第75話
閉じる。
空間そのものが、ゆっくりと。
壁が動くわけじゃない。
天井が降りてくるわけでもない。
“距離”が、削られていく。
「……冗談だろ」
カイが舌打ちする。
「閉じ込める気か」
「正確には」
レナ。
「隔離」
「……違いあるか?」
カイ。
「生かす前提か」
ユウ。
フェリスは、短く息を吸った。
「……突破する」
「一点集中」
その判断は、早かった。
迷いがない。
だが。
「――遅い」
声が、響いた。
方向は分からない。
頭の中に、直接流れ込んでくる。
「……来た」
アリス。
空間の奥、
魔術陣が一段、明るくなる。
そこから現れたのは――
人影、三つ。
さっきまでの実働部隊とは、違う。
立ち方が、違う。
気配が、重い。
「……上か」
カイ。
「管理者の中枢に近い」
レナ。
人影の一人が、淡々と言う。
「観測は完了しました」
「予測値を、上回っています」
俺は、剣を構えたまま言った。
「……人を試すのが、そんなに楽しいか」
「楽しくはありません」
即答。
「必要なだけです」
フェリスが、一歩前に出る。
「必要、ね」
「誰のために」
一瞬だけ、沈黙。
「……世界のために」
その言葉で、
俺の中の何かが、完全に冷えた。
「……世界って」
俺。
「誰のことだ」
答えは、返ってこない。
代わりに。
空間が、さらに狭まる。
「……時間稼ぎか」
ユウ。
「ええ」
レナ。
「誰かを待っている」
その瞬間。
――別の“揺れ”が、走った。
足元。
いや、もっと奥。
内側から。
アリスが、目を見開く。
「……来る」
「“向こう側”から」
魔術陣が、乱れる。
干渉。
強引な侵入。
管理者の一人が、わずかに眉をひそめた。
「……想定外」
「個体が――」
その言葉を、遮るように。
空間が、裂けた。
音はない。
だが、確かに“割れた”。
歪みの向こうから、
人影が転がり出る。
「……っ」
息を詰める。
見覚えのある背中。
「……エッグ!」
俺が、叫ぶ。
エッグは、膝をついたまま、顔を上げた。
「……来たかよ」
歪んだ笑み。
「遅いぞ、ノイズ」
カイが、思わず吹き出す。
「……生きてやがった」
「死にかけだがな」
エッグ。
管理者側が、明確に動揺した。
「……侵入経路、不明」
「境界内からの反転……?」
エッグは、立ち上がりながら言った。
「……あんたら」
「中、スッカスカだぞ」
その一言で、
フェリスの目が細くなる。
「……情報、持ってるわね」
「山ほど」
エッグ。
「だが――」
一拍。
「ここじゃ、話せねえ」
空間が、軋む。
管理者の一人が、冷たく言った。
「……全員、拘束対象だ」
次の瞬間。
魔力が、爆ぜた。
誰が動いたかは、分からない。
ただ――
俺の身体は、既に前に出ていた。
剣が、唸る。
ここが、分岐点だ。
逃げるか。
壊すか。
フェリスの声が、響く。
「――突破する!」
「全員、生きて出る!」
その言葉で、
世界が、加速した。




