第1話
「うぃーッス」
短く挨拶らしい言葉を呟いて教室のドアを開ける。室内は休憩時間の為限られた時間を無駄にしないように賑わっている。
勿論、そんな忙しい中でわざわざ俺の挨拶らしい言葉に返事を返す奴はいない。というか、俺の登場に何人気付いているのか怪しい。俺こと『冬野秋也』(とうのあきや)はこのクラス、いやこの学校ではそういう存在だ。
そんな冷めた対応も慣れれば良い物で、今では変に構われるより楽で助かる。特に俺も用が無いので、黙って自分の椅子に腰をかける。
と、どうやら俺の存在に気付いた人物が居たようで、一人俺の机に向かって真っ直ぐ向かってくる。
「お早う秋也君。それと今日も遅刻ご苦労様。それと謹慎終了お疲れ様」
「一々挨拶の多い奴だな。朝はお早うだけで充分だろ」
机に頬杖をつく俺の目の前で、その人物は仁王立ちで睨んでくる。
「それはアンタの日頃の行いが悪いからでしょ。普通はお早うだけで住むのが当然なのよ」
偉そうに説教をするその姿は正直もう見飽きた。この偉そうでキツイ顔をした女は桂見巳緒といって中学からの馴染みだ。長いウェーブのかかった長髪が特徴的でツンとした顔立ちに良く似合っている。何かと責任を任される仕事を押し付けられる人柄で毎年委員長を務めている。そのせいか、こうしていつも俺につっかかってくる。
「だからって朝から説教なんて止してくれ。やる気が無くなってつい授業をサボっちまうだろ」
「遅刻してきた人間が何を偉そうに。二限目から登校してくるような輩にやる気なんてある訳ないでしょう」
痛い所をつかれて黙ってしまう。というのも今は既に十時過ぎ、登校の時間は既に終了している。
今日は一応登校時間に間に合わせるつもりはあった。うるさい同居人に朝早く起こされた記憶はあるが、学生なんてもう一度目をつむれば二度寝をしてしまうのが性分。あっという間にこんな時間だ。
「全く、謹慎明け早々にこれだとまた先生達に睨まれるわよ?」
「そんなの既に手遅れだよ。今更良い子に見られたくも無い」
今日が一週間ぶりの登校なのには少し訳があり、実は始業式が終わって早々に問題を起こしてしまった。
といってもただのつまらない喧嘩。少し上級生と揉め事になりそれが原因で謹慎処分を受ける事になったのだ。まぁ別に謹慎もこれが初めてでは無いし俺自体は別に悪事をおこなったつもりも無い。その為別に内面で凹んだりはしていない。
ただ、始業式から一週間もこの学校の情報に疎く(うとく)なったのは少し痛い。
「それよりも桂見。ちょっと聞きたい事があるんだ」