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異端(仮)  作者: vastum
アリス編
86/103

閑話

同じ空の下で


 夜は、静かすぎた。


 焚き火もない。

 見張りの足音もない。

 誰かの軽口も、剣の手入れの音もない。


「……静かだな」


 誰に聞かせるでもなく、俺は呟いた。


 ノイズと別れて、まだ一日も経っていない。

 それなのに、ずいぶん長く感じる。


 森の中を歩きながら、何度も空を見上げた。

 雲の切れ間から、星が覗いている。


(……同じ空、見てんのかな)


 そんなことを考えて、

 すぐに苦笑した。


「……らしくねえな」


 感傷に浸る柄じゃない。

 少なくとも、今までは。


 だが――

 あの遺跡で“声”を聞いてから、

 どうにも調子が狂っている。


 歩きながら、無意識に拳を握る。


(……生きてた)


 それだけで、救われた気がした。

 それだけで、十分なはずだった。


 なのに。


(……助けられなかった)


 あの顔。

 あの声。

 「来るな」と言われた時の、あの目。


 忘れられるはずがない。


「……俺、何してたんだろうな」


 独り言が増えた。

 ノイズにいた頃は、

 誰かが勝手に話しかけてきたから。


 少し歩いた先で、

 小さな集落の灯りが見えた。


 入るつもりはない。

 今は、情報が欲しい。


 人が消えている話。

 遺跡の噂。

 管理者とやらの影。


(……俺一人で、どこまで出来る)


 正直、不安はある。


 ノイズがいなければ、

 昨日の俺は確実に死んでいた。


 カイの一撃。

 フェリスの判断。

 レナの魔法。

 ユウの立ち回り。

 シオンの――あの、信じられない動き。


(……すげえ連中だよ)


 なのに。


(……そんな奴らに、俺は守られてただけだ)


 足を止める。


 草の匂い。

 夜露の冷たさ。


「……変わらなきゃな」


 誰に誓うでもなく、

 それでも、はっきりと口に出した。


 守られるだけじゃ、駄目だ。

 怒ってもらうだけじゃ、駄目だ。


(……次は)


 次に遺跡へ行くとき。

 次に、あいつの声を聞くとき。


(……俺が、前に立つ)


 そうじゃなきゃ、

 ノイズと並ぶ資格がない。


 ふと、脳裏にカイの顔が浮かんだ。


「ムカついたから殴っただけだ」


 あの時の背中。

 怒りで、全部を壊しそうなのに、

 それでも仲間を巻き込まない背中。


「……ああいうの、ずるいよな」


 フェリスの、迷いのない指示。

 レナの、冷静な声。

 ユウの、無駄のない動き。

 シオンの、当たり前みたいな“強さ”。


 アリスの、全部分かってるみたいな目。


(……戻る場所、出来ちまったな)


 それが、怖い。


 失いたくないと思う場所があるのは、

 こんなにも怖いのか。


「……でも」


 剣の柄に、手を置く。


「……だから、行くんだ」


 俺は、歩き出す。


 遺跡とは逆方向。

 けれど、目的地は同じだ。


 情報を集める。

 管理者の正体を掴む。

 あいつが、何にされようとしているのかを知る。


 そして。


(……生きて、戻る)


 それが、フェリスとの約束だ。

 ノイズとの、約束だ。


 空を見上げる。


 星は、さっきより多く見えた。


「……待ってろよ」


 誰に向けた言葉かは、

 自分でも分からない。


 でも、確かに思っている。


 ――俺は、変わる。


 同じ空の下で、

 次に会う時までに。


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