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セツナ  作者: 空き缶文学
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第五話

よろしくお願い致します。

 レンガで造られた街でのことです。

 人の出入りが少ない地区に建っているコンクリートのビル。

 太陽がようやく半分顔を出した早朝、ビルの近くで忙しそうに動く中年の男がいました。

「何をしている?」

 その様子を無表情で眺めていたセツナは中年の男に質問します。

 茶色のコートに黒色のズボン、首元には真っ赤なマフラー。腰に差した刀は洋国では珍しい倭国の武器です。

「街の清掃しかないだろ。お前も用が無いなら街に来ちゃ駄目だろうに、どうしたんだ? セツナ」

 中年の男はセツナの事を知っているようです。

「大事な用があるから街に来ている。終わったら大人しく帰る」

「そうか、なら気を付けなさい。この街はお前を歓迎していない」

 小型の貨物自動車へと布で包まれた死体が運ばれ、中年の男は軽くセツナに手を振りました。

 セツナはただ小さく頷いて、帰っていくのを見送るだけ。

 それから太陽が完全に姿を現した頃。

 セツナは刀を何度も鞘から抜いては白銀に輝く様子を見つめていました。

 その姿を内側にいる一人の男性が怪訝そうに睨んでいます。

 黒色のスーツ、ズボン、ネクタイ。男は刈り上げた茶髪を片手で触りながら出てきました。

「ヘレナは休養してもらってる。悪いが帰ってくれ」

 その声に反応したセツナは刀を鞘に戻すと、ゆっくり立ち上がります。

 そして、

「お金をもらっていない」

 と、答えました。

「は?」

 男は数秒、時が止まったかのような気分です。

「っ貴様! 少しは心配しろ!!」

 二人の間を割って入ってきたのは男と同じ服装の少女。

 長い茶髪を後ろで結い、迷いのない透き通った紅い瞳でセツナを睨みつけます。

「うお、ヘレナ!? いつの間に」

 男は驚きます。

 セツナは無表情のままヘレナに視線を変えました。

 その反応に息を吐くと、今度は男を睨みます。

「ガイ、ボスならそう簡単に姿を見せるな。客人の相手をするのは我々部下の仕事だ。ボスの命は安くない、そのことを理解してくれ」

 ボスとしての行動について注意をするヘレナ。

「わかったよ、でもそれならお前だって一緒だ。今の状態で危ないことをするなよ、これは命令だからな」

 ガイは渋々二人から離れてビルの中へ戻っていきました。

「何故キングのボスは皆こうも前へ出る」

 腕を組みながらヘレナは尽きない悩みの一部を吐き出します。

「それと貴様、カナンを助けてくれた報酬だ。望む金額をこの紙に書いておけ」

 差し出した白い紙切れとペン。

 セツナはそれを受け取ると軽やかにペンを走らせました。

「ん」

 受け取ったヘレナは紙に目を通します。

「そうだな、もっと増やしても構わない」

「結構な額だと思った……」

 ヘレナは苦笑しながら紙を再びセツナへ。

「キングにいれば金はいくらでも稼げる。もう一度聞くが、我々キングに入る気は」

「無い」

 相手が言い終える前に即答しセツナは紙を返して外に戻ろうとしました。

「っておい、まだ話は終わってない!」

 怒鳴り声でセツナを追っていくヘレナ。

 昼だというのに人通りの少ない街は静かです。

 フードで首から上を隠す親子が壁際で座り、男達は背中にショットガンを装備して歩いてました。

「外に出よう、貴様に少し話しておきたいことがある、聞きたいことも」

 セツナは言われた通りに街の外へ出ると、果てしなく続く緑の草原と簡易的に舗装された道が広がります。

 特別な景色ではない、見慣れた風景です。

 街より少し離れた先には一軒の小屋。セツナが現在住んでいる家です。

 その近くで二人は横に並んで自然豊かな景色を眺めていました。

「カナンを救出してから一週間は過ぎた」

「それがどうした?」

 苦い物でも口にしたような表情でヘレナは答えます。

