第60話
壊れるのは、計画じゃない
最初に壊れたのは、床だった。
轟音。
管理中枢の広間、その中央で、
地面が爆ぜた。
「――ッ!?」
管理者たちが一斉に後退する。
「何が――」
問いは、途中で消えた。
カイが、そこに立っていた。
さっきまでの軽口はない。
冗談めいた表情もない。
あるのは、
剥き出しの怒りだけだった。
「……なあ」
カイは、低く言った。
「一個だけ、確認させてくれ」
男――白衣の管理者が、眉をひそめる。
「何だ」
「お前ら」
カイ。
「“失敗”って言葉、軽く使うよな」
魔力が、カイの周囲で歪む。
炎ではない。
雷でもない。
圧だ。
空気そのものが、悲鳴を上げている。
「……実験が失敗するのは、普通だ」
男は言った。
「だが――」
最後まで言わせなかった。
カイが、一歩踏み出す。
それだけで、
管理者の一人が吹き飛んだ。
「――ぐっ!?」
壁に叩きつけられ、動かなくなる。
「カイ!」
フェリスが叫ぶ。
だが。
「止めるな」
フェリスは、次の瞬間に言い切った。
レナが、驚いた顔で振り向く。
「フェリス?」
「……今は」
フェリス。
「止める段階じゃない」
管理者側が、ようやく動き出す。
「制圧しろ!」
「殺すな、拘束――」
「遅い」
カイ。
次の瞬間、
魔力が爆発的に拡散した。
広範囲。
無差別。
だが、ノイズのメンバーだけが、
きっちり避けられている。
「……制御してる?」
レナが歯を食いしばる。
「……してる」
ユウ。
「最低限」
最低限。
それが、恐ろしい。
床が砕け、
壁がひび割れ、
魔力装置の表面に亀裂が走る。
「……馬鹿な」
白衣の男が、後退する。
「ここは――」
「研究施設?」
カイが笑った。
「知るかよ」
拳を振り抜く。
魔法陣も詠唱もない。
ただの一撃。
それだけで、
男の足元が消し飛んだ。
「……ッ!」
男は転がり、
辛うじて立ち上がる。
「……お前」
男が、初めて怒りを滲ませる。
「感情で動くな!」
「感情?」
カイは、首を傾げた。
そして、静かに言った。
「お前らが」
「人を壊した数だけ」
「俺は、今キレてる」
それは、
理屈じゃない。
感情でもない。
“結果”だ。
「――フェリス」
俺は、低く言った。
「これ、任せていいのか」
「……ああ」
フェリス。
「今のカイは」
「間違っていない」
エッグは、呆然としていた。
「……カイ」
震えた声。
「……そんなに……」
「当たり前だろ」
カイは、振り返らずに言った。
「お前の仲間だぞ」
その一言で、
エッグの目から、何かが零れた。
管理者側が、最後の手段に出る。
「――起動しろ!」
白衣の男。
「防衛個体を――」
遺跡が、応えた。
床の一部が開き、
歪んだ影が、這い出そうとする。
「……っ」
エッグが息を呑む。
「出させない」
俺は言った。
剣を構える。
だが――
「邪魔」
カイ。
一撃。
魔力の塊が、
影ごと床を叩き潰した。
遺跡が、悲鳴のような音を立てる。
「……やりすぎだ」
レナが言う。
「まだ足りない」
カイ。
白衣の男が、後退しながら叫ぶ。
「……理解しろ!」
「これは、人類の未来だ!」
カイは、初めて男を見た。
そして、はっきり言った。
「未来は」
「“誰かの犠牲”って名前じゃねえ」
拳が、振り抜かれる。
男は、壁に叩きつけられ、
そのまま動かなくなった。
静寂。
破壊音だけが、残る。
カイの魔力が、ゆっくりと収束していく。
膝をつくことはない。
息も乱れていない。
「……」
フェリスは、剣を下ろした。
「……全員、無事か」
頷きが返る。
エッグだけが、カイを見ていた。
「……ありがとう」
小さく。
「礼は要らねえ」
カイは、背を向けた。
「ムカついたから殴っただけだ」
だが、その背中は――
誰よりも怒っていた。
遺跡は、完全に敵意を向けてきている。
管理者勢力との衝突は、もう避けられない。
そして。
本当に壊さなければならないものは、
まだ奥にある。




