第十六話
レンガの街でのことです。
道路も建物も壁も門もレンガで造られていました。
奥地の場所に建てられた教会、広大な土地をもつ邸宅、少し離れた場所に建てられたビルを除いて。
正面門に建ち並んでいた民家は綺麗に粉砕され、粉となり周辺には小さな砂漠ができていました。
街中に散らばる遺体は粉々になったレンガに埋められ、踏まなければわからないほどです。
悪天候だったはずの空は透明にちかい水色を描き、雲もどこか遠くへと飛んでいきました。
背伸びがしたくなるような晴天の下、少女は半壊した建物の壁に背中を預けて空を眺めます。
つややかな茶色の髪は背中まで届き、邪魔にならないよう後ろに束ねて結ってありました。
「あんな強力な麻酔を撃つとは、殺す気かあの馬鹿者」
文句を呟いても治まらない鈍い頭痛と眠気。
黒い背広は争ったためか少々破けており、出血もあります。
彼女が目を覚ましたのはつい先ほどでした。
立ち上がりたいのですが、どうしても力が入らずしばらく壁にもたれて時間を待っているのです。
崩れた門の下に漆黒の刀があり、目の前には砂に埋もれている灰色の刀。
回収しなければならないのですが体はまだまだ動けません。
教会に避難していた住民達やアドヴァンス教会の武装信者が次々と半壊した街に出てきました。
そこへ武装信者の一人が武器も所持せず、少女のもとへ歩み寄ってきます。
「お前がいたキングは壊滅した。とっと街から出て行ったらどうだよ? 変な化物もやっとどこかへ消えたし、もうお前らクローンの居場所は無いからな」
緑一色の制服に顔を覆うゴーグルと防寒用ヘルメット姿で表情がわかりません。
馬鹿にしたような口ぶりだけが耳に残った少女は、無言で手を振り相手を追い払いました。
周りからいなくなれば、少女は溜息を吐きだして肩を力なく下げます。
「君が、ヘレナだね」
幼さが残る少年の声は笑っているようにも聞こえました。
真っ白なフード付きのローブで全身を覆いつくし、座り込む彼女をヘレナと呼ぶ。
フードで顔の半分を隠し、笑っている口元だけがヘレナの視界に映り込みます。
「だとしたら、なんだ?」
「ドイゾナーが君を欲しいと望んでいる、どうかな」
「意味不明過ぎる」
ヘレナは顔を俯かせて目を閉じました。
「だよね、アイツは意味不明だよね。ねぇちょっとしたゲームをしない?」
少年は嬉々として声を大きくさせます。
「ゲーム?」
「大事な聖女様は今首都に向かう途中で、都から湖の街へ、そして首都に到着っていうルートを進む予定さ」
「首都へ……聖祭」
「そうそう、聖祭は二ヶ月後。首都にたどり着く前に助けることができれば君と聖女様は自由。間に合わなかったら君の肉体と聖女様をアドヴァンス教会がもらうからね」
少年は楽しそうに説明を終えます。
「わかった」
迷うことなく、疑問を感じることもなくヘレナは承諾。
「でも、お友達に手柄をとられたらダメだからね」
「なに?」
次に顔を上げたときには目の前に少年の姿はありません。
奇妙な相手と出会ってしまった、ヘレナは小さく首を横に振り息を吐きました。
ふらつく意識と体を無理にでもはっきりとさせて、自らの力で立ち上がります。
体内に残る麻酔の余韻に浸らされながらも、ヘレナは二本の刀を回収。
刀をベルトの左右に差して崩れた門へと足を進ませていると、なにやら後ろから誰かが走ってくるのです。
「あー、待って!」
振り返るとそこにはボロボロの服を着たクローンの姿。
顎には不揃いな髭が生え清潔も保っていない様子ですが、精悍な顔つきでしっかり整えていればいい男に映ります。
「貴様、生きていたのか。今更何だ?」
相手にするつもりはないのですが、今この街で生きるのはとても大変なこと。
同情も込めてヘレナは対応します。
「俺も連れてって! 息子は邪教なんかに入信しやがって、妻もよくわかんないけど保護施設に連れてかれてさ、心細い、頼む! 一生のお願い!!」
「私は急がないといけないことがある。他人の面倒なんか看ている暇なんてない」
