第4話
言ってやった。
べ、別に彼女の発音を馬鹿にしている訳でも彼女の発音に触発された訳でもない。間違っても俺が普段から朝はこの挨拶をしている事実も存在しない。
どうしてか、真似してやった方がいいと思った、それだけだ。なのに、顔が目茶苦茶に熱い。
てか、折角恥を分かってそっちの挨拶に合わせたのに何か反応しろよ。これじゃあ俺が滑ったみたいじゃねぇか、
「良かった、ちゃんと挨拶してくれました!」
唐突に、目の前に満面の笑顔が咲いた。今まですました顔だったのにいきなり飛び上がるようにリアクションするもんだから驚いて少し仰け反ってしまった。
彼女は余程嬉しかったのか、右手でピースサインを作り桂見に向ける。桂見も何故か釣られてピースサインを返している。
「‥‥‥‥な、何だ?」
俺だけが取り残されたように反応が遅れ、今になって言葉が出た。
彼女は俺の正面に立ち、向かい合うように机の前に立ちはだかる。狭い場所に立つもんだから前の席の松田が困っているような気がするが今は無視だ。
「貴方がトウノアキヤさんですか?! 初めまして!」
挨拶なのか彼女が頭を頭突きのように下げるブワン!!と、目の前の金髪が縦に揺れる。それを素早くかわし、どう反応したらいいのか分からず桂見の顔を見る。
桂見は、『任せた青年!』という顔をして俺を突き放した。
「は、初めましてだ。何でお前は俺の名前を知っている?」
警戒しながらとりあえずそれらしい返事を返す。するとまた金髪がブワン!と揺れ俺の顔をかすめる。
「はい! 私はこのクラスに転入してきた冬咲秋音と言います! 宜しくお願いしますトウノさん!」
ブワン!ブワン!と何度も繰り返すように金髪が揺れる。その適度に長い金髪は俺の顔を狙って動いているように俺の顔を何度もかすめる。
冬咲秋音と彼女は名乗った。その日本名といいさっきの不恰好なフランス語に比べて違和感の無い日本語といい、こいつ、ハーフか‥‥‥
だが、さっきから何故か俺の名前の発音だけは少し悪いのが気にかかる。
「トウノさんとは今日が初めての顔合わせですが、どうか仲良くしてください!」
「分かった分かった、分かったから頭を振るな! あと俺の質問に答えていない!」
「???」
「名前、どうして俺の名前を知っているかだ」
「どうして、ですか?」
キョトン、と分かりやすい表情で俺を見詰める。
「そんなの簡単です」
冬咲はまた満面の笑みを作り俺に、
「名前が似ているからです!」
と、何でもない事を大声で叫んだ。