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異端(仮)  作者: vastum
アリス編
81/103

第61話

遺跡は、選別を始めた


 最初に異変を察知したのは、アリスだった。


「……来る」

 抑揚のない声。

「遺跡が“切り替わる”」


「切り替わる?」

 カイが振り向く。


 その瞬間。


 広間全体が、低く唸った。


 床の魔力紋様が、一斉に光る。

 さっきまでとは違う、規則的な脈動。


「……防衛術式」

 レナが歯を食いしばる。

「しかも、段階式」


「つまり?」

 俺。


「今から」

 フェリス。

「この遺跡そのものが、敵になる」


 言い終わる前に、床が割れた。


 正確には、開いた。


「……っ!」

 ユウが即座に後退する。


 穴の中から、何かがせり上がってくる。


 人型。

 だが、同一規格。


 四体。


 全てが、同じ大きさ、同じ構造。

 鎧のような皮膚。

 感情のない顔。


「……人工個体」

 レナ。

「魔獣じゃない」


「また嫌な分類だな」

 カイ。


「来る!」

 フェリス。


 四体が、同時に動いた。


 速い。

 だが、無秩序じゃない。


「……連携してる」

 ユウ。


「遺跡が、操作してる」

 アリス。


 俺は、踏み込んだ。


 剣を振る。

 一体の腕を切断。


 ――だが。


「……再生!?」

 俺が声を上げる。


 断面が、魔力で縫合される。


「急所がない!」

 カイ。


「ある」

 レナ。

「“制御点”が」


 レナの魔法が、一体の胸部を貫く。


 核のような部分が砕け、

 個体が停止する。


「そこか!」

 俺。


 だが、その瞬間。


 空気が歪んだ。


 アリスが、即座に叫ぶ。


「……後ろ!」


 遺跡の奥。

 扉の向こう側。


 見えてはいけないものが、見えた。


 人影。


 鉄格子のような柵の向こう。

 拘束具に繋がれ、

 立っている――いや、立たされている。


「……ッ」


 エッグが、完全に固まった。


「……あ」


 声が、震える。


「……あいつだ」


 全員が、そちらを見る。


 人影は、こちらを向いている。


 顔が見える。


 ――人間だ。


 だが。


 皮膚に走る、魔力の痕。

 歪んだ瞳。

 身体の一部が、人ではない形に変質している。


「……生きてる」

 カイ。


「……だが」

 レナ。

「正常じゃない」


 人影が、口を開いた。


「……エ……ッグ……」


 声は、はっきりしている。


 あの時の“声”と同じ。


 エッグが、一歩前に出る。


「……おい」

「……俺だ」


 フェリスが腕を掴もうとして、止めた。


 止めなかった。


 エッグの足が、震えていない。


「……迎えに来た」

 エッグ。

「……一緒に帰ろう」


 人影は、ゆっくり首を振った。


「……だ……め……」


「何でだ!」

 エッグが叫ぶ。


「……俺……もう……」

「……遅……い……」


 遺跡が、再び唸る。


 人工個体が、動きを変えた。


「……標的変更」

 アリス。

「“関係者”を守る配置」


「守る?」

 俺。


「……守る“ために”」

 アリス。

「隔離する」


 柵の前に、防壁が展開される。


「……ッ!」

 エッグが叩く。

「開けろ!」


 反応しない。


「……来るな……」

 仲間――いや、“元仲間”が言った。

「……壊……れる……」


「壊れるって、何がだ!」

 エッグ。


 人影は、視線を逸らした。


「……俺……次……」

「……“成功”……」


 その一言で、全員が理解した。


 こいつは、次の段階に進められる。


 成功例が、まだ存在しないはずの――

 その“候補”に。


「……ふざけるな」

 カイの声が、低く落ちた。


 魔力が、再び膨れ上がる。


「……カイ」

 フェリス。


「分かってる」

 カイ。

「……でもよ」


 視線が、人影に向く。


「“成功”って言葉」

「二度と使わせねえ」


 遺跡の奥で、

 さらに大きな何かが動き出す気配。


 床が、割れる音。

 装置が、回転を上げる。


「……来る」

 ユウ。


 フェリスが、即座に判断する。


「……撤退準備」

「今は、奪えない」


「……っ」

 エッグが、唇を噛みしめる。


 人影が、最後に言った。


「……エッグ」

「……生き……ろ……」


 防壁が、完全に閉じた。


 姿が、見えなくなる。


 エッグは、その場に立ち尽くした。


 だが。


 膝は、つかなかった。


「……行こう」

 エッグは、かすれた声で言った。

「……次は、絶対に」


 フェリスが、短く頷く。


「……生きて帰る」

「それが、次に繋がる」


 遺跡は、完全に敵対モードに入った。


 だが。


 希望は、断ち切られていない。


 声が、残ったからだ。


 ――まだ、人だった証として。


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