それでも両手合わせて両膝を地面につけて男はこれでもかというくらい懇願を続けます。
今はもうクローンは街にいません。
住民や武装信者の視線が痛いほどヘレナと男に集中していました。
出ていけという感情が手に取るようにわかります。
「う、街から出るぞ、この馬鹿者」
「いいのか!?」
赤い瞳を輝かせた男は年下の背中を追いかけて街の外へ向かいました。
治安悪化を辿ったレンガの街から出れば一面草原の世界。
草を刈っただけの簡単な道が一直線に続いていますが、街に来る者はいません。
ヘレナは街を覆う外側の壁へともたれ、男は地面に座り込みました。
「貴様は村に行かないのか?」
「いやぁ、村に行って死ぬまで農作業とか勘弁してほしいよ。この街は急に住みづらくなったし、だから一緒に行かせてよ、その聖女様救出に」
先程の会話を聞かれていたのでしょう、ヘレナはがっくりと肩を落とします。
「さぁさぁ急がないと、ほら行こうぜヘレナちゃん」
「ちゃんをつけるな」
「ちなみに俺はタイガ、これでも三十歳だから平均寿命をかるく超えた最強のクローンだ。冷たい妻は人間で馬鹿息子は可哀想にハーフ」
「貴様の話はどうでもいい!」
完全に麻酔が切れたのか、ヘレナは大きな声で調子に乗ったタイガに怒りをぶつけました。
「まぁー怒るなよ、綺麗な顔が台無しになるだろ」
「う、うるさい」
ヘレナは静かに呟きながら密着していた壁から離れて先に都へと歩みを進めていきます。
照れているのだとすぐにわかったタイガは、にんまりとした笑顔で彼女の後ろへ。
「まずは服を変えた方がいいか」
「都は回避して別の場所へ行った方がいいかも、砂漠地帯とか」
「砂漠? あそこは内紛で街や村はひどい状態だ、調達どころか通るだけで時間がかかる」
「大丈夫だって、砂漠は俺のオリジナルの生まれ故郷でよーく知っている」
自慢気な表情がどうも信用できません。
賭けるべきか無視するべきか、タイガの顔を窺いますが解決策は浮かばない。
「いいねぇ、お嬢さんの悩む表情。そりゃみんな抱きたくもなるさ、一体今まで何人の男とぉ!?」
タイガのみぞおちへと強烈な一撃が入り込む。
「砂漠へ行くぞ」
鞘に収まった灰色の刀を片手に、しゃがみ込むタイガを放置してさっさとその場をあとにしました。
回復の早いタイガは余裕の表情でヘレナの後ろをついていきます。
歩き続けること一時間、タイガは目線をずっとヘレナの方へ向けていました。
会話がない二人旅は寂しいものです。
特にお喋り好きな者にとっては、退屈すぎる。
一向に喋りかけてくれないヘレナから視線を外さないタイガ。
「さっきから貴様はじろじろと、なんだ?」
先に痺れを切らしたのはヘレナでした。
「おじさんと喋ってよぉ」
タイガは寂しそうに自らを指してアピールしますが、ヘレナは睨みつけます。
「おお、こわい。仲良く話してくれよ、黙っていたら死んじゃうだろ?」
「死んだら埋葬くらいしてやる。それまでは頑張って歩け、無駄話は着いてからにしろ」
冷たい言葉をもらったタイガはさらに気分が沈んでしまう。
「まだ半日もかかるのにその間黙りこむっていうの、俺にはツライぜ」
「行く先の途中に村があれば、休んでもいい」
年上の男が背後で嬉しさを飛び跳ねて表現しています。
この先に村がないことを密かに祈るヘレナでした。
ですが、期待というのは裏切るためにある、というのは事実かもしれません。
平等に与えてもらえないことが不満になりそうです。
ヘレナは先に見える村を発見してしまいました。
「おいおい、ヘレナ。あれ村だろ」
鬱陶しいくらい肩を揺らされてもヘレナは唖然とするしかありません。
木で建てられた家が三軒と小さな井戸、はっきりとヘレナの視界にも映っています。
小さな畑のそばには手作りのお墓がたくさん並んでいました。
「ちゃんとしてくれるのは村だけか、あー将来が怖い」
「それで、休むのか?」
「そりゃもちろん!」
