とっても嬉しいんだけど
「ところでさ、どうしてここに来たの?」
王宮を出て離宮への帰り道、リズ様と手をつないで歩きながらふと私は疑問を口にしてみた。
自分が気にかける必要も無いと思ったので二人には聞かなかったが、実はずっと気になっていたことだ。
彼女はアレージュノ様と会うのは、実は15年ぶりだったらしい。姉妹様二人があまりにも淡々としすぎて驚いてしまったが考えてみれば当たり前だ。
本来ならば、魔族領から魔族が出てくるなどありえないことなのだから。
と、言ったらアレージュノ様に否定された。
実は、何処の国にも魔族はいるのだとか。
魔王は一年に一度数人の魔族を外に出し、他国の文化を持ち帰るのだそうだ。場合によっては数年同じ場所にいることもあって、そのまま人間と婚姻を結ぶ魔族もいるらしい。
アレージュノ様もその一人なのだろう。
ちなみにアレージュノ様の様子を確認するために遣わされた魔族さんもいる。やっぱり心配は心配なんだなぁ。
そんな訳で、魔族は身近な存在なのだという事が判明した。
だけど、リズ様はそうじゃない。なぜならアレージュノ様に魔族領まで送り届けるよう言われているのだから、遣わされたのではなく彼女自身の意志でここに居るのだ。
それを何故か問うと、彼女は軽く眼を細めてから答えた。
「妾は、姉上に会いに来たのじゃよ。父上が最近気にしていたからな」
「…最近?」
私は不可思議な言葉に眉をひそめた。その理由が分かったのか、リズ様は付け足すように続けた。
「姉上が嫁いだすぐは荒れていたらしいぞ。微妙な荒れ方で妾は幼かったゆえよく覚えておらんが」
彼女は唇に指をよせて思い出す仕草を見せた。お、アレージュノ様と同じ仕草だ。
「じゃが父上は温厚な方じゃからな。姉上の幸せがそこにあるなら人間相手でも構わないと言っておったぞ」
その言葉に、私はまだ見ぬ魔王に対する好感度が一気に上昇した。
というか、確実に人間よりも魔族の方が善人な気がしてきたよ。
「しかしじゃ。ここ最近、父上の様子がおかしくてな。いつもこの国の方を見て、なにやら悩んでいる様子じゃった。そんな父上は生まれてこのかた見たことが無かった」
だから彼女は姉の様子を見に来たのだと言う。
もしかしたら、父親は視察も気づかなかった姉の異変に一人気づいて、しかし魔族領から出られない自分に悩んでいたのではないか。
しかし、とリズ様は首をかしげる。
「姉上は絶好調じゃったのう。大変良いツッコミじゃった。むしろ腕が上がった気がするわ」
アレージュノ様…。
誇らしげに語る彼女に、アレージュノ様の気苦労を垣間見た気がした。
だがそれは置いておいて、彼女が最近おかしいというのはきっと気のせいだろう。兄妹達は特にそんなことは言っていなかった。そしてリズ様も同意見。
「妾の心配は杞憂だった。だから妾は帰るのじゃ!」
胸を張って彼女は帰るべき方向へ指先をビシッと向ける。その姿は大変勇ましい。勇ましいんだけど。
「そっちは北だよ…」
わざわざ後ろを向いてまで指さした方向は、帰る方向とは真逆だった。
部屋に戻ると、またもや仁王立ちの美少女が待ち構えていた。
今度は誰?なんて思わない。妹のルエーナだ。しかし、愛しの妹の顔を私は直視出来ない。
こ、怖い…。
ルエーナは形の良い眉をつり上げて、口を一文字に結んでいた。眼は半目だ。半目顔は私の役目でしょ、なんてふざけて言うことなんて出来ない。
「る、ルーエ…」
とりあえず一番頼りにしている侍女に顔を向ける。すると何故か、彼女はほほえみを浮かべながら親指を立てた。
その意味といえば、グットラック!
