第6話
「ふぇ?セキジュンヒョウ、ですか?」
今まで調子良く日本語を話していたのにいきなり『ワタシニホンゴワカリマセン』といった顔をして俺を見る。
そこは突っ込まず、指で席順表の貼ってある場所を指しその存在を教える。
冬咲は指が指す方向を確認して、パタパタとその場所に向かって走っていった。
「桂見、これどういう事だ?」
その間に素早く委員長である桂見に確認する。
「ホントにご免。アンタの事忘れていた訳じゃないんだけどね、私も含めて皆あの子に浮かれててその席がアンタの席だって忘れてたわ」
「ハアァ?!」
身を再び乗り出して驚く。それと同時に鳴り出す授業開始のチャイム。
バタバタと教室内が慌しくなり突っ立っていた連中がそれぞれ自分の席に着く。
「忘れてたって、お前等全員俺の存在を忘れていたのか?!」
「忘れていた訳じゃないの。ただあの子用に机を持ってくるまで仮の机って話だったんだけど、あの子の世話とか色々してたら私も先生も忘れちゃったみたいで」
テヘっと舌を出し拳を頭に当てて実に桂見には似合わないポーズでごまかそうとする。馬鹿にしてんのか。
先生も含めクラス全員が忘れていた事は呆れるが、中学からしっかり者で通っている桂見が忘れているのには正直驚いた。それ程冬咲の登場は衝撃的だったのか。
と、パタパタとせわしなく冬咲が戻ってきた。
「あの、えっと、私、知らずに間違っていました!先生にここだと言われた気がしたのですが、えっと、あれ、」
勢い良く走って来たと思えば、そのまま勢いをつけて俺に急接近してきた。机を挟んでいるからいいが、今俺と冬咲の顔は拳が一つ入るかどうかの距離にある。
目の前の顔は動揺しているのか目がしきりにキョロキョロしている。顔も赤く、どうやら余程混乱しているらしい。
「わ、悪気はないのです!! ホントに知らなくて、その、すみません!!」
顔を余計赤くして謝る。
「ちょっと、秋也君」
呼ばれて桂見に向く。すると桂見は指を回し『周りを見ろ』と俺に知らせる。
言われて、気付いた。当然と言えば当然だ。授業前で静まった教室で謹慎明けの不良に海外からの転校生が大声で謝っていれば、注目するのが必然とも言える。
チラホラ『あ、冬野だ』と今になって俺の存在に気付いた奴もいれば、俺の存在に険悪な顔をする奴も居る。というか、ハッキリいって心地良い視線が向けられていない。
まぁ、こんな正直者な顔した奴が俺に構っている図は見ていて面白いものじゃないだろう。
「ちょっと冬咲タンマ。とりあえず落ち着け」
顔を離し、冬咲の目の前で手の平を大きく開く。それに冬咲も驚き、顔を離して俺と距離をとる。
「えっと、すみません」
さっきからこいつはそればっかりだ。と、静まった教室にガラガラとドアが横にスライドする音が響く。それは教室に誰かが侵入したという事で、このタイミングで教室に来る奴は教員しかいない。
また悪いタイミングに、と思ったがその教員は担任の先生だった。知らなかったがこの時間はあいつの授業なのか。
「授業始めるぞーーって、どうした、桂見に冬咲」