タイガに押されながら足を進ませるヘレナ。
二人の村人がこちらに気付いたのでしょう、大きなあくびをしながら立ち止まっていました。
「迫害はまだまだ続いているみたいだな、クローンさん」
大柄な男性は眠たそうな表情でヘレナとタイガに話しかけます。
「村長を呼んでくる」
寡黙な男性は二人の身なりを確認すると、すぐに家の中へ。
数分もかからず、村長らしき人物が現れました。
ホルスターを腰に巻いて回転式拳銃を装備、サバイバルナイフもしっかりと手に構えています。
肩より下まで伸ばした金色の髪、顎に生えた髭をしっかりと整えています。
筋肉質の体格で身長も高く、周りを簡単に見下ろすことができました。
「移住者ってわけではなさそうだ。泊まりに来たのか?」
「いや、少し休憩させてもらいたい」
「えっ、泊まらないの!?」
「誰が泊まると言った? 私は休むとしか言ってない」
タイガは悲しそうに肩を落として俯いてしまいます。
「お嬢さん、今日は泊まった方がいいぞ。特にこの時期夕方から夜は危険が多い」
村長の言葉に喜んで立ち直ったタイガ。
「あまり危険には思えないが、何かあるのか?」
「もうすぐ首都で聖祭が始まる、それに加えて聖母を崇拝している様々な宗教どもが内戦を激化させてここ周辺も戦地となるからだ。砂漠地帯にもし行くのなら朝に行動すべきだな」
今日は諦めるしかない、本意ではないようですが泊まることに決定しました。
「しかし、お金が」
背広のポケットなどあちこちを探りますが値打ちのある物も金貨もありません。
「そんなものは要らんよ、ここは宿屋ではない。小屋なら好きに使え、ここに住んでいるのは三人だけだ」
用が済めば村長はすぐに部屋へと戻っていきました。
村人二人もあとを追うように部屋へ入っていきます。
ヘレナは不満そうな表情で俯いて、両腕を前で組みました。
「まだ日も落ちていないのに、ここで泊まるなんて」
「いいじゃねぇか、いくらアンタでも体がもたない……だろ?」
何を思ったのかタイガはヘレナの耳元で囁き、肩に手を乗せます。
ヘレナはすぐにタイガを押しのけては軽く睨みました。
「とりあえず貴様は井戸で洗ってこい」
そう言い放つとヘレナは村の外へ。
「やれやれ。息子も妻も俺を馬鹿にするし、俺だって好きであんな生活をしていたわけじゃないって……なぁ」
離れるヘレナの背中を物欲しそうに、目で追いかけていく。
自身の無精髭を撫でまわし、乾燥した唇を舌で何度も舐めました。
瞬きをするのを忘れるぐらいに凝視を数十秒間続け、口元に笑みを浮かべて近くの井戸へと向かいます。
「あれで十代後半か、いいねぇ若いし美人だし気も強い」
シャツを一枚脱げば、逞しい筋肉を露出させます。
右腕に刻まれた番号はクローンの証。
既に汲み上げられていた桶へと両手で水を掬うとそのまま顔を洗いました。
おまけに上半身へ水を大量に被せて、それを何回も行う。
濡れた体を左右に動かして水気を吹き飛ばします。
黒ずんでいた顔も少々ですが元の白い肌が出てきました。
「襲いたくもなる……ユリウス・クラウベル嬢、あんたを見ていたら、な」
ついでに下半身も水洗いするタイガ。
最後にもう一度顎髭を撫で回し、嬉々とした表情で顔中を触り続ける。
お調子者とは程遠い不気味な笑顔が桶に入った水の表面に映りこみました。
「本当に何もないな、ここは」
何も知らないヘレナはどこに立っても地平線が見渡せる草原地で暇を潰しています。
徐々に茜色に染め上げていく空と地面の境界線がはっきりと分けられて思わずうっとりするような景色ですが、ヘレナは難しい表情のまま村へと戻りました。
「外は危険だ、小屋に入れ」
小屋の外には二人の村人がまたも待ち構えていました。
寡黙な男性の手にはアサルトライフル。
「いくら巻き込まれるとはいえ、無関係な村人を襲うのか?」
「ガキが気にする内容じゃない」
寡黙な男性から見ればまだ子供であるヘレナ。
「お嬢ちゃん、こいつのことは放っておいてくれ」
