第69話
届かなかった声
違和感は、最初からあった。
朝の街。
人の数は、昨日より少し多い。
露店も開いているし、子どもの声もする。
――なのに。
「……妙だな」
俺が言う。
「同意」
ユウ。
「視線が多い」
敵意じゃない。
警戒でもない。
**“様子見”**だ。
「……昨日の件」
レナ。
「噂が回った」
「冒険者が倒れた話?」
カイ。
「それだけじゃない」
フェリス。
「“助けに入った連中がいる”」
「……俺らか」
カイ。
「名は出ていない」
フェリス。
「だが、特徴は一致する」
俺は、街の中央通りを見渡した。
視線が合うと、
人々は慌てて逸らす。
(……見られてる)
その時。
悲鳴が、二つ重なった。
「――来た!」
フェリス。
走る。
昨日と同じ。
反射的に体が動く。
だが――
距離が、違う。
中央通りの反対側。
人混みの奥。
「……遠い!」
カイ。
「最短で行く!」
俺。
路地に飛び込む。
視界が開けた瞬間、
見えた。
三人。
倒れているのは、若い男。
その前に、立っている二人。
フードを被り、顔は見えない。
だが、立ち方が――管理者側と同じ。
「――やめろ!」
俺が叫ぶ。
その声に、
一瞬だけ、男がこちらを見る。
目が合う。
恐怖。
理解。
そして――諦め。
「……遅……」
その一言。
次の瞬間。
地面が、歪んだ。
「――ッ!」
レナが叫ぶ。
「魔力反応、強制干渉!」
男の身体が、引きずられるように沈む。
まるで、
床の下に“手”があるみたいに。
「掴め!」
フェリス。
俺は、飛び込んだ。
腕を掴む。
――軽い。
軽すぎる。
「……ッ!?」
引き上げようとした瞬間、
魔力が遮断された。
感覚が、切れる。
「シオン!」
カイ。
俺の手から、
男の腕が抜けた。
正確には――
“持っていかれた”。
地面が、何事もなかったかのように戻る。
残ったのは、
ちぎれた衣服と、
焼け焦げた地面。
人は、いない。
沈黙。
人混みが、ざわつく。
「……消えた?」
「今の、何……?」
フードの二人は、
いつの間にかいない。
「……逃げた」
ユウ。
「いや……最初から、時間稼ぎだ」
レナが、震える声で言う。
「……連れていかれた」
「完全に」
フェリスは、何も言わなかった。
ただ、
歯を食いしばっている。
カイが、低く呟く。
「……くそ」
拳が、震えている。
怒りか。
悔しさか。
たぶん、両方だ。
俺は、地面を見つめた。
さっきまで、
確かにここにいた人。
助けを求める時間すら、与えられなかった。
(……間に合わなかった)
それが、胸に刺さる。
「……試されたな」
アリスが、静かに言った。
「試験?」
カイ。
「ええ」
アリス。
「管理者は、見ていた」
「何を」
俺。
「……あなたたちが」
「どこまで来るかを」
フェリスが、ようやく口を開く。
「……次は」
低い声。
「もっと、露骨になる」
「止められない?」
俺。
フェリスは、首を振らなかった。
だが、肯定もしなかった。
「……準備が要る」
「それまでは、犠牲が出る」
その言葉が、重い。
カイが、顔を上げる。
「……なあ」
静かに。
「それでも、やるんだよな」
「やる」
フェリス。
「当たり前だ」
レナ。
「選択肢はない」
ユウ。
俺は、拳を握った。
助けられなかった。
それでも――
(……止まれない)
街は、まだ日常を保っている。
だが。
その裏で、
確実に何かが奪われている。
そして。
管理者は、
ノイズが“踏み込んだ”ことを理解した。
次は――
直接、来る。