……頑張ろう。
「ルエーナ、ルーエから話は聞いた?」
「もちろん」
怖い。顔もだけど声もすっごい怖い。
「ところで、後ろの方はどなたですの?」
「妾か? 妾はそなたの母の妹じゃ。叔母に当たるの。名はリージェフィアという」
私に名乗ったときのように様付けを強要させつつリズ様はルエーナに手を差し出した。
ルエーナは反射的に手を出して握手を交わしたが、すぐにはっとして私に言う。
「本当ですの!?」
「ホントホント。私も今日知ったんだ」
「ていうか、母様に…兄弟が…?」
母親は天涯孤独の身だと思っていたらしい。やはり彼女の親二人は娘に事実を伝えていないようだ。
うーん、と首を傾ける。
言ってしまってもいいのではないかと思うけど、二人が言わないと判断したのならそれに従うか。
内心謝りつつ「驚いたよねー」なんて言ってみせる。
ルエーナは訝しげに思いながらも納得したようだ。
「話を戻しますわね」
戻さないで…。だがルエーナはびしりとルーエの隣を指さして私を睨んだ。
ルーエの隣には、旅に必要な荷物が置いてある。もちろん動きやすそうな服装も。後でちゃんとありがとうって言わないと。
「さて、私に何か言いたいことはありますかしら?」
「…最初に言わなくてごめんね」
「許しませんわ!!何で貴女方はいっつも事後報告ですの!」
「あー、ホントだ確かに」
複数形なのはルヴェイトも含めているからだろう。ルヴェイトのあれもびっくりしたなぁ…。先に言ってくれればパーティの後あそこまで悩むことも無かったのに…。
「確かにじゃありませんわ!」
「おお、そなたも良いツッコミじゃのう」
至極最もな事を叫んだルエーナに、深く感心したように言ったのは彼女の叔母だった。
いつのまに移動したのか長いすに寝転んだ彼女にルエーナがぎりぎりと顔を向ける。
「…ちなみに、どうして貴女はこの部屋にいらっしゃいますの?」
「ここに泊まろうと思ってな」
「え?この部屋?」
「当たり前じゃ」
当然のようにそう言ったリズ様だけど、この離宮には他にも部屋ありますよ?
だけどまぁ、特に困らないので頷いておく。ルエーナもよくこっちに泊まるし。
しかしそのルエーナはなにやら不満げだ。
「……私も今日はこちらに泊まらせていただきますわ」
「良いよー」
まぁそうなるだろうな、と軽い調子で了承する。
「それじゃあさっさと風呂に入るかの」
「そうだねー」
私は話が流れてほっとしていた。
それに、窓の外見ればもう真っ暗で、いつもならすでに寝ている時間だ。早寝過ぎだけど。
着替えの用意を頼もうとルーエの方を見ると、リズ様に腕を引っ張られた。
「じゃあ行くぞエーリ」
「お?一緒に入る?」
「…私だってお風呂は一緒に入ってませんのに…」
誰かと一緒に入るのなんて久しぶりだなぁと思っていると、ルエーナが酷く狼狽してそんなことを呟いた。
思わず吹き出してしまったのを赤い顔で睨まれ、笑みを堪えきれないままルエーナも誘った。
ルヴェイトといいルエーナといい、どうして私の兄妹達はこうもシスコンなのか。
本当は入れたかった下らなすぎる小話です。
本当にアホな話なので軽く読み流してください。
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さすがに王族用の風呂は広い。あと十人くらい入っても余裕だろう。
実は座る場所が無いのが辛いんだけど、それくらいなら我慢出来る。
三人並んで身体を洗っていると、不意に右隣にいたリズ様が叫んだ。
「そなた、なんじゃそのデッカイのは!」
「デッカイの言わない!」
そして指を差さない!
…何でなのかなー?
前の私はここまで凄くなかった。
だが、母に似たのか現世の私は恐ろしいほどナイスバディだ。16歳の身体じゃないだろ特に乳。
そして利用価値のなさに泣ける。前世時代はうらやましいなどと思っていたが実際あれば重いだけだ。
周りに同じ苦しみを味わっている人間が居ないため、それを吐露したことはないけど。恐らく贅沢な悩みとして取られるだろうけど。
左隣にいたルエーナが私をじろじろと見た後、自分の身体を眺める。
「…理不尽ですわ…」
「じゅ、14歳と16歳比べちゃ駄目だよー」
「…分かって言ってますわよね」
「…ごめん」
その通りだ。アレージュノ様を見る限り、ルエーナが16になっても私と競えるくらいにはならないだろう。
リズ様も同じような体型だが、ルエーナとは違って感心しているようだ。感心されても…。
そして、肩を落としているルエーナに励ますように言った。
「男に揉ませるとでかくなるらしいぞ」
「いや駄目だよ」
それは迷信だが、たとえ正しくてもそれは駄目だろう。どうせなら好きな人にやってもらいなさい。いるわけ無いだろうけど。
その言葉を聞いたルエーナは考え込むように頷いていたが、しばらくしてからハッとなって私を見た。酷くうろたえている。
「ま、まさかお姉様、お兄様に…」
「すっごい濡れ衣だよそれ!!」
私はそのとき、もしかしたら生まれ直してから一番大きい声で叫んだかも知れない。
ていうか、本人いなくて良かった…!




