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異端(仮)  作者: vastum
アリス編
77/103

第57話

人だったものが、残っている


 遺跡の中は、静かだった。


 静かすぎる、と言った方が正しい。


 外では確かに聞こえていた風の音も、

 草木のざわめきも、

 一歩中へ踏み込んだ瞬間に、すべて消えた。


「……音が、吸われてる」

 カイが小声で言う。


「反響がない」

 レナ。

「壁が、魔力を含んでる」


 石造りの通路は、想像よりも広い。

 天井は高く、崩落の痕跡も少ない。


 ――保存状態が良すぎる。


「古代遺跡にしては、妙だ」

 フェリス。


「“使われてる”」

 アリスが短く言う。

「今も」


 その言葉が、空気を冷やした。


 ユウが先頭、フェリスがその後ろ。

 俺とレナが中央、

 カイとエッグがやや後方。


 エッグは、明らかに緊張している。

 歩幅が狭い。

 呼吸が浅い。


「……無理そうなら言え」

 俺は小声で言った。


「……大丈夫」

 エッグは即答した。

「逃げないって、決めた」


 声は震えていたが、足は止まらない。


 進んで数十メートル。


 通路の脇に、**最初の“違和感”**があった。


「……止まれ」

 ユウ。


 壁際。


 石の床に、何かが散らばっている。


「骨?」

 カイ。


「違う」

 レナがしゃがみ込む。

「……装備だ」


 錆びた短剣。

 割れたバックル。

 布切れ。


 人が身につけていたものだ。


「冒険者?」

 俺。


「……可能性が高い」

 レナ。

「だが、死体がない」


 エッグが、ゆっくり近づいた。


「……これ」

 拾い上げたのは、小さな金属片。

「……仲間の、留め具に似てる」


 誰も、軽々しく否定しなかった。


「……続ける」

 フェリスが言う。

「だが、警戒を上げろ」


 通路は、やがて広間に出た。


 円形。

 天井が高く、中央に何かあった形跡がある。


 だが、今は空だ。


「……何か、あった場所」

 アリス。


「祭壇か?」

 カイ。


「研究施設の可能性もある」

 レナ。


 俺は、床を見た。


 引きずった跡。

 何度も、何かが運ばれている。


「……ここ」

 俺は言った。

「人、連れてこられてる」


 エッグの呼吸が、一瞬止まった。


「……」

 何も言わない。

 だが、拳が強く握られている。


 広間の奥。


 別の通路が続いている。


 その壁に――文字があった。


「……読める?」

 カイ。


 アリスが、一歩前に出る。


「……古い言語」

「だが、意味は分かる」


「なんて?」

 俺。


 アリスは、少しだけ間を置いた。


「“適合率”」

「“失敗”」

「“次段階へ”」


 沈黙。


 誰も、すぐに言葉を発せなかった。


「……やっぱり、研究施設だ」

 レナ。


「研究って」

 カイ。

「何の?」


 アリスは、壁から視線を外した。


「……人の可能性」


 エッグが、喉を鳴らした。


「……あいつ」

 小さな声。

「……こんなとこに、いたのか」


 その時。


 広間の奥から、足音がした。


 重い。

 だが、引きずるようでもある。


「……来る」

 ユウ。


 影が、通路の向こうから現れる。


 人型。


 だが――おかしい。


 体格は人間。

 だが、腕が長すぎる。

 関節の向きが、微妙に狂っている。


 顔は――

 覆われている。


 布か、皮か。

 はっきりしない。


「……止まれ」

 フェリスが低く言う。


 影は、止まらない。


「……エッグ」

 俺は、横目で言った。

「見るな」


「……見る」

 エッグは、かすれた声で言った。

「……見なきゃ、進めない」


 影が、こちらを認識した。


 ぎこちなく、首が傾く。


 そして――


「……あ」


 声が、出た。


 言葉ではない。

 意味もない。


 だが、人の声だった。


 エッグが、一歩前に出た。


「……おい」


 フェリスが、即座に腕を掴む。


「前に出るな」


「……あいつ」

 エッグ。

「……似てる」


「違う」

 レナ。

「もう、人じゃない」


「……分かってる」

 エッグ。

「……でも」


 影が、突然動いた。


 速くはない。

 だが、一直線。


「――来るぞ!」


 ユウが動く。


 影の足を払う。

 だが、完全には倒れない。


「……硬い!」

 カイ。


「急所が分からない」

 レナ。


 俺は、剣を構える。


 斬る。

 躊躇はない。


 ――だが。


 刃が、止まった。


 影の覆いの隙間から、

 一瞬だけ――目が見えた。


 恐怖。

 混乱。

 そして――認識。


「……シオン!」

 フェリス。


 俺は、歯を食いしばる。


(……人だ)


 いや、

 人だった。


 俺は、剣を横に振る。


 首ではない。

 胴でもない。


 脚。


 影が崩れ落ちる。


 倒れた影は、もがく。

 だが、起き上がれない。


「……終わらせる」

 レナが静かに言う。


 魔法が放たれる。


 影は、静かに動かなくなった。


 沈黙。


 エッグは、動かなかった。


「……」

 唇が、震えている。


「……見たか」

 俺は、低く聞いた。


「……ああ」

 エッグは答えた。

「……でも、あいつじゃない」


「分かるのか?」

 カイ。


「……分かる」

 エッグ。

「……まだ、違う」


 アリスが、影だったものを見下ろす。


「……第一層」

 ぽつりと。

「ここは、まだ“途中”」


 その言葉が、重く落ちた。


 つまり。


 これより先がある。


 フェリスが、剣を納めないまま言う。


「……進む」


 誰も、止めなかった。


 だが、全員が理解している。


 ここから先は――

 覚悟がいる。


 人だった痕跡は、もう消えない。


 そして。


 エッグの探している“仲間”は、

 この先にいる。


 それだけは、確信できた。


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