隣にいた大柄な男性も同じようにアサルトライフルを持ち、笑顔で対応してくれました。
「内戦でおかしくなった兵士がたまにいるのさ。犯そうとしたり、殺そうとしたり、それから村を守るために武器は必要不可欠なんだ」
街も外も変わらないものだと、ヘレナは苦い表情を見せます。
武器を持たなければ生活するのも難しい国であることは間違いありません。
「五年前に起きた聖母様殺害事件から内戦がさらに激しくなっている。あのクローンが聖母様を殺さなければ、今よりはずっと平和だったろうに」
大柄な男は地面に突き刺さっている多くの十字架を優しい目で眺めます。
「それに最近、聖母候補だった聖女様達も殺されたって話もある。もっと酷くなるだろうな」
ヘレナは口元を固く閉じ、拳に自然と力が入り込みました。
「無駄話はいい、小屋に入れ」
寡黙な男はこれ以上の会話に意味はないと判断し、さっさとヘレナを小屋へ誘導させます。
室内は窓もない木だけの狭い空間。
座り込んだヘレナは壁へと背中を密着させて顔を俯かせました。
嫌になるほど脳内に思い浮かぶ聖女達の穢れなき純粋な笑顔。
「なんで殺す必要が、なんで私は」
ヘレナは両膝を抱え込みシワができるほどズボンを握りしめます。
「考えたって仕方ないだろー、ヘレナちゃん」
調子のいい声にヘレナは自然と表情を険しくさせました。
いつの間にか部屋に入ってきたタイガは顔を上げないヘレナの前に座り込みます。
「残念なお知らせしてもいい? ヘレナちゃん」
「だから、ちゃんを……!!」
顔を上げれば、タイガの鼻先が近い距離にありました。
予想外の近さに目を大きく開かせてヘレナは呆然とします。
真剣な眼差しがずっとヘレナを映しこみ、赤い瞳が勝手に見つめ合いました。
「聖母候補をお前に殺させたのも、データを破壊させたのも、全部ただの時間稼ぎに過ぎないってこと」
「え……」
「あの時お前はアドヴァンス教会に襲撃する計画を他の組織と立てたな、フレッドと教会にとっては不都合な出来事だ。一番厄介なお前を組織から一時的に離してその間に各組織を壊滅させた。それだけの為に何も知らない聖女を殺させ、何も入っていないデータを破壊させたのさ」
「嘘だ、ウソ」
声を震わしたヘレナは首を横に振って否定しますが、
「嘘じゃない、事実だって」
自身より大きな手で両肩を掴まれて、壁へと強く押されてしまいます。
肩からなぞるようにタイガの手が動き、首元を触れられたヘレナは体を震わせました。
その手は首より上の柔らかい頬へ。
「なんで俺がこんなことを知っているか、不思議だろ? 俺はフレッド博士の飼い犬だったのさ、セツナに殺されるまでは」
「怪しいと思っていたが、貴様!」
精悍な顔立ちをしたタイガに鼻先で問い詰られていたヘレナは思いきり相手の両肩を押し出そうとします。
ですが、タイガは特殊クローンの力でも岩のように硬く動きません。
それどころか今度はヘレナの両腕を掴み、床へと押さえつけたのです。
覆いかぶさったタイガを鋭く睨みつけますが、それは彼にとって嬉しくてたまらない行為。
「あれぇ、特殊クローンがただの雑魚に襲われるなんて長い年月と財力を費やしたフレッド博士が可哀想だろ」
「っ」
「どうした、覚瞳能力は使わないのか? いつものようにさ」
「黙れ!」
ヘレナは封じられてしまった両腕を必死に動かします。
抵抗しようとすれば喜んで眺め、睨みつけると悦に浸るタイガ。
「き、さまぁ……!?」
顎を強引に掴まれ無理にでも正面を向かされたヘレナの目の前には瞳孔を収縮させたタイガの赤い瞳。
獣に似た眼光に見つめられ、ヘレナの体がのぼせるように熱くなりはじめました。
息切れをするほど動いたわけでもないのに呼吸が荒くなります。
タイガの顔がぼやけてうまく視界に映すことができません。
それどころか顎を触れられているだけでくすぐったい。
「な、なにを、したぁ」
「覚瞳能力さ。ああ、そういうことを訊いたわけじゃねぇか、俺の場合は戦う意欲を失わせるってやつだ」
