ある王の呟き
「はー…いつ帰ってくるのかな」
ある場所のある城、そのテラスに腕をかけて遠くを見るのは、この城の主だ。
彼は長い銀髪を無為になびかせながら、眼下に映る国ではなく遙か遠くを眺めている。
彼の視力は荒れる大海を越えた大陸まで見通せてしまう。
その視線の先にあるのは、四大国の一つであるユーギストン王国だ。
ユーギストン、と口の中で呟いて組んだ腕に顔を埋めた。
「ただの偶然なのかな…」
自分の名前が結局大して元の物と変わらないのも、偶然?
確認したかった。でも。
腕をずらして地上の景色を眺めた。自分の治める国が広がっている。
本当に不思議だ。一般人だった自分がこんな城、国、民を持つなんて。
初めこそ混乱していたが、今ではすっかり慣れた。そして、向こうからもきっと良い王だと思われている………はず。うん。
だからという訳ではないが、この城から出る訳にはいかなかった。自分が下界に出れば何が起こるのか、それはちゃんと分かっている。
だからって、いやだからこそ娘が勝手に出て行ってしまうとは思わなかった。しかも二人も。
前者はただ単に家出だったけど、多分後者は自分の所為だ。
あの名を口にした覚えはまったく無い。さすがにそこまでの馬鹿はしてないはず。
だけどきっと、何処かしらおかしな態度を取ってしまったんだ。聡い子だから、それに気づいて暴走してしまったのだろう。
心配だがあの子にはちゃんと人を付けている。まだ若いが優秀な子だ。あの子が居れば大丈夫だろう。手を出す心配は無いはずだ。良い子だし。
だから、自分はそこまで焦ってない。
ゆっくり待とう。それでもしあの子が自分の待ち人を連れてきてくれたら、これ以上のことは無い。
「大丈夫。まだ覚えている」
自分が生まれて一体何年経ったのだろう。数えてないが、長女の年齢からして恐ろしい数であることは間違い無い。
だけどまだ覚えている。何度も何度も呟いて、何度も何度もこの世界には無い字で書いた。
「柚木、瑛璃…さん」
これにて第1章終了です。
第2章からはルヴェイトとエーリの二つの物語になってきます。それに伴いここからは、前書きで視点を示すことはしません。
かといってタイトルで明確にすることもしません。
わかりにくいと思いますがご了承ください。




