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隣の女子大生

作者: 吉乃要
掲載日:2026/07/04

 俺は、会社の都合で単身赴任をすることになった。


 妻子と離れ、一人で大阪の某所にあるワンルームのアパートの一室に入った。


 零細企業の単身赴任だ、安くて古くて、壁の薄い部屋だったが、男一人の気ままな生活を久方ぶりに満喫するのもそう悪くはない。


 大阪での生活を始めて数日後、俺は気が付いた。


 壁の向こうからわずかに漏れてくる声、どうやら隣には若い女性が一人暮らしをしているようだ。


 俺とは何の関係もないが、何やら楽しい気持ちになった。


 同時にどんな子が住んでいるのか気になっていた。


 たまに壁に耳をあてると聞こえてくる。


「そんな心配せんでも大丈夫やって、元気にやってるし・・・」


(いかんいかん趣味が悪い)


 と思いつつもたまに耳をあてる日々を過ごしていた。



 仕事が終わり帰宅して、今日も壁に耳をあててみた。


 電話しているようだ。


「来週に大学の卒業旅行でドイツに行くねんけど。

 うん、心配せんでもサチコも一緒やし」


(へえ~、卒業旅行でドイツか、最近の学生は豪勢だな)


 女性はしばらく何やらしゃべった後、言った。


「それじゃあ、お土産楽しみにしといてね。

 それじゃあ、また電話する」



 それからしばらくして、不自然なことが起きた。


 先週、「来週に大学の卒業旅行」と隣の女性は言っていたのに、今週ずっと女性は在宅しているようなのだ。


(延期になったのかな?)と思いつつ、あまり気にせずに日々を送っていた。


 若干習慣化してきたのか俺は、また壁に耳を当てた。


 女性の声がする。


「そんな心配せんでも大丈夫やって、元気にやってるし・・・」


(あれ?聞いたことあるセリフだな。

 まあ、また親にでも電話しているのか?)


 少し気になったが、たまたまだと思い、そっとしておいた。


 だが、数日後に耳を当てた時、俺はうすら寒さを感じた。


「来週に大学の卒業旅行でドイツに行くねんけど。

 うん、心配せんでもサチコも一緒やし」


(えっ?!)


 俺は思わず、隣の部屋の様子を見に自分の部屋を出た。


 部屋は電灯が消えており、誰もいない様子だった。


 部屋に戻り、耳を当てると女性の声がする。


「それじゃあ、お土産楽しみにしといてね。

 それじゃあ、また電話する」


(同じ話をしている・・・)


 俺は気味が悪くなった。


 翌日不動産会社に問い合わせたところ、隣は現在、空き家で、以前に女子大生が住んでいたが、卒業旅行の際の事故で亡くなったそうだ。


 それ以来、俺の住んでいる部屋の住人が、隣の空き部屋から女性の声を聞いたということで何人も出て行ったとのことだった。


 俺もすぐにそのアパートを退去した。


 今もその女子大生は、卒業旅行を楽しみにしている日々を繰り返しているのだろうか。


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