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Pastel  作者: 芥屋
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四月

 春と呼ぶには肌寒い、太陽の光が心地良い四月の世界。

 未完成とも思える冷えた春風を俺は何故か気に入っている。一週間ぶりに着た制服が堅苦しくてブレザーを開き、ワイシャツの一番上のボタンを開く。可笑しな事に、その不真面目な格好をすると自分が高校生であるという自覚が表れる。

 それと同時に無意識に出る、短い溜息。今日からまた学校に通うという憂鬱、出来損ないの日々を過ごすという憂鬱、様々な憂鬱を、俺は無意識の内に溜息として外気に吐き出す。

 それは、自分が日々に不満を抱いている証拠。不完全な毎日に自分が納得していない無意識の表現なのだ。

 それを、俺は自覚している。自覚していながら、俺はそれを無意識に吐き出す。その単調な繰り返しをしながら毎日を過ごしている。

 目標が無いという事がこんなに苦痛だとは思わなかった。退屈は日々を腐らせ、人生を堕落させ、己を曇らせる。

 自分でもそんな自堕落な日々を過ごしていると思う。そういった振る舞いが他人に不良と思われるのも自覚している。

 だけど、止めない。正確には自分で止められないというのが事実だ。

 目標という、日々を歩く道標を俺は無くした。どうして無くしたのかは、俺にとって禁断の記憶、脳裏に住み着く現実に起きた悪夢。

 それがある限り、俺は無くした道標を取り戻す事は無いだろう。

「‥‥‥ハァ」

 また、溜息。

 今日住処を出てこれで溜息を吐き出したのは何度目だろう。今度余裕があれば暇つぶしに数えてみよう。するとどれだけ自分が退屈な人間か分かる筈だ。

 なんて自分の思考に馬鹿々しいとケチをつけ、俯き気味だった顔を上げる。

 すると目の前には、既に目的地である『和信高校』が豪然と構えてある。どうやら馬鹿な考え事をしている間に此処まで来ていたようだ。

 校門をくぐる前に、もう一度溜息。此処まで来る間に溜めた負の雑念を吐き出すように口からその塊を吐き出す。

 そしてもう一度、顔をあげる。その時――――


「――――‥‥‥誰、だ?」


 角度を上げた視界は、一人の学生を無意識に捉えていた。

 その姿を確認した時、違和感を覚えた。三階の窓越しに見えるその人物、俺の教室であろう場所に居るその女子は、俺の思考を白に染めた。

 この離れた距離でも分かる程、その女子の髪は輝いて俺の目に映った。まるで太陽のように輝くその金髪に、俺は目を離せない。

 俺は意識を奪われたかのように呆然と立ち尽くす。いや、意識は既に奪われている。固まったように体は動かず、思考はその役割を忘れたかのように働かない。

 途端、その学生がこちらを向いた。

 その視線がこちらを向き、俺の視線は既に奪われている。すると必然的に、その二つの視線はぶつかる。要するに、目が合ったのだ。

 俺はその時、時が止まったかのような錯覚に襲われた。それと同時に、俺は無意識にある言葉を口にしていた。


 ただ‥‥‥『綺麗』だと。

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