第7話
今年の担任は前園といって三十過ぎた理系の教員だ。
見た目通りに理屈や決まりを優先する堅物で、間違った事をしようとしない性格が売りの眼鏡先生だ。勿論、不良なんて大嫌いだろう。始業式の時に少し話をしたが、初対面で分かりやすく俺を煙たがっていたのは傷ついた。
「早く席に座れよ、‥‥‥っと、冬野、来ていたのか」
眼鏡越しでも分かる上機嫌だった目が途端細く警戒する目になったのを俺は見逃さなかった。こういう所を気にする辺りが不良なんだな、と少し自己嫌悪する。
前園は俺達を眺め、成る程と小さく頷いて、
「おい冬野、そこはお前の席じゃないぞ。謹慎明けで分からないと思うが冬咲に譲れ」
‥‥‥‥なんて、ほざいた。
「ちょ、先生! 私も忘れていましたが、ちゃんと席順表見てください、ここは秋也君の席ですよ」
桂見が大きな声を上げて俺のフォローをする。
流石中学の頃から委員長として俺を世話してきただけある。俺が突っかかる暇を与えないつもりだ。
桂見がボードから席順表を剥がして前園に手渡す。それを見て、前園は小さくしまった、と呟いた。
「あーあーあー、そうかそうだったな」
わざとらしく頭を掻いて、俺と冬咲を見比べる。どうやらやっと状況が飲み込めたらしい。
「まぁ、クラス全員が忘れていた訳だしな、そうか、そうだったなぁ」
チラチラと俺を見る。別に普通に悪かった、とかすまん、とか軽く言えばいいのにそれも教師のプライドが許さないらしくボソボソと言い訳めいた台詞を並べている。誰に聞かせるでもない、自分に言い聞かせるように。
その大人らしくない応答が、余計に頭に来る。この教師は理系は得意だが、悪ガキを手の平で転がすのは苦手のようだ。その上、
「あーーどうしよっか?」
なんて桂見に問いかけた。
桂見も『私に聞くなよ』という顔をしているが、それを感じ取れるのは中学からこいつを見てきている連中だけだろう。こいつは感情を隠すのが上手い。
それに引き換え、俺はド下手だ。イラついているのを隠す事ができずに気付けば前園を睨んでいる自分がいる。
今まで俺達を野次馬のような目で見ていたクラスの連中も、気付けば無関係を装うように顔をそらしている。
それが余計に頭に来て、前の席の松田の椅子を蹴ってやろうかと思ったが、
「――――――あ、あの!!」
唐突に、楽器のような甲高い声が教室に鳴り響いた。脳に直接透き通って伝わるような声質の大声は、クラスの注目を一斉に集めた。
この特質な声の持主は一人しか居ない。俺も憂さ晴らしを止め、引き寄せられるように冬咲に目を向ける。