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異端(仮)  作者: vastum
アリス編
96/103

第74話

進むほど、空気は濃くなった。


 霧が出ているわけでもない。

 視界が悪いわけでもない。


 それなのに、

 距離感が狂う。


「……さっきより、近く感じないか」

 カイが、周囲を見回しながら言う。


「実際、近づいている」

 ユウ。

「だが……直線ではない」


 足を止めるたび、

 背後の気配が薄くなる。


 振り返っても、何もない。

 来た道は、確かにそこにある。


 それでも。


「……戻ろうと思えば戻れる」

 レナ。

「でも、戻った“先”が同じとは限らない」


「嫌な言い方だな」

 カイ。


「正確な言い方」

 レナ。


 フェリスは、前を見据えたまま言った。


「……境界の内側に入っている」


 その一言で、

 全員が理解した。


 音が、完全に消えた。


 自分たちの足音すら、

 地面に吸い込まれるように消える。


 代わりに聞こえるのは、

 遠くで何かが動く、鈍い振動。


「……心臓みたいだな」

 カイ。


「ええ」

 アリス。

「この場所そのものが」


 道の先が、開けた。


 岩盤をくり抜いたような空間。

 自然とも人工ともつかない、歪んだ構造。


 壁一面に刻まれた魔術陣が、

 ゆっくりと脈打っている。


「……遺跡の“外”だよな、ここ」

 カイ。


「外郭」

 フェリス。

「だが、もう境界の向こう側」


 俺は、剣を握り直した。


 理由はない。

 でも、ここから先は違うと、身体が分かっている。


 その時。


 ――声が、聞こえた。


 直接じゃない。

 耳でもない。


 頭の奥に、引っかかる感覚。


(……来たか)


 アリスが、息を詰める。


「……反応」

「内側から」


 次の瞬間、

 空間の中央が、歪んだ。


 地面が盛り上がり、

 まるで水面のように揺れる。


「……来るぞ」

 フェリス。


 構える。


 だが、現れたのは――


「……人?」


 カイが、思わず声を上げた。


 確かに、人の形だ。

 鎧でも、魔獣でもない。


 だが。


 立ち方が、不自然だった。

 視線が、合わない。


 そして、

 身体の一部が“ずれている”。


 肩が、わずかに浮いている。

 腕の関節が、逆方向に曲がっている。


「……人だった」

 レナが、低く言う。


「……“だった”な」

 カイ。


 その人影が、こちらを向いた。


 口が開く。


「……ノ……イズ……?」


 その呼び方に、

 俺の心臓が跳ねた。


「……知ってる?」

 俺。


「……観測……」

「……失敗……」


 言葉が、途切れ途切れだ。


 フェリスが、一歩前に出る。


「……誰だ」


 人影は、しばらく沈黙した後、

 かすれた声で答えた。


「……名は……もう……」


 名を、忘れている。


 その事実が、

 胸に重くのしかかる。


「……戻れないのか」

 俺は、問いかけた。


 人影は、首を横に振った。


「……境界……」

「……越えた……」


 その瞬間。


 背後で、魔力が弾けた。


「――伏せろ!」


 フェリスの声。


 反射的に身を低くする。


 さっきまで立っていた空間が、

 削り取られる。


 影。

 いや、管理者側の部隊。


「……接触を確認」

「……対象、全員」


 冷たい声。


 人影が、俺たちを見る。


「……逃げ……」


 言い切る前に、

 その身体が――崩れた。


 まるで、糸を切られた人形のように。


「――ッ!!」

 俺は、歯を食いしばる。


「……やるぞ」

 カイ。


「……ここで止める」

 フェリス。


 管理者の影が、包囲を狭める。


 そして、

 空間の奥――


 **何かが、こちらを“見ている”**感覚。


 視線だけで、

 背筋が凍る。


(……エッグ)


 名前は、まだ見えない。

 姿も、ない。


 だが、確信があった。


 ここだ。


 ここで、

 全てが交わる。


 次の瞬間、

 空間そのものが、閉じ始めた。


 逃げ道は、消える。


 ――本当の意味での、境界。


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