や草が広がっている。自国と比べてさらに多い緑は、眺めていると落ち着く気がした。

しかし落ち着いている場合でもない。俺は上げていた顔を前に戻した。


青々とした風景の中に、異質な赤が混じっている。それをまき散らすそいつがまだ荒い息をしているのは、俺の腕が未熟な所為だ。


それは自らの腕が途切れているのにも関わらず走り出そうとした。すぐにバランスを崩して転ぶ。それでもなお、俺の血肉を狙って牙をむく。

無駄だと分かってやっているのではなく、分からないのだ。

これが普通の獣なら、すでに逃亡している。そもそも叶わない相手に姿を見せることはないだろう。


狼によく似た魔獣は口から血の混じった唾液を垂らしながら走る。無い片足をかばうことなく、緑の床に赤い道を作りながら走る。


一瞬だ。正面から向かってくる魔獣に合わせて、右に進みながら下段に構えていた剣を上段へ滑らせる。

刃は首をとらえて、止まることなく進む。背後から、どさりと同じ音が二重に聞こえた。


「ルヴェイト!」


声をしたほうに振り向くと、閃光が迫っていた。破壊力を持つ閃光を剣で受け止め、なぎ払う。

第二撃を予想して体勢を整えたが何もやってこない。

やや離れたところで、断末魔をあげて魔獣が地に伏せたのが見えた。


しばらくすると、もう一匹と相対していた男が魔獣を引きずりながらのそのそと歩いてきた。肩に担ぐそいつの大剣は、俺以上に血にまみれている。


それを背にしまうと男は片手を顔の前にやった。

「悪い悪い。ちょっとしくった」

謝罪の言葉を吐いているが、その顔はまったく反省がみられずただヘラヘラと笑っている。

無言で睨んだが、俺もこいつがそれくらいで反省するとは思っていない。諦めて腰の布袋から薄汚れた布を取り出していると、男の視線が俺が手にしている剣に移った。

「それ、フェディオから貰ったってやつか?なんか弱そうだな…」

「強度の点で言えば弱いな。刃こぼれもしやすい」

「ほー」

リードは俺が油と血をぬぐっている途中にもかかわらず剣を奪って眺めた。

「原魔石じゃねぇか。おめぇ位じゃねぇの?これ使えんの」

だろうな、と俺は頷いた。


原魔石は加工された魔石と違って触れる者の魔力を奪う。この獣人の大男に何も起こらない訳は、単純に無いものは奪えないからだ。

だから人相手に商品化は出来ないだろう。ローキード国の者は悔しがるだろうが、フェディオは違うな

。面白い物が作れれば良いという科学者は妹にまで目をつけていた。


そして、俺の話を聞いたフェディオはあいつにも興味を向けていた。恐らく邪魔者じぶんがいない間に接触するのだろう。

俺が会えないのに、俺の知っている奴があいつに会う。


理不尽だ。

全くそんなことは無いということは分かっているが、どうにも感情が愚痴る。腑に落ちない。


男から剣を奪い返して拭き直す。念入りに拭きだした俺に何を思ったのか、リードはのぞき込むように俺の顔を見た。

「なんか機嫌悪くなってね?」

「否定しない。だがお前の所為じゃない」

「おー、そうか。てか、お前エーリちゃんのこと気になってんだろ?」

にやにやしながら放たれた言葉に、俺は眉を上げてリードを見返した。

「気になってない方がおかしい」

「それもそうか。ルヴェイトだもんな」

お互いあっさりしている。もう5年の付き合いであれば当然か。

「んで、実は俺お前に呼び出される前にフェディオんとこ行っててよ」

リードは背負っていた布袋に手を突っ込んでかき混ぜている。恐らく物を探しているのだろうが、そんな探し方ですぐ見つかるか。

予想通り大分苦戦したあと、リードは手のひら程度の大きさの何かを取り出した。

何か、としか言いようがない。

それは平たい円形で琥珀色をしていた。真ん中には深緑の魔石が嵌っている。リードがそれを裏返すと、そちらには小さい穴が無数に空いていた。


リードは俺の反応に気を良くすると、それを耳に当てる。穴の方を耳に、石の方を外に向けて。

「おう、リードだ。聞こえってか?」

すると驚くことに、ここにはいないはずの人間の声が何かから漏れた。

