前世魔王の、平凡な平日。【2000文字】
「ふ、ぬぬ…っ」
特大大便と個室トイレで戦っていた時、あまりの腹の痛みに、あっ、と思い出した。
俺、この痛み、前にも味わったことある…。
ちょうどこの辺りを刺されたんだ、勇者の奴に。
──そうだ、俺、前世魔王だった。
まあ、そんなことを思い出したところで日常は変わらない。
俺は現代日本のただの高校生だし、前世の記憶もたいして覚えてないし。
「よっ、竜樹」
「おはよう、竜樹」
「はよ。右恭、莉座」
高校に入ってから仲良くなった右恭と莉座は、大体いつも一緒にいる。
右恭はめちゃくちゃモテる男で、正直なんで俺みたいなのも連んでいるんだろうというような、爽やかな奴。
で、莉座は綺麗め男子に見えるけど、しっかり女子。
こっちもいつからか当たり前にいるんだよなあ、と特に気にしてなかったんだけど…。
「…お前ら2人共、魔王の側近じゃねえかっ!」
急にパズルのピースが嵌ったみたいに、俺は叫んでいた。
「なんだ、思い出したのか?」
「おお、我らが王の復活か!?」
「王は死んだら終わりだろ…、じゃねえ!お前らいつから知ってたんだ!?」
「最初から」
「はっ?」
「我らは竜樹がかつての主と知っていたから、今もお側にいるんですよ」
「なんだそれ…」
じゃあ、俺にいたのは前世の部下で、友達1人もいねえってことか…?
「竜樹いいいぃ!」
そこへ、いつものうるさいのがやってくる。
「またか…」
「今日こそ、お前に勝つぞ!」
「あのな、勇菜。なんの因果か知らねえが、俺に突っかかってくるのはやめろっていつも言ってる…じゃねえええ!おまっ、腹は刺されたら痛えんだぞっ!」
「はっ…!な、なんのことだ」
「死ぬほど痛いんだからな!死んだんだし!」
「し、知らない!私じゃないっ!」
「勇菜だろ!」
「勇菜は、勇者じゃないもん!」
いつものように喚く勇菜は、涙目でそう言った。
…たしかに、勇菜だけど、勇菜ではないな。
「竜樹に絡んでくるなといつも言っているだろ」
「莉座には関係ないじゃん」
「お前がうろついていると目障りなんだ」
「そっちがどっか行けばいいじゃん!」
当たり前のように2人は喧嘩を始める。
相変わらず犬猿の仲だけど…これってさ。
「なあ、こいつらがいつも喧嘩してるのって…」
「竜樹に近づけたくない莉座VS竜樹に構ってほしい勇菜の図だな」
「魔王の腹心VS勇者の図だろ…」
なるほどね、馬が合わないと思っていたら、そういうこと…。
右恭は、なんでもないように続けた。
「ちなみに、あの時の勇者一行全員、うちの高校にいるぞ。会いに行くか?」
「ぜっっってえイヤだ」
なんだその顔を合わせたくないセット。
俺は会っても知らぬ存ぜぬを通すぞ。
…つーか、前世なんて思い出さなくてよかった。
今まで通り平和に過ごさせてくれよ。
いや、目の前で喧嘩しているのを見てる時点で、平和ではねーや。
「…で、勇菜は今日、なんの勝負がしたいわけ?」
「は!私に受けて立つというのか、竜樹のくせに生意気だな!」
「竜樹!いちいちこの女に構ってなくていいんですよ!」
「仲良いね、君ら」
「「仲良くないっ!」」
「勝負内容は?」
「昼休みに購買で売られる、5個限定のプリンパンをゲットした方が勝ちだ!」
激戦じゃんかよ、めんどくせえ。
「手に入ればいいわけね」
「そうだ!」
「わかった、付き合ってやるから莉座と喧嘩すんな。お前ら大人しくしてたら可愛いんだから」
「ははは、相変わらずうちの魔王様は面倒見がいい」
「右恭、その呼び方やめてね?」
「か、かわ…」
「竜樹のくせに変なこと言うなっ!ば、ばーーか!」
莉座はムスッとして、勇菜はデカい声で捨てゼリフを残すと、走って出ていった。
いつものこの光景も、前世絡みだったとはな…。
「プリンパンなんて、どうやって手に入れるつもりなんだ、うちの大将は」
「授業終わりに走っても厳しいと思いますよ?」
「ほら、そこは右腕に手伝ってもらおっかなって。なあ、右恭?」
「オレ、走らないからな」
「そうじゃなくて、他の奴に走ってもらえばいいんだよ」
「?」
右恭は苦笑いをして、莉座は首を傾げた。
「ほれ見ろ、勇菜。これが限定5個のプリンパンだぞ」
「な、なんで竜樹が買えてるんだあ!」
「日頃の行いだな」
「ぬあああ、私が負けるだとおお〜!」
勇菜は膝をついて悔しがった。
これ、どうしたかって?
右恭は俺と連むには爽やかすぎる男ってことを利用させてもらった。
右恭がちょーっと女の子におねだりすれば、自分が是が非でも叶えるという勇ましい女子が湧くというわけですよ。
あー怖かった、プリンパンを持ってきた子、目ぇ血走ってたぞ…。
「ありがとな、右恭」
「まあ、親友の頼みだからな」
「主じゃなくて?」
「オレが一緒にいるのは、竜樹だろ」
「…そっか」
「なああに、ニヤニヤしてるんだ!もうっ、次は負けないからな!」
「はいはい」
俺が呆れているところに、ちょうど生徒会の連中が通りかかった。
「あ、魔王」
「げっ」
イヤな予感しかしないのは、俺の気のせいじゃないと思う。
了
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