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異端(仮)  作者: vastum
アリス編
91/103

第69話

届かなかった声


 違和感は、最初からあった。


 朝の街。

 人の数は、昨日より少し多い。

 露店も開いているし、子どもの声もする。


 ――なのに。


「……妙だな」

 俺が言う。


「同意」

 ユウ。

「視線が多い」


 敵意じゃない。

 警戒でもない。


 **“様子見”**だ。


「……昨日の件」

 レナ。

「噂が回った」


「冒険者が倒れた話?」

 カイ。


「それだけじゃない」

 フェリス。

「“助けに入った連中がいる”」


「……俺らか」

 カイ。


「名は出ていない」

 フェリス。

「だが、特徴は一致する」


 俺は、街の中央通りを見渡した。


 視線が合うと、

 人々は慌てて逸らす。


(……見られてる)


 その時。


 悲鳴が、二つ重なった。


「――来た!」

 フェリス。


 走る。


 昨日と同じ。

 反射的に体が動く。


 だが――

 距離が、違う。


 中央通りの反対側。

 人混みの奥。


「……遠い!」

 カイ。


「最短で行く!」

 俺。


 路地に飛び込む。


 視界が開けた瞬間、

 見えた。


 三人。


 倒れているのは、若い男。

 その前に、立っている二人。


 フードを被り、顔は見えない。

 だが、立ち方が――管理者側と同じ。


「――やめろ!」

 俺が叫ぶ。


 その声に、

 一瞬だけ、男がこちらを見る。


 目が合う。


 恐怖。

 理解。

 そして――諦め。


「……遅……」


 その一言。


 次の瞬間。


 地面が、歪んだ。


「――ッ!」


 レナが叫ぶ。


「魔力反応、強制干渉!」


 男の身体が、引きずられるように沈む。


 まるで、

 床の下に“手”があるみたいに。


「掴め!」

 フェリス。


 俺は、飛び込んだ。


 腕を掴む。


 ――軽い。


 軽すぎる。


「……ッ!?」


 引き上げようとした瞬間、

 魔力が遮断された。


 感覚が、切れる。


「シオン!」

 カイ。


 俺の手から、

 男の腕が抜けた。


 正確には――

 “持っていかれた”。


 地面が、何事もなかったかのように戻る。


 残ったのは、

 ちぎれた衣服と、

 焼け焦げた地面。


 人は、いない。


 沈黙。


 人混みが、ざわつく。


「……消えた?」

「今の、何……?」


 フードの二人は、

 いつの間にかいない。


「……逃げた」

 ユウ。

「いや……最初から、時間稼ぎだ」


 レナが、震える声で言う。


「……連れていかれた」

「完全に」


 フェリスは、何も言わなかった。


 ただ、

 歯を食いしばっている。


 カイが、低く呟く。


「……くそ」


 拳が、震えている。


 怒りか。

 悔しさか。


 たぶん、両方だ。


 俺は、地面を見つめた。


 さっきまで、

 確かにここにいた人。


 助けを求める時間すら、与えられなかった。


(……間に合わなかった)


 それが、胸に刺さる。


「……試されたな」

 アリスが、静かに言った。


「試験?」

 カイ。


「ええ」

 アリス。

「管理者は、見ていた」


「何を」

 俺。


「……あなたたちが」

「どこまで来るかを」


 フェリスが、ようやく口を開く。


「……次は」

 低い声。

「もっと、露骨になる」


「止められない?」

 俺。


 フェリスは、首を振らなかった。

 だが、肯定もしなかった。


「……準備が要る」

「それまでは、犠牲が出る」


 その言葉が、重い。


 カイが、顔を上げる。


「……なあ」

 静かに。

「それでも、やるんだよな」


「やる」

 フェリス。


「当たり前だ」

 レナ。


「選択肢はない」

 ユウ。


 俺は、拳を握った。


 助けられなかった。

 それでも――


(……止まれない)


 街は、まだ日常を保っている。


 だが。


 その裏で、

 確実に何かが奪われている。


 そして。


 管理者は、

 ノイズが“踏み込んだ”ことを理解した。


 次は――

 直接、来る。


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