おぎゃあとは言ってない。
夜道って危ないよねえ。
ぽつぽつと立っている街灯に、意味なんかあるのかな。
迫るトラック。よける暇もなく、叫ぶ暇もなくぶつかったとき、
(あ、死んだな)
って、ぽつりと場違いに思った。
それを最後にブラックアウト。
死んだあとってどうなるんだろうねえ。もしかして、死後の世界とかがあって自分はそこに行くんだろうか。ぼんやりそう思ったら、すぐに視界が開けた。真っ白。まぶしい。
「…ああ」
心の底から、嬉しい。そんな響きのする感嘆がすぐそばから聞こえた。
その声の主、私を優しく抱くその女が自分の母親なのだと本能的に悟る。
「良かった…!さあ、お后様。お乳をあげてください」
そばに控えていた人は、おそらく彼女の侍女だろう。
………ん?
ぼんやりとしていた思考がクリアになる。
ちょっと待って。
私は歴とした女子高生。アイアムセブンティーン!お乳?WHY?
それに、私死んだよな!?
迫るトラックを、今でもはっきりと思い浮かべられる。
泣きもしない我が子を厭うことなく、母は目尻には涙を、頬には笑みを浮かべて言った。
「ユーギストン国皇女エーリ=ユーギストン。貴方は、エーリよ」
…わーい。
「…私に似て、魔力が低いみたいね。黒髪、黒目も私そっくり」
いえいえ、美人のおっかちゃんに似るなら良いッス。…で、魔力ってなんスか。
どんどん耳に入ってくるファンタジーな単語に、悟った。
享年17歳、柚木瑛璃。何故かファンタジーな世界に生まれ変わったみたいです。
……夢だったらいいのに。