『はいはい。ああ、良かった成功しました。ちょっと心配だったんですよねー』

「……ちなみに、失敗するとどうなってたんだ?」

『爆発してました』

「おいっ!」

フェディオ本人で間違いないな、と思っていると軽く青い顔をしたリードが怒鳴った。恐らくそれも予想していたのだろう。フェディオは怒ることなく間を開けて説明を続けた。

『まぁ成功して良かったじゃないですか。これであなた方との連絡もつきます。いるんでしょう?彼も』

「……あぁ」

まだ怒りが収まらない様子のリードは、だが俺に何かを渡してきた。見よう見まねで耳元にそれを当てる。

『ルヴェイトさん割とお久しぶりです』

「ああ」

割と、と言われて気づいたが、フェディオと最後にあったのはあの発表の日だ。中々時間が経っている。

『これは電話と言って僕が作りました。この通り、離れた人物との会話が可能です』

「便利だな」

簡単な感想を言うと、満足げな声が返ってきた。

『有り難うございます。ですがあんまり長くは使えないんですよね。だから、これだけ聞いときます。今どこですか?』

俺の導き手であるリードを伺うと、あと少しという仕草が返ってきた。

「スレイア神国、一歩手前という所だ」

『分かりました。……あ、そうだ。兄君の貴方に一応報告しておきます』

「…何だ」

笑みを含んだ声にはっきり言って嫌な予感しかしなかったが、聞かないという訳にもいかない。

『これからエーリ様と会ってきます。ふふ、うらやましいですか?』

「…ああ」

言葉と一緒にため息が漏れた。こいつといいリードといいあいつといい、俺をからかいたい奴が多すぎる。

『贈り物もしてきます。喜んでくださると良いんですけどねぇ』

「そうか」

『服にしてもよかったんですけどね』

「……そうか」

『結局それはやめにしました。また今度にします』

「……」

「壊すなよっ!」

リードの怒鳴り声に我に返った俺は、デンワを壊さんばかりに握りしめていた右手に気づいた。

『おやおや。では楽しんできますね』

俺のいらだちの原因はそう言うとさっさと通話を切った。もう声がしない。それだけではなく、先ほどまで淡く光っていた魔石が元のくすんだ色になっていた。

「これは俺が預かるな」

そう言ってリードが俺の手からデンワを取ったが、それに異論はない。むしろそうしてくれて助かった。

しばらくフェディオとは話さなくて良い。元々だがあいつは鬱陶しい。

「これであっちにも情報が行くんじゃねぇかな。フェディオもさすがにそれくれーは気ぃ回すだろ」

「どうだかな」

リードがデンワを取り出した訳がやっとわかり俺は溜飲を下げる。


俺達は身分を隠して練り歩いている。そんな俺達の行方など、あいつ含め父親達も分からないだろう。

知らせたいのは山々だが、他国に自らの立場を明かすつもりは毛頭無い。だから、このデンワとやらは俺にとって都合の良い物だった。


リードがそのデンワをしまい終えるのを見計らって俺は声をかけた。

「行くぞ。そろそろなんだろう」

「ああ。…やっぱそれ持ってくのか…」

それ、とは俺が手に持っている奴だろう。俺の方では魔獣を処理していた。荷台でもあれば楽だったのだろうが、とりあえず縄で縛って引きずっていくことにした。


何故そこまでして持っていくのかと問われれば、一つしかない。

「勿体無いだろう」

「出た。王子にあるまじき庶民的発言」

魔獣は食物として流通していて、街で売ればそこそこの金になる。自分たちの保存食としても良い。

使えるものは使え。あいつがこの場にいたら間違い無くそう言っただろう。

「わざわざ得を損にすることはない」

「でも血の臭い臭くね?」

間髪入れずに言われたこれには反論出来なかった。確かに、しばらく血の臭いが消えなさそうだ。


しかしこれまでとは違い、次の夜には宿を取れる。体を洗えるだけマシだ。

頑として持っていこうとする俺にリードは折れ、また俺達は歩き出した。

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