ようやく腕が解放されましたが、力が入りません。
指先で顎や頬をなぞられる度全身に緊張が走ってしまいます。
「っ!」
「男と同じスーツなんか着ちゃって、もったいないぜ」
桃色の柔らかな唇へ人差し指が這う。
何も考えられなくなり、思考を巡らすこともできずにヘレナは目をきつく閉じました。
無理にでもタイガの指先が口腔内へと侵入します。
「ひゃ、ひゃめ、ろ」
口から零れる唾液に指を絡めて、掬い上げたタイガ。
「しかし、変な能力だよな」
指に絡みついた唾液を愛おしそうに眺めて、自らの口へと放り込みました。
「まぁ俺にとっては最高の能力だし、気にしないけど……さぁそろそろ、人間共が気付く前に始めるか」
「だれが、貴様なんかと、するものか!」
ヘレナの言葉に聞く耳も持たず、タイガは鼻歌を交えてボロボロのズボンを下げようとします。
「おーい、奴らが来たぞ!!」
「んあ?」
外から騒がしい声が聞こえてきました。
タイガは瞳孔を元の形に戻し、なんともつまらなさそうに窓のない部屋を見渡しますが、何も見えません。
地面を蹴りあげるような音、遠くから発砲音も響き渡ります。
眉間に皺を寄せたタイガは立ち上がりました。
ドアをノックもなしに開かれ、入ってきたのは大柄な男性。
「おい、もし戦えるなら手伝ってくれ!」
アサルトライフルを差し出されたタイガは、
「ああいいぜ、簡単に終わらせてやるよ……相手はたった三人だからな」
精悍な顔立ちに浮かび上がる悪魔のような笑みで武器を受け取りました。
「三人? 何を言ってんだ。相手は数十人といる武装集団だぞ」
「だからさ」
既に狙いを定めアサルトライフルを構えたタイガ。
「おい、なんのつもりだ!?」
「貴様!」
ヘレナはなんとか上半身を起き上がらせて叫びます。
「ヘレナちゃん。お楽しみの邪魔をした奴らには制裁をしないといけないだろ?」
笑顔でタイガは引き金を引きました。
爆発を起こしたような激しい発砲音とともに大柄な男性は外へ吹き飛びます。
「さぁ次は」
ヘレナを置き去りに外へと出ていくタイガ。
「くっ」
脳内に残ってしまった消えない感触がヘレナの動きを抑制してしまい、完全に起き上がることができません。
外から響き渡る爆発に似た音が連続で二発。
「こんなことで、村人を殺すなんて」
ヘレナは霞む視界のなか痺れる体を動かそうとします。
地面を削る音と共に重い物が落ちる鈍い音が聞こえてきました。
「あー重たいなぁ、こいつらは」
気だるい声を発して部屋へと戻ってきたタイガは返り血をしっかりと浴びています。
手にはアサルトライフルとは別にサバイバルナイフも持っていました。
「敵が来るぞ、こんなことを、している場合じゃないはずだ」
「ああー、そうだな。準備運動くらいにはなるかな、でもその前に」
アサルトライフルを壁にかけて、ヘレナのもとへ近寄ってきます。
もう一度、ヘレナの上へと覆いかぶさり次はナイフを首元へ。
「右肩と右腰にある核の傷が酷いらしいな」
「知らない」
「へぇー、知らないのか」
何を思ったのかタイガはナイフを握りしめて、そのまま刃先を右肩へ落としたのです。
「くぅぅ!」
血液とは別に電流が走り一瞬ですがナイフに伝わってきました。
首を左右に振り、険しい表情で痛みに耐えるヘレナの姿がタイガを興奮させます。
ナイフを抜き取れば、右肩から噴出する血液。
そこへ舌を這わせました。
鉄分の味がタイガの舌に広がります。
「核だな」
「はぁ、はぁ、なぜ貴様はそれを……」
「なんでも知っているさ、なんでも」
ヘレナの瞼が重く瞳を閉じると視界は暗くなり、闇の世界へと放り込まれました。
聞こえてくるのは自身の口から吐く荒い息。
唾液でべとべとになるほど舐めまわされ、着ている背広も勝手に脱がされてしまいます。
熱のこもった体に涼しい風が入り、生暖かい息と感触も同時にきました。
「これが終われば、あっちも片付けてくる、話はそれからさ」
タイガの一言を最後に意識は遠のき始める。