「アドヴァンスの動きが全く変わらない、教祖を殺したというのにクローン迫害も激しくならない、民衆も信者も騒ぐ様子もない。まるで何も無かったように」

「なら生きているのか」

 その返答にヘレナは首を横に強く振り、否定しました。

「馬鹿な、喉元を近距離から掻っ切られて、しかもあんなに多量の血で生きているはずが無い」

 今でも自分の手に残る肉を切り裂く感触。

 殺してはいないと、セツナは何故か殺し損ねたことに焦ってしまいます。

 殺したくないのに、人殺しなどするべき行為ではないと思っていたセツナ。

 この悔しさに似た感情はなんだろうか、と疑問を浮かべてしまいます。

「カナンがあんな邪教に奪われたら今まで守ってきた意味が無い、あそこにいては穢れてしまう」

「穢れ?」

 ヘレナは腕を前に組んで、説明をします。

「カナンにも、一応クローンの血が流れている。彼女がもし他人の妬み、憎悪を知ってしまえば精神が侵され瞳は変色し、最悪人格は崩壊する。これは普通のクローンと似た症状だ」

 セツナは眉をしかめて、その説明に理解できていない様子。

「クローンは短命で、平均的に二十歳しか生きられない存在だ。大体この街で隠れ住んでいる奴らはオリジナルから作られたクローン。でもカナンは人間とクローンとの間で生まれたハーフだ」

「差別されているのに、人間がクローンと結婚したのか」

 ヘレナは口をへの字にして頷きます。

「父親は極悪人でキングの初代ボスでダッチ、母親は洋国の聖母様カノン。既に二人共他界している、だから私達組織が穢れないように見守っている」

「ふーん」

 最早興味のないセツナに、ヘレナは苦い笑み。

 ですがすぐに真顔に戻って説明を続けました。

「とにかく、カナンに邪教を近寄らせたくないということだ」

「わかった。それで?」

「貴様はどうしてこの街にいる? ここは私達クローンを受け入れてくれないのに、わざわざ外に小屋を建てて住んでいるのかを聞きたい」

 その問いに、セツナは首を傾げます。

「覚えていない、ただ気付いたらここにいた。あの小屋はジャンが用意してくれた物、あとは管理者がよく私に仕事をくれるからここにいるだけ」

「それだけか」

 頷いたセツナはふと眉をしかめます。

「ヘレナはなんで組織にいる?」

 聞き返されたヘレナは目を細めました。

「私は、私は……初代ボスに拾われて、人の殺し方を教えてもらった。極悪人だったけど聖母カノンが死んだ時、私にカナンを任せて自ら命を絶ったんだ。初代ボスとの最後の約束を守る為私は組織にいる」

 真っ直ぐな瞳で草原を見渡します。

 すると、セツナは一歩二歩と、前に進んで立ち止まりました。

「セツナ?」

「約束なら仕方ないけど、カナンはあそこにいて大丈夫なのかと思った」

「大丈夫……じゃないと思う。いずれ彼女は大人になり、全てを知らなければならない時が来る。そう考えると不安だ」

 自らの腕を握りしめて、ヘレナは呟きます。

「ふーん」

 興味のない素振りにヘレナは話を変えました。

「金はどうする? すぐに用意できるが」

「ジャンに全て渡してほしい」

「あのバカ息子に?」

 セツナは無表情のままですが、

「バカって言うな、あれでも命の恩人だ」

 少し怒っているようにも見えます。

「ほーお、よっぽどのことがあったらしいな」

「ム」

 マフラーで口元が隠れてしまうほど顎を引っ込めました。

 興味津々のヘレナは笑みを浮かべています。

 セツナは眉をしかめて、喋りたくないサインを出しますがヘレナはそれを無視します。

「まぁ、言いたくないなら別に構わない」

「この街に辿り着いた時にジャンが助けてくれた」

 訊かれていませんが簡単な説明をしたセツナは口を閉じました。

「そう、少しだけど貴様のことが知れて良かった。じゃあこの金はジャンに渡しておく」

「ん」

 セツナは頷くと、そのまま見送ることもなく小屋の中へと入っていきました。

 振り向くこともなくヘレナは街へと足を進ませます。

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