第62話
追ってくるのは、遺跡そのもの
「――後退!」
フェリスの声は、これまでで一番鋭かった。
「隊形を崩すな!」
「来た道を戻る!」
遺跡が、完全に牙を剥いている。
床の魔力紋様が、脈打つたびに形を変える。
壁が、音を立てて閉じ始めている。
「……通路が、狭まってる!」
レナ。
「閉じ込める気だな」
カイ。
「クソが」
「罠じゃない」
アリス。
「“排除”だ」
背後。
さっきの人工個体とは比べ物にならない気配が、
複数、確実に近づいてきている。
「……来る」
ユウ。
「分かってる!」
フェリス。
「迎撃は最小限!」
「止まるな!」
俺は、前に出た。
「俺が抑える!」
「詰まる前に!」
「無茶だ」
レナ。
「でも必要だ」
俺。
フェリスは、一瞬だけ迷い――
すぐに決断した。
「……任せる」
「三十秒だ」
「十分!」
俺は、剣を構える。
通路の曲がり角。
影が、雪崩れるように現れた。
人型。
獣型。
どちらでもない歪な形。
「……全部、途中だな」
俺は、低く言った。
動きは速い。
だが、洗練されていない。
力任せ。
制御任せ。
「だったら――」
踏み込む。
斬る。
躱す。
押し返す。
“正解”を知っているわけじゃない。
ただ、身体が一番効率のいい動きを選び続ける。
それが、俺の戦い方だ。
「……シオン、後ろ!」
カイ。
「分かってる!」
振り返らず、剣を逆手に。
背後の個体の“核”を貫く。
崩れる。
だが、すぐ次が来る。
「……しつこい!」
俺。
通路の奥から、さらに大きな反応。
「……大型来る!」
レナ。
「撤退優先!」
フェリス。
その瞬間。
床が割れた。
天井すれすれの巨体。
四足。
だが、関節の数が合わない。
「……また失敗作か」
カイ。
魔力が、カイの周囲で暴れ始める。
「……カイ!」
フェリス。
「分かってる!」
カイ。
「……分かってるから、今は抑える!」
抑えてなお、
殺意が滲む。
巨体が吠える。
音圧。
「……っ!」
エッグが、よろける。
「エッグ!」
俺。
その瞬間、俺は決めた。
「……全員、走れ!」
「俺が止める!」
「――シオン!!」
フェリス。
「信じろ!」
俺は、前に出た。
巨体の動きが見える。
速い。
だが、雑。
踏み込み。
回転。
刃を滑らせる。
狙うのは、首でも胴でもない。
動力になる部位。
関節。
魔力が集中している場所。
「――っ!!」
剣が、深く食い込む。
巨体が、バランスを崩す。
「……今だ!」
俺。
カイが、堪えきれず踏み込んだ。
「……クソッ!!」
一撃。
怒りを叩き込んだ魔力が、
巨体を壁ごと叩き潰す。
通路が、完全に崩落した。
追撃が、止まる。
「……行け!」
カイ。
俺は、振り返って走る。
全員が、息を切らしながらも前進している。
遺跡が、吠えるような音を立てる。
床が傾く。
壁が閉じる。
「……出口、見えた!」
ユウ。
「最後まで気を抜くな!」
フェリス。
光。
外の空気。
全員が、遺跡の外へ飛び出した瞬間――
背後で、
重たい音を立てて、入口が閉じた。
完全封鎖。
静寂。
誰も、すぐには動かなかった。
ただ、
生きていることを確認するように、
息をしている。
「……」
エッグは、膝に手をついていた。
だが、泣かない。
顔を上げる。
「……戻る」
小さく。
「……絶対に」
カイが、何も言わずに背中を向けた。
フェリスが、剣を収める。
「……撤退完了」
低く。
「次は――」
言葉を切る。
全員が、同じことを考えている。
次は、壊す側だ。
遺跡は、まだ中にある。
声も、まだ残っている。
だから――
終わっていない。




