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プロローグ
幼い頃、父のアトリエを覗く事が大好きだった
ガラクタとキャンバスで埋め尽くされた狭い空間
あまり覗いては駄目だと母によく言われていた
だけど、それは幼い俺の好奇心を止める事はできなかった
その狭い部屋の中心に、父はいつも居た
俺が顔を覗かせると、父は嬉しそうに部屋に招いた
ここに来ると、俺の知らない世界が溢れていた
それは父が描いた空想の絵画
四方形の限られた箱庭に拡がる、幻想のような別世界
一枚一枚全てが違い、全てに違う世界が描かれてる
それを父と共に見るのが、幼い俺には何よりも楽しかった
俺には一番好きな世界があった
それは、青で覆われた空のような世界
白が点々としていてまるで雲のように浮かんで見えた
父に、これは空を描いたのか、と尋ねた
すると父は首を横に振った
これは空では無い、なら一体何なのか
父に尋ねた
すると、父はこう言った
空を描いたつもりは無いんだ
だからといって無闇に青を拡げた訳では無い
だた、『 』を形にしたかったんだ――