困惑するほど予想外
一人決意を固めゆっくり息を吐くと、扉が軽くならされた。
「どうぞー」
相手は一人しかいない。気安く声をかけると入ってきたのはやはりルーエだった。
「エーリ様、」
しかし、その顔はいつもの慈愛をたたえたような穏やかなそれではなく、少し困惑が混じっていた。
「どうしましょう。謁見を望まれている方がいます」
「へ」
思わずお茶を落としそうになった。あっぶね。この茶器がいくらだか分からないが、高いのは間違いないんだから…!
慌ててカップを持ち直した私に首をかしげてから、ルーエは外を指すように扉を見つめた。
「ルエーナにじゃないの?」
頭の中で疑問符が浮かび上がる。とりあえず、お茶を置いて立ち上がった。
私に謁見したいなんて、私を御輿にしたい下等な貴族達しか思いつかない。しかし、それもここ数年は無くなっていたのだが。何なんだ。めんどくさいなぁ。
「いえ、エーリ様にと。なにやら渡したい物があるのだとか」
「……いらないって帰して」
もう賄賂にしか聞こえない。眉を寄せて冷たく言うと、ルエーナは自分でも不思議なことを言っているというような顔で「いえ」と言った。
「貴族の方ではありませんよ」
「え、じゃあ…外交の人ってこと?」
「はい、ローキード国第二工業区管理長、フェディオ=ローディナット様です」
眼が点になった。
フェディオという名には聞き覚えがある。というか、さすがに忘れられなかった。ルヴェイトの剣を作ったという、あの白衣の男。魔石を強引に剣にしてしまうなんて聞いたから、高い能力を持った人間だろうとは思っていたが、管理長かい。
ローキードの人間でなければ、こう思っただろう。何で政治的に力のない私に?
だが、今はこう思っている。何で魔力の無い私に?
首をひねって考えてみたが、何の答えもでなかった。だが、会っていきなり攻撃されるというわけでもない。献上品は見てから受け取るか考えよう。
私は困り顔のルーエに笑みを浮かべた。
「会うよ、ちょっと興味あるしね」
男は、応接間の長いすに優雅に座っていた。足が長いのがうらやましい。
テーブルを挟んだその向かいの長いすに座ると、男は私の顔を見て笑った。
「そんなに警戒しないでくださいよ」
人なつっこい笑みを浮かべた男が着ていたのは、やはり白衣だった。一応気を遣ったのか、その白衣には何の汚れもない。
男の笑みにつられたようにこっちも笑う。愛想よく、愛想よくと内心念じながら。
「ごめんなさい、少し驚いてしまって」
「そうでしょうねぇ…、僕もルヴェイト様の話を聞くまでは、正直貴女に会うつもりはまったくありませんでした」
それどころか気づかなかったもんな。皇女って。
だがそれよりも、ルヴェイトから聞いた話というのが気になってそこに口を挟んだ。
「ルヴェイトから何を聞いたんですか?」
「魔力は限りなくゼロに等しいのに、魔法を操るのがすさまじく上手いと」
「ほめてるんだかけなしてんだか…」
眉間を抑えて呟くと、くすりとフェディオさんは笑った。
「仲がよろしいんですね。ルヴェイト様があのような顔で話すのは、貴女のことだけです」
私はちょっと首をかしげてしまった。
「そうでしょうか。ルエーナのことでも、ルヴェイトは同じような反応をするでしょうけど」
「………これはこれは。ただでさえ障害が多いというのに」
フェディオさんは呆れたような声をあげた。ますます訳が分からない。寄っていく眉に慌てたフェディオさんは素早い動きで懐に手を突っ込むと、不思議な形の何かを差し出した。
受け取ってくださいと言われ、素直にそれを手に取った。
「今日貴女にお会い申し上げたのは、これをお渡しするためです」
それを簡単に言うなら、銃だった。
黒光りするそれはどう見ても現代風だった。銃だったのも意外だったが、現代風だということの意外さには負ける。眼を丸くしていると、その反応に気をよくしたのかフェディオさんはやや興奮した声で説明しだした。
「それは僕が作った物なんです。なんだか分かりますか?」
「武器でしょう?」
途端に驚いた顔をしたフェディオさんに、しまったと思った。この世界に銃は無かったのか。
フェディオさんは腑に落ちないという顔をしていたが、やがて納得したように笑った。
「ルヴェイト様の言うとおりでしたね。凄い想像力だ」
良かった。それで納得してもらえた。ほっとしていると、嬉々とした顔でフェディオさんは説明を続けた。
「そうです、魔法銃と名付けましょうか。では、その膨らんだところを見てください」
指されたところを見てみると、そこにはつるんとした濃紺の石がはまっていた。裏返すと、そちらにも付いている。両側に付いた濃紺の石はどうみても魔石だった。なるほど、魔法銃か。
「この魔石は補助です。」
貴女の魔力を補うための、と付け足したフェディオさんを無視して私はくるくると銃を回した。すると、本当の銃のようにある引き金が、またもや魔石で作られているのに気づいた。
「気づきました?それは、呪文なしで弾丸を撃つのに必要な物です。……見てもらうのが一番ですね。貸してください」
差し出された手のひらに銃をのせると、フェディオさんは構えて狙いを定めた。ちょ、やめて!それたっかそうな花瓶!
「おやめください!」
「大丈夫です。見ててくださいね」
銃が怖くて強引に止められない。止める声を無視してフェディオさんは引き金を引きやがった。
反射的に眼をつぶって、起こるだろう轟音に耳をふさいだ。
しかし、いつまでやっても何も聞こえなかった。
恐る恐る眼を空けると、苦笑を浮かべたフェディオさんが銃をテーブルに置いていた。
「見てください。これ」
指された方向に眼をやる。そこには、弾丸らしき物が落ちていた。だがその硬度は、どうみてもスライムレベルだった。ぷるぷるしてる。
「僕には魔力を制御することができません。弾丸を込めようともこんな物しかできないんですよね…。」
あなたなら、使いこなせますか?と問われた私は、困り顔のまま銃を